それは単に食材だけでなく、地域の景観や街の佇まい、使われている地元産の食器から、店員さんの方言まで、すべてが一体となって「美味しい旅」の魅力となります。
これらを味わう「ガストロノミ―ツーリズム」(※1)という言葉も数年前から盛んに使われるようになり、今では観光誘致の有効な施策としてさまざまな自治体で取り組みが始まっています。
歴史ある温泉の街で佐賀の美食を楽しむレストランイベント
佐賀県が主宰者となって県内の料理人が佐賀の食材と器への理解をより深め、磨いてきた自身の技術や感性などを表現・発信する場として2021年から始まり、今回が3回目の開催となりました。
舞台となった嬉野市は、日本三大美肌の湯と称され1200年以上の歴史がある温泉の町。霧深い山々に囲まれ、江戸時代には長崎街道の宿場町として栄えた嬉野市は、お茶の栽培に適していたことから「うれしの茶」の生産が盛んであり、また日本を代表する焼き物の産地、有田もすぐ近くです。
まずは今回供される料理やデザートを担当するシェフ2名が登壇。ひとりは海外の著名なレストランを渡り歩き、今年7月に縁あって佐賀の「SHINZO&arita huis」のシェフに就任した池田孝志さん。そしてもうひとりは銀座のイノベーティブ・イタリアンの名店「FARO」のシェフパティシエであり、今年、パリ発のレストランガイドブック『ゴ・エ・ミヨ ジャポン2022』でベストパティシエ賞を受賞し、世界でも注目を集める加藤峰子さんです。今回はこのふたりがコラボした食事イベントなのです。
2つの才能が結実した斬新でアートフルな料理の数々
美術館に飾るような器を使用とありましたが、杉板の上に置かれて出てきたのは有田焼の原料となる陶石で、これを器に見立てるという遊び。隣には嬉野温泉の名物でもある温泉湯豆腐、さらに枝ぶりの良いチャノキをはさんで氷出しの嬉野茶。この地域の3つの名物を、まずは挨拶代わりに一枚板に盛り込んで見せるという趣向なのでした。
また「FARO」の加藤さんも花やハーブを使った繊細で美しいデザートが有名ですが、その鋭い美的センスはここでも見事に発揮されていて、思わず見とれてしまう素晴らしさ。ふたりのタッグで、なんともアートなメニューが出来上がっていきます。
あのダチョウに似た、大きくてやたら足の速い“飛べない鳥”
「美味しい気づき」をもたらしてくれる価値のある時間
「食べる」ということ自体の意味に無頓着ではいられない今の時代だからこそ、「美味しい気づき」をもたらしてくれる今回のような試みは、特段に価値のある時間だと思いますし、食事の後には大きな満足感が広がりました。
ほかにも「GuziとGuza」に合わせた最高峰のスプマンテとして知られる「ジュリオ・フェッラーリ」のロゼや、エミューの肉にはイタリアワインの至宝「サッシカイア」などマニア垂涎の酒が惜しげもなく供され、「FARO」、大丈夫か? と思わず心配になるほどの大盤振る舞いで嬉野の夜は更けていったのでした。
世界の美食家を満足させるコンテンツづくりができるのか
そして、ここ何年も各地でさまざまな試みがなされていますが、持続的に成功している例は少なく、そこには色々な問題点もありそうです。
とはいえ、そのような、日本、そして世界の美食家を満足させるだけのコンテンツづくりができる自治体はかなり限られているのも現実です。その中で佐賀県は、この日、県知事の山口祥義さんも参席されていましたが、知事の理解と優秀なスタッフに恵まれているようで、かなり先を走っていると感じました。
同様の取り組みを行おうとする多くの自治体にとっては良い参考事例になるのではないでしょうか。この12月には奈良で「UNWTOガストロノミーツーリズム世界フォーラムin奈良」(※2)が開催されますし、「USEUM SAGA」も来年に第4弾が開催されるそうなので、そちらも注目したいところです。
日本の地方は美味しい! その潜在能力の高さを改めて実感したイベントでした。
USEUM SAGA
HP/https://www.useumsaga.com/
SHINZO
HP/https://wataya.co.jp/facility/shinzo