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2023.04.09

【第29回】栃木のラーメン

栃木の美味いラーメンは食べ歩くのもひと苦労!?

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博 編集/森本 泉(LEON.JP)

栃木のラーメン 山本益博 LEON.JP
山形同様、栃木もラーメン王国である。那須塩原の「焔(ほむら)」はじめ、宇都宮にも小山にも佐野にも評判の高い人気店がいっぱいある。東京から宇都宮へは新幹線を使えば、日帰りはいとも簡単だが、ラーメン一杯食べるだけで新幹線はちょっとばかげている。東北の仙台、山形に出かけた際に途中下車して食べるのがちょうどよい。
だが、ここで難問が立ちはだかる。評判の店になればなるほど、駅から遠くにあるのだ。その理由の一つは、ほとんどの客がクルマでやってくるのでできるだけ大きな駐車スペースを確保する必要がある。すると、どうしても駅の近辺ではラーメン屋を立ち上げにくいというわけだ。
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▲ 那須塩原「手打 焔(ほむら)」の外観。
那須塩原の「手打 焔(ほむら)」は駅前からバスに乗って行ける場所にはあるが、1時間に2本、時間によっては1本しか走っていない。仕方ないから、行きは駅前からタクシーで、帰りはバスに乗ることに決め出かけた。

タクシーの運転手はよくご存知で、時間にして20分ほどで「焔」に着いた。開店の20分前に到着すると、すでに10名ほどの先客が並んでいた。冬だが晴れていたので、さほど苦にならずに並んでいると、開店時間近くなるにつれ、続々とクルマが集まってきた。
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▲ 「手打 焔(ほむら)」の「チャーシューワンタンメン」。
店に入ると、色紙が壁いっぱいに並んでいて、さすがに県外までその名が知られている名店であることが判ろうというもの。期待がますます膨らんで、注文したラーメンを待った。スープと麺と具のバランスがよく、味わい深い名品だったが、忙しいためかせっかくその都度チャーシューを切りながら、切り方が乱雑で、それだけが印象に強く残ってしまった。

帰りは、店から1分ほどのバス停で15分ほど待ち、那須塩原駅まで25分ほどで戻ってくることができた。

行はタクシー、帰りは駅までてくてく歩いて25分

小山の「中華そば 卯月屋(うづきや)」は山形からの帰途に途中下車して、立ち寄った。近くまでバスはなく、駅前からタクシーで出かける。「卯月屋」はまだ開店してから1年ほどで、タクシーの運転手は「ひょっとすると、あの店かな」と言いながら走り出した。
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▲ 小山の「中華そば 卯月屋(うづきや)」の外観。
「小山はラーメンの激戦区だよ。実は親父はラーメン屋やっていたんだ」とおしゃべりしながら、10分もかからずに店に着いた。「あの店かな」の見当は正解だった。午後2時ごろだったせいか、店前に客が並んでいない。すぐに席に座れた。この店の主人、調布の名店「しば田」で修業されたとのことで、興味が湧いたのだった。
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▲ 「中華そば 卯月屋」の「醤油そば」。
いただいたラーメンは師匠譲りというか、良き薫陶を受けたというか、品格のある鶏のスープを中心に麺と具がバランスよくまとまり、見事な一杯に仕上がっていた。

さて、帰ろうとして、タクシーを頼もうとすると、それが出来ませんとの返答だった。さあ、困った。駅まで歩いて戻るしかない。仕方なく、小山駅まで25分ほどてくてくと歩いた。ほんとに、クルマがないと地方都市のラーメン巡りは難しい。
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▲ こちらはご主人が修業した調布「しば田」の「醤油ラーメン」。.
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常連のお客様にクルマで送ってもらう幸運も

後日、こんどは同じ小山にある「ヨコクラストアハウス」へ出かける。こちらは、行きはタクシーで帰りはバスの予定である。タクシーの運転手が、場所を聞いて、店の名前はわからないが、「きっといつも人が並んでいるあの店かな?」と言って、クルマを走らせ始めた。

昼でも遅め、閉店間際が伺い時とわかってきたので、その時間目掛けて行ったのだが、まだ20人ほどが並んで待っていた。広い駐車場にはクルマが満車である。
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▲ 小山「ヨコクラストアハウス」の店内。
1時間ほど並んでカウンター席に呼ばれた。テーブル席まである広い店内、店名にあるように雑貨、コーヒースタンドまである。ほとんどの客が「昆布水つけ麺」を注文していて、ご主人の冷たくした麺を束ねて、髪を梳くようにしてまとめる仕草が手際よく、その所作が美しい。じっと見ていると、目が合った。店内で腰かけて待っている間にも視線を感じたのだが、私は眼があった際に軽く目礼した。
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▲ 「ヨコクラストアハウス」の「昆布水つけ麵」。
その「つけ麺」のヴィジュアルの美しいこと! 箸をつければ、やや硬めに茹で上げられた麺の味わい深いこと! あっという間に食べ終えて「ご馳走様でした! 素晴らしく美味しかったです!」とカウンター内の二人に讃辞を伝えると、ご主人が近寄ってきて「ひょっとして山本さんですか?」と言う。「そうです」と答えると、「よく似た人がいるなあと思っていたのですが、まさかここまでいらっしゃるわけはないと」。そのやり取りをカウンターの並びで聴いていた常連客の方が「私はわかっていましたよ」と話の輪に入ってくださった。
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▲ 「ヨコクラストアハウス」の店前にて。右から2人目がご主人の篠塚浩一さん。
帰りのバスの時間まですこし余裕があったので、ご主人篠塚浩一(ひろかず)さんがかつてフランス料理の料理人だったことまで分かった。「コーヒーを飲んでいきませんか?」と誘われ、また話に花が咲く。いよいよバスの時間が近くなった時、先ほど声をかけてくださった常連のお客様が「私のクルマで、駅までお送りします」と申し出てくださった。「この店まで来て、バスで帰すことなどできません」と。そのお言葉に甘えることにした。栃木・小山の「ラーメン人情旅」の一席。
全国各地に点在する評判高いラーメン店は、昭和以来の「ドライブイン」の歴史をベースに成り立っているように思え、隣の市町村へ、さらに県をまたいでまで出かけるラーメン文化圏をマイカーのラーメンファンが支えていることをいまさらながら教えてもらっている。

手打 焔 Twitter/手打 焔
中華そば 卯月屋 Twitter/中華そば 卯月屋
ヨコクラストアハウス Instagram/YOKOKURA_STOREHOUSE

山本益博 LEON.JP  ラーメン革命!

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

山本益博 YouTube  MASUHIROのうまいのなんの!

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「山本益博のラーメン革命!」、他の記事はこちらから!
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