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2023.06.25

【第34回】埼玉のラーメン

埼玉ごめんなさい。こんなに美味いラーメンがあったとは

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博 編集/森本 泉(LEON.JP)

埼玉 ラーメン 山本益博 LEON.JP
三遊亭円丈作「悲しみは埼玉へ向けて」は、かつて足立区保木間に住んでいた円丈が、自虐的に荒川区足立区を笑いの種にした地噺(落語家がナレーターになって、噺を進めてゆく。通常登場人物はなく会話もない)の落語。

まず北千住が埼玉の「隠し玄関」として紹介され、三ノ輪、南千住、竹ノ塚、小菅、西新井が俎上に挙げられ、埼玉は越谷しか登場しない。足立区は東京の極北で「寂しく、悲しい」といい、埼玉はさらにその先にあるという。

この落語は、かつての埼玉、それもわずか25年ほど前である。ひどいことに「ダサイタマ!」などと侮蔑されたこともある。いま思い出しても、埼玉までわざわざ食べに出かけたのは、浦和に鰻を楽しみに、大宮にフランス料理店を訪ねたくらいしかない。

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それが、2001年「さいたま市」が誕生し、「スーパーアリーナ」の最寄り駅は「さいたま新都心」駅とイメージチェンジが進み、大宮は将来、首都圏のハブ都市になるという。

麺の美味さが尋常じゃなかった「かねかつ」のつけ麺 

この連載を始めて、ようやく埼玉県へラーメンを食べに行く気持ちが生まれた。まずは北本の「支那そば心麺」。ラーメンの鬼と呼ばれた佐野実系のラーメン。混み合う時間を避けて出かけたが、それにしても客は私一人で、ラーメンの味も、なにかすこし寂しかった。
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埼玉 ラーメン 山本益博 LEON.JP
▲ 「鈴ノ木」の「淡麗つけ麵」。
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気持ちを入れ替えて数日後、狭山ヶ丘の「鈴ノ木」へ向かう。今度は、大勢の客が並んでいる。券売機で「淡麗」に惹かれて「つけ麺」を選んで、席に着く。

左右を見渡すと、ほとんどの客が「醤油ラーメン」を食べている。もし、気に入ったら次回は「醤油」と心に決めて、「淡麗つけ麺」を待った。これが、スープと麺が見事な相性を見せて、とてもよかった。

次回はいつにしようか? と思案しつつ、帰りの西武電車に乗り込んだ。

続いては北浦和の「かねかつ」。JR「北浦和」駅から歩いて2分が魅力で選んだ。これが大当たり。「つけ麺」を食べたのだが、麺の美味さが尋常じゃない。何より、温度がいい。冷たすぎず、麺の味わいがしっかりとわかるほどよい冷たさ。小麦の香り、味わいが口腔を満たす。この麺に匹敵する麺はすぐに思い出せないほど。
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埼玉 ラーメン 山本益博 LEON.JP
▲ 「かねかつ」の「つけ麺」。
それに負けじとスープも秀逸。チャーシューは別盛で、スープにはメンマも入っていない。簡潔を極めた「つけ麺」と呼んでよい。チャーシューもホロホロ鳥を使い、味わい深いチャーシューで、いまのところ、我が最愛の「つけ麺」といってよい。

その後、あまり間を置かずに、両店を再訪した。「鈴ノ木」の「醤油ラーメン」、「かねかつ」の「新玉とたらこのまぜそば」、どちらも素晴らしいラーメンだった。
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埼玉 ラーメン 山本益博 LEON.JP
▲ 「鈴ノ木」の「醤油ラーメン」。
北浦和が近い大宮の友人に「かねかつ」のことを伝えると、にわかには信じがたいとのことだった。もしも「ミシュラン」の埼玉篇が東京篇に付随して出るようだったら、きっとビブグルマンはつくと思うというと、ようやく真顔になって、必ず出かけてみるとのことだった。
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▲ 「かねかつ」の「新玉とたらこのまぜそば」。
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麺よりスープより、はじめのナルトが、うまいの、なんの!

こうなると、埼玉県の人気ラーメンの常連店、東松山の「深緑(ふかみどり)」へどうしても行かなくてはならない。店の場所を調べてみると、車で出かけないとかなり厄介なところに店があるのだが。

意を期して、平日にナビを頼りに杉並区から出かけた。少し余裕を見て、11時開店の30分前には着いていようと、家を9時に出た。ところが、一般道も関越道も空いていて、10時過ぎには着くとの予想だった。店に一番乗りかなと思っていると、なんと、すでに若い3人の男性が、店が用意してある椅子に座っていた。私が4人目、どうやら1回転目で食べられそうだと思っていると、みるみる私のあとに客が並び始めた。開店の11時には20人以上が並んでいる。「深緑」恐るべし。
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▲ 「中華そば 深緑」の外観。
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一番人気の「黒出汁」を選んで、席に着く。清潔感溢れる店内。カウンターには調味料、薬味の類は一切なく、冷水が入ったピッチャーのみ。出来上がりの一杯をそのまま賞味して欲しいという、この心意気が素晴らしい。

こうなると、こちらもまずは腕まくりをして、ラーメンの登場を待った。まずはナルトに眼がゆく。カウンター内には「籠清」という小田原の蒲鉾の名店の立て札があり、このナルトこそ「籠清」製と思わせ、箸で摘まむと、厚みがある。麺よりスープより、はじめにこのナルトをいただくと、うまいの、なんの!
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▲ 「深緑」の「黒出汁」。
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スープは深みがあって、塩味が強くなく、まあるい醤油味。麺も小麦の味わいあり、さらに驚いたことにメンマは筍の味がしっかりと伝わってきた。青味も香り高く、全てが申し分ない。

スープを飲み干すと、じわじわと感動が押し寄せてきた。そして、1日たった今日も、まだその感動が収まらない。東松山の「深緑」に最大の敬意を払いたい。今度は「白出汁」だ!

自家製手もみ麵 鈴ノ木/Twitter
らーめん かねかつ/Twitter
中華そば 深緑/Twitter





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山本益博 LEON.JP  ラーメン革命!

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

山本益博 YouTube  MASUHIROのうまいのなんの!

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YouTube/MASUHIROのうまいのなんの!

「山本益博のラーメン革命!」、他の記事はこちらから!
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