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2023.08.13

【第37回】冷やし中華をおさらいする

いま、東京で一番美味い「冷やし中華」はどこだ?

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博 編集/森本 泉(LEON.JP)

冷やし中華 山本益博 LEON.JP
一説によると、「冷やし中華」は神保町の「揚子江菜館」がはじめたと言われている。昨年久しぶりにいただいたが、売りは「名物」のみで、「古典」の威厳は感じられなかった。今回改めて出かけた「古典派」の東銀座「萬福」も三鷹「みたか」も初めて訪れた浅草「あさひ」も、ほぼ「郷愁」のみの感想だった。さらに行列ができるほど人気だからと人に薦められて出かけた大橋「鶏舎」も、なぜこんなに人が並ぶのか、その良さが理解できなかった。
ただし、SNSで評判の幡ヶ谷「龍口酒家」の「ゴマダレ冷やし麺」は違った。ごまだれが香り高く、食欲を掻き立てる酸味もあり、なによりクロレラ入りの緑の麺によく調和する。しばらくたって再び出かけ「冷し醤油タレ麺」を食べた。茄子のてんぷらが添えてあるのだが、これが揚げたてだったら、さぞ素敵な「冷やし中華」になっただろうにと思われた。
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冷やし中華 山本益博 LEON.JP
▲ 幡ヶ谷「龍口酒家」の「ゴマダレ冷やし麺」。
そんな折も折、我が町西荻窪に「冷やし中華」専門店が生まれたとの情報が入ってきた。その名も「HiyaChu」という。以前の吉祥寺から西荻窪に移り、毎週木、金、土の3日間昼のみの営業とのこと。夜はバーになるという。店は西荻窪駅近く、1階が夜のみのトラットリアのイタリア料理店で、その店の中を通って2階に上がるという、極めて変則的な「冷やし中華」専門店。
冷やし中華 山本益博 LEON.JP
▲  西荻窪「HiyaChu」の外観。こちらのビルの2階にある。
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7月末にできたばかりで、その1週間後の木曜日、初めて出かけた時、開店時間の11時半がやや過ぎた頃、店の前に立つと、看板は出ているものの、トラットリアの店の扉を開けると、店はがらんとしていて、誰もいない。そのひと気のない店内を通り抜け、殺風景な階段を上ってゆく時、やや心配になった。本当にこの先、ラーメン屋があるのかと。

果たして、2階の店の扉を開くと、なんとすでにカウンター席に5人もの客がいた。これには、びっくりしたが、カウンター内の「冷やし中華」の作り手は女性で、これにも少々驚いた! 秘密の店でも、会員制の店でもないのに、新しい店の営業開店時間早々にお客さんが詰めかけている⁉ これが、いまの日本のラーメン界の現状なのだと思うと、改めてラーメンの魅力の広さと深さに驚いてしまう。
冷やし中華 山本益博 LEON.JP
▲ 「HiyaChu ブラック」は醤油味。
メニューは「ブラック」と「グリーン」の2種のみ。「ブラック」は醤油味で、「グリーン」は辛さが売りである。美味しければ、明日またやってきて「グリーン」をいただくことと決め、「ブラック」を注文した。これが「古典」の「冷やし中華」を改革した現代版の「Hiya Chu」、ツナのペーストがオリジナルで、素敵なアクセントになっている。大満足で店を出た。
冷やし中華 山本益博 LEON.JP
▲ 「HiyaChu グリーン」は辛さが売り。
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翌日、「グリーン」を食べに再び店の開けはなに出かけたのは言うまでもない。勇んで店の前まで来ると、看板に「本日貸切」の札が! この日を逃すと原稿締め切りに間に合わないと、強引に2階に上がってゆくと、すでに女性客がカウンターに並んでいた。空席があったので懇願すると、女店主は前日来たことを覚えていてくださって、私の無理を快く聞いてくださった。
この「グリーン」が「ブラック」に負けじと美味しかった。私は「辛さ」には弱いので「ブラック」をつい贔屓にしてしまうが、次回はどちらにするか迷うに違いない。普通にして、尋常ではない「HiyaChu」である。
そろそろ、原稿をまとめなければと思っていたところ、今度はラーメンフリークのフーディーからメッセージが入った。「代々木八幡のお惣菜ともんじゃの店が、昼のみラーメンをつくっていて、いま、イタリア料理の落合シェフが監修した『イタトマ醤油らーめん』がお薦めです」と。麺はなんと「開化楼」不死鳥カラスさんがわざわざ作っているとのこと。
冷やし中華 山本益博 LEON.JP
▲ 代々木八幡「さとう」の「イタトマ醤油らーめん」。
店の名を「さとう」という。これがお見事と言うほかないラーメンで、メニューは「温と冷」の2種。「冷」をいただいたが「冷やしラーメン」とも「冷やし中華」とも呼べる超逸品。鶏ベースの出汁と昆布ベースの出汁を合わせた妙味あるスープが秀逸。これに細めで硬めのストレート麺がよく合う。

添えてあるトマトを一緒に食べる、カイワレ大根をからめる、「ラウデミオ」のオリーヴオイルをひと廻しかけてたべる。すると、味のグラデーションがどんどん高くなって、ハリッサの辛みを加えると頂点に達する。現代最高峰の「冷やし中華」ではなかろうか。このラーメン、期間限定で、店の方に伺うと8月1日から20日辺りまで作りますとのことである。

幡ヶ谷「龍口酒家」 X(Twitter)
西荻窪「HiyaCyu」 X(Twitter)
代々木八幡「おそうざいと煎餅もんじゃ さとう」 Instagram

山本益博 LEON.JP  ラーメン革命!

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

山本益博 YouTube  MASUHIROのうまいのなんの!

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「山本益博のラーメン革命!」、他の記事はこちらから!
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