「テタンジェ」と「ロブション」のコラボによる究極のディナーが開催された理由とは
しかるに縁あって、先日その門をくぐる機会に恵まれました。伺ったのは、1932年の創業以来、家族経営を続けている希少な大手シャンパーニュメゾン「テタンジェ」が、「ガストロノミー“ジョエル・ロブション”」とコラボした特別なディナーイベント「TAITTINGER at ガストロノミー“ジョエル・ロブション”」。
優勝により世界的な評価を得た関谷シェフは、さらにこれをステップに、フランス料理界最高の称号“M.O.F.2023”(フランス国家最優秀職人章)を日本人で初めて受賞。そこで、フランス料理の伝統と技術を次代へと繋いでいく役割を担った関谷シェフと、それを支え共に歩んで来たテタンジェとのコラボレーションディナーが実現したという次第。
次にシェフソムリエの高丸智天さんが、本日のコース料理にマリアージュされるテタンジェとその魅力について説明してくれました。今回は4種類のシャンパーニュが用意され、中には大変希少なキュヴェもあるとか。期待は膨らみますが、一方でスティルワイン(非発泡性ワイン)なしでメゾンのコース料理すべてに対応が可能なのか、多少の不安もありました。しかし、後に己の不明を恥じることとなるわけで……。
007も愛した「食べるシャンパン」の力強さと厚みのある味わいとは
スターターとなるシャンパーニュはテタンジェ社のスタンダード・キュヴェ「テタンジェ ブリュット レゼルヴ」。高丸シェフソムリエによればメゾンにとっては毎年安定した同じ味を作らねばならないスタンダード・キュヴェが一番難しいのだとか。こちらは主に完熟したブドウを使って、そこに複数年のリザーブワインをアッサンブラージュして作られたもの。今回はマグナムボトルで、より古いリザーブワインも使われているとあって、最初の印象は軽やかで繊細なのですが、中盤からは熟成度と複雑性が感じられる一杯でした。
こちら、10年熟成して出荷していますが、熟成させることで本領発揮していくタイプのシャンパーニュなので、この先15年ぐらいはコント特有の香りとはじけるような力強さや厚みのある味わいが楽しめるそう。まさに「食べるシャンパン」と呼ばれる、その言葉にふさわしいプレステージュのシャンパーニュなのでした。
テタンジェの中で最も生産量が少なく希少性が高いロゼとほろほろ鳥の相性
合わせるキュヴェは「プレリュード グラン・クリュ」。グラン・クリュのブドウを使って作る上質なシャンパーニュです。シャルドネとピノ・ノワールを50%ずつアッサンブラージュして、瓶詰して5年熟成。とはいえ、そこまで熟成感は感じさせず、柑橘系の香りと、中盤にはリンゴのようにちょっと甘くリッチな香りが入って、そこにトーストした香りが加わるというテタンジェならではのスタイルです(と、これも高丸シェフソムリエの受け売り)。
こちらに合わせるのは2007年の「コント・ド・シャンパーニュ ロゼ」。コントはブラン・ド・ブランの印象が強く、ロゼはあまり知られていませんが、テタンジェの中では最も生産量が少なく希少性が高いキュヴェなのだそう。グラン・クリュのシャルドネ30%とピノ・ノワール60%、それにシャンパーニュの赤のスティルワイン(ピノ・ノワール)をブレンドすることでベースのワインに厚みを持たせており、中盤から後半にシャルドネ由来の上等な酸味が長い余韻を作り出しています(と高丸シェフソムリエ)。
更にそのあと出されたデザートのジュレにも「ノクターン・セック」を使っているということで、この日はまさに最初から最後までテタンジェづくし。しかし、シャンパーニュでもこれだけ味わいの幅があると、百花繚乱のロブションの料理にも負けないどころか、さらにその味わいを引き立てる素晴らしい化学反応を産みだすことに驚かされました。恐るべしテタンジェ、恐るべしジョエル・ロブション。ということで、最後に関谷健一朗シェフにお話を伺いました。
M.O.F.受章の関谷健一朗シェフに聞いたテタンジェとロブションの関係
関谷シェフ(以下、関谷) 今回は高丸シェフソムリエとともに“シャンパーニュあっての、テタンジェあっての料理”を考えました。シャンパーニュを美味しく味わっていただく。料理は素材を活かしつつ、尖ったり、強すぎないことを意識、スパイスも効かせすぎないようにしました。ホロホロ鳥を選んだのも、赤身の肉よりも白身の肉の方がシャンパーニュと合うと考えたからです。その中で定番の『キャビア・アンペリアル ロブションスタイル』、旬の白トリュフなどもお楽しみいただける構成にしました。白トリュフが登場するのは今年初めて。いいタイミングでした。また、料理全体で意識したのは“ふくよか”という言葉です。
── 関谷シェフにとって「テタンジェ」はどんなシャンパーニュですか?
関谷 テタンジェというメゾンについては、家族で経営されているところが好きです。品質や哲学が代々と受け継がれ、繋がっていく。4代目のピエール=エマニュエル・テタンジェさん、長男のクロヴィスさん、長女で現社長のヴィタリーさんもお会いすれば優しく声をかけてくださる。あたたかい方々で、M.O.F.受賞の際もメッセージをいただいたり、交流が続いています。
── テタンジェのコンクールで賞をいただいたことは、どのような意味がありましたか? それが自信になりましたか?
関谷 コンクールへの参加は今までやってきたことの成果を確かめるチャンスだという認識でした。普段自分が作っている料理がどう評価されるかを知りたかったのです。だから評価されて自信がついたというより、やってきたことは間違いじゃなかったという確信が得られてうれしかったです。今後もこれまでやって来たことを軸にして続ければよいのだということがわかりました。
関谷 そうですね。テタンジェのコンクールがなければM.O.F.への挑戦もなかったでしょうね。
── 受賞で亡き師ロブションさんも喜んでいらっしゃるのでは?
関谷 彼も僕がM.O.F.挑戦することは知っていたので、「(取って)当たり前だろ」と言ったんじゃないかな(笑)。
関谷 普通、フランスで使っている魚は大きいものが多く、ウロコも大きくて食べるには向きません。でも日本では小さくて美味しい魚が手に入るので調理しています。最近は、フランスでも小さな魚を使ってウロコまで食べさせる料理人が出てきましたね。
もともとフランス料理は生きているものを丸ごと使う。動物なら肉だけでなく骨も筋も脂も血も使うし、野菜も皮まで捨てません。その意味では元来SDGsな料理だと思います。ただ、それは単に合理的というだけでなく、生きているものへの感謝の気持ちがあるのだと思います。無駄なく使うという事では日本とも通じるところがあるのではないでしょうか。
関谷 あくまで目指すゴールは「フランスと同じ味」です。日本のお客様が多いからと言って日本的にとは考えません。ただ、当然、フランスと日本では素材も違う。日本の素材を使えば、向こうと同じ調理法では同じ味は出せません。途中の調理工程を工夫して同じ味にたどり着けるようにしています。本当に美味しいものは誰が食べても美味しいのです。そういう料理を目指しています。
ガストロノミー“ジョエル・ロブション”
住所/東京都目黒区三田1-13-1 恵比寿ガーデンプレイス内 シャトーレストランジョエル・ロブション2F
営業時間/ランチ 11:30~ (L.O.13:00)※土・日・祝のみ
ディナー 17:30~ (L.O.20:00)
定休日/不定休
TEL/03-5424-1347
HP/ガストロノミー “ジョエル・ロブション”