2024.02.25
【第50回】 中華そばの「醤油」の存在感
日本に中華そばが根付いた秘密。「醤油」の、ある効果とは?
日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。
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文・写真/山本益博 編集/森本 泉(LEON.JP)
昨年夏に出かけると、店の前には行列と人だかりで、駐車場には車がびっしりと並んでいた。順番が来て呼ばれ、店の中に入ると、ラーメンを食べている人より、中華料理のメニューを選んでテーブルを囲んでいる客のほうが目についた。メニューを見れば、確かに「支那そば」とある。迷わずに「支那そば」を注文すると、眼の前に運ばれてきたのは、たっぷりの醤油スープに細めのちじれ麺、チャーシューにシナチク、ナルト、それに海苔という定番のラーメンだった。
「中国には支那そばラーメンという言葉も品物もない。肉や脂の匂いがするスープは明治の時代、当時の日本人に受けるものでなかった。醤油を入れる事で見事に獣臭を消し、日本で生まれた支那そば・東京そばが誕生した。時は明治三十八年」
読み返しながら「醤油を入れる事で見事に獣臭を消し、日本で生まれた支那そば・東京そばが誕生した」の一説に妙な共感を覚えたものだった。
やはり書き出しは「ラーメンの基本ジャンル20」の「醤油」で「塩味が基本であった中華の麺類。それが日本で人気を博すきっかけの1つが、日本人になじみふかい、グルタミン酸豊富な醤油を使用したこととされる。ゆえに日本ラーメンのアイデンティティとも言える味、調味料」
「醤油」こそは、明治以来今日まで、ラーメンを土台から支えてきた立役者の「調味料」だったのだ。
麺も出しゃばらない、控えめな味。チャーシューは昔ながらの煮豚の味。あまりの手ごたえのない味わいに、この手のラーメンを敬遠する人がいるかもしれないが、往年の「中華そば」を楽しめるラーメンだと思うと、素朴なラーメンの原型にあったような懐かしさを覚える、誠に貴重な「中華そば」に思えるのだった。この味がいつまでも続きますようにと祈りながら、店を後にした。
● 山本益博(やまもと・ますひろ)
1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique
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