2024.03.10
【第51回】 「王道を往く」ラーメン!
「春木屋」「はつね」「ぜんや」……王道を往くラーメン・クラシックの魅力とは?
日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。
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文・写真/山本益博 編集/森本 泉(LEON.JP)
私は、荻窪のとんかつ「たつみ亭」へ足繁く通うファンだが、荻窪駅から3、4分の白山神社前にあるこの店へ出かける時、必ず「らあめん花月嵐」の前を通る。いつも素通りするのに、いつだったか、湯河原「飯田商店」の「らぁ麺」の幟が目について、一度だけ店に入ったことがあった。
今回が2度目なのだが、荻窪「春木屋」は駅から至近距離にあるのに、同じ荻窪で「春木屋」ではなく、「らあめん花月嵐」で、「春木屋」の「中華そば」を食べることにした。
店を出て、「ノスタルジック・ラーメン」のことを考えた。「春木屋」の「中華そば」は、よくいう「ノス系」。郷愁をそそる「ノスタルジック・ラーメン」に類する。醤油ベースの味に、定番のチャーシュー、メンマ、など最小限の具がのっている。私はこういうラーメンが嫌いじゃない。いや、具が盛り込み放題の新種ラーメンより、ずっと好感が持てるのである。
そんなことを詮索していると、我が町西荻窪の「はつね」のラーメンが目に浮かぶのだった。
見た目が質素なばかりか、言ってみると「静かなる」ラーメン。丼一面、華やかで賑やかなラーメンではなく、静けさを湛えて凛とし、派手さはないが簡潔にして、永年の職人仕事で作り手の心意気が反映しているラーメン。食べると郷愁をそそるだけではない。今日的存在感が十分にある立派なラーメンである。
ラーメン競争が激しくなり、店も客も次第に刺激が嵩じて「激」とか「超」とかがついたラーメンを、知らず知らずに求めてしまう。
そういう中にあって、泰然と静かなラーメンを食べさせてくれる一軒が、埼玉・新座の「ぜんや」ではなかろうか。
ラーメンのスープは黄金色に輝き、どんぶりを持って、スープをひと口含むと、得も言われぬ味わいがじんわりと広がってゆく。「ぜんや」は塩ラーメンとしてよく知られているが、スープをじっくり味わうと塩味だけではない味わいを感じるので、あとでご主人飯倉さんに伺ったら「薄口醤油」をほんの少し使っているとのことだった。
● 山本益博(やまもと・ますひろ)
1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique
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