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2024.07.14

【第58回】 「町中華」と「うま味調味料」

「町中華」の“昭和の味”を演出する「うま味調味料」は悪者なのか?

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博 編集/森本 泉(Web LEON)

山本益博 ラーメン革命! WebLEON  町中華

「味の悪者」呼ばわりされた「うま味調味料」

このところ改めて「町中華」と呼ばれる大衆中華料理店のラーメン、餃子、炒飯を食べ歩くと、味わいの共通項と後味がおなじであるのに気が付く。それが「うま味調味料」である。味わいを安定させるには、抜群の力を発揮してくれるが、半面、没個性の味になることもしばしばである。
この「うま味調味料」とは「化学調味料」のことで、かつてNHKテレビで使いだしたのがきっかけで、「味の素」という商品名を番組内で使えないため考え出された名称だったという。
それが、「チャイニーズレストランシンドローム(中国料理店症候群)」と呼ばれた、食後の頭痛や吐き気の原因と名指しされ、味の悪者呼ばわりされるようになり、「化学調味料」はいっぺんに人気が衰退していった。各家庭に常備されていた「味の素」の赤い瓶が姿を消していったのも、確かこのころからである。
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「町中華」を特徴づける「うま味調味料」が復権!?

その「うま味調味料」が近年復権していることが、近刊の澁川祐子著「味なニッポン戦後史」(インターナショナル新書)に出てくる。現在では、科学的に「頭痛や吐き気」とは無縁で、無害であることは証明されたが、しかし、いまだにSNSで「うま味調味料」の是非論の論争が絶えないという。
現在、ラーメン界では「無化調」と言って「化学調味料」を使わずにラーメンをつくっていることを謳う店があり、いまや、「うま味調味料」に頼らずに味を仕上げることが、ごく当たり前になっている。
いまの「町中華」のブームを作ったきっかけと言われているのが「町中華とはなんだ  昭和の味を食べに行こう」(北尾トロ、下関マグロほか著、立東舎 2016年)だそうである。「町中華」のラーメン、餃子、炒飯から「うまみ調味料」が無くなったら、なんとも味気なくなってしまう。
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「昭和」のノスタルジーを感じさせる「町中華」を食べ歩く

月島の「町中華」として評判高い「健楽」で、ラーメン、炒飯をいただくと、昭和23年生まれの私は、「昭和」のノスタルジーを感じる味わいに痺れる。
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▲  月島「健楽」のラーメン(醤油味)。「健楽」(食べログ)
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 ▲ 月島「健楽」のチャーハン(スープ付き)。
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矢来町の「龍朋」や向丘の「兆徳」で誰しもが注文する「炒飯」も同様で、「うま味調味料」が「昭和」の味を支えている。なかでも「兆徳」の2種あるうちの「玉子チャーハン(塩)」は上出来である。店の壁には、亡くなった落語家の名人古今亭志ん朝の色紙がさりげなく飾ってある。
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▲  矢来町の「龍朋」のラーメン。「龍朋」(FaceBook)
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▲ 矢来町の「龍朋」の店構え。
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▲ 向丘の「兆徳」の揚げ餃子。「兆徳」(HP)
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▲ 向丘の「兆徳」の玉子チャーハン(塩)。
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▲ 「兆徳」の壁に貼られた古今亭志ん朝の色紙。
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「兆徳」に負けず行列が絶えない上野「中華珍満」の「餃子」「炒飯」はインバウンドのお客様にも大人気である。
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▲ 上野「中華珍満」の「餃子」。「中華珍満」(食べログ)
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▲ 上野「中華珍満」のチャーハン。
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▲ 「中華珍満」の店構え。
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同じく上野のガード脇に店を構える「珍々軒」は、客席の半分は店内からはみ出し、道路に設けられたテーブルと椅子でいただく「町中華」。
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▲ 上野「珍々軒」の店構え。「珍々軒」(食べログ)
この店は、YouTubeの「和食Japanese Food Channel」でたまたま見つけた。YouTubeの動画では、一切の説明なしで、料理の注文を捌いてゆく様子を延々と映し出してゆくのだが、その炒飯の調理の手さばきが見事で、熟練した職人仕事を目の当たりにする感じである。
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▲ 上野「珍々軒」の炒飯。
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▲ 上野「珍々軒」の厨房の様子。
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次から次へと注文がやってくるラーメン、炒飯を二人でさばく様子を見ていて、どうしても出かけたくなり、ある日の昼下がりに食べに出かけた。白飯がパラパラに仕上がって、うまいの、なんの!  
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▲ 上野「珍々軒」のラーメン。
二度目に出かけた時は、動画に出てくる職人と別の職人だったため、初回の感動はなかったのだが、それでも標準以上の味だった。三度目はラーメン。これまた「うま味調味料」に支えられた懐かしい「昭和」のラーメンで、具材が多くて、飾り立てるばかりのラーメンにはない簡潔な美味しさがそこには在った。
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山本益博 LEON.JP  ラーメン革命!

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

山本益博 YouTube  MASUHIROのうまいのなんの!

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日本初の料理評論家、山本益博さんが、美味しいものを食べるより、ものを美味しく食べたい! をテーマに、「食べる名人」を目指します。どうぞご覧ください!
YouTube/MASUHIROのうまいのなんの!

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