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2024.10.13

【第62回】 伊丹十三監督とラーメン

女主人がひとりで切り盛りするラーメン店「純麦」に伊丹十三監督の『タンポポ』が重なった

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博 イラスト/Isaku Goto 編集/森本 泉(Web LEON)

日本初の料理評論家、山本益博さんが、B級グルメから一流の料理へと変貌を遂げつつある街のラーメンに注目し、自ら実食リポートする連載です。
山本益博 ラーメン革命! WebLEON  純麦 伊丹十三

「店舗の構えの写真」や「住所」の公開はご法度

噂のラーメン「純麦」へ出かけてきた。ご存知の方も多いと思うが、店の席に着くのが容易じゃない。初めて自分でネットの「予約代行業」を通じて、席の予約をした。その後の案内によれば、「店舗の構えの写真」や「住所」の公開はご法度。その掟を破れば「移転費用を請求します」とのこと。大通りに出店して、電飾華やかに店をアピールするラーメン屋とは真逆の発想の「クローズド」な店である。
私は、どんなラーメンか何も知らずに、店名の「純麦」に惹かれた。「純麦」からは、シンプルでピュアなイメージが浮かぶ。ラーメン店のネーミングとしては傑作の部類に入るのではなかろうか。ビールの「金麦」よりいい。噂の大森「麦苗」出身で、女主人ひとりのラーメン店というだけで、そそられた。
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▲ 伊丹十三監督。
すぐに思い起こしたのが、伊丹十三監督の映画『タンポポ』である。

1960年代、英国の映画でピーター・オトゥール主演の『ロードジム』に出演するため、長期ヨーロッパ滞在をし、それをエッセイにまとめた「ヨーロッパ退屈日記」は、ダンディズムとスノビッシュに溢れた、一種貴族趣味の本で、例えば、当時まだ世に知られていなかったルイヴィトンの鞄に触れたエッセイで、それをハサミで切り取り「下駄の褄皮」にして履いていた話を読んだ時は、なんとキザで小粋なんだろうと、びっくりした。
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その貴族趣味の伊丹十三(エッセイを書いた当時は、伊丹一三で、名監督で知られた伊丹万作の息子である)が、東京の下町の郷土料理「ラーメン」をテーマに、宮本信子が女主人となり、孤軍奮闘する映画を作った。「マカロニウェスタン」が流行った頃で、それの「ラーメン」版と言ってよい。

私が「東京・味のグランプリ」という「すし、そば、てんぷら、うなぎ、とんかつ、ラーメン」と言った東京下町のソウルフードのガイドブックを出版していたことがきっかけで、伊丹監督に呼ばれ「美味しいラーメン屋の見分け方」をお伝えしたことを思い出す。
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▲ 「純麦」の主人、矢嶋純さん。
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最初に運ばれてきた「八寸」に意表を突かれた

「純麦」の席料は、ラーメン屋さんの常識を破るかなり高価なものだった。指定された時間ぴったりに店を訪れると、店内は簡素だが清潔で、カウンター8席。まずは、飲み物を決めなくてはならない。どんなものが出てくるかわからないまま、消去法でキリンのビールにした。席に着いたお客さん全員が、ハートランドだった。
しばらくして目の前に運ばれてきたのは、日本料理でいえば「八寸」で、小鉢などにつきだしの当たるような料理が盛り込まれていた。なんとも意表を突かれた感じで、箸を進めた。なかでは、「締めたかすご(小鯛)」が美味しかった。でも、ビールとは合わない。ひと昔前のラーメン屋だったら、常連がビールを頼むと、メンマが小皿に盛られて出てきたものだ。例えば、メンマをごま油に絡めて出てきたら、さぞビールと相性がいいだろうと思われた。
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▲ 「純麦」の八寸。
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出汁がほどよく香り、細めの麺とよく調和した逸品

いま、評判の日本料理屋では、京都の「浜作」でも東京の「明寂」でも「八寸」は出てこない。「浜作」では昆布と鰹節で引いたばかりの出汁を味わわせてくれる。「明寂」では、昆布と鰹節を使わず、素材の香りと淡くかすかな香りの出汁を楽しませてくれる。

「純麦」ならば、これくらいイノヴェーティヴなスターターを考えてもよろしいのではないかと思う。
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▲ 「純麦ラーメン」。
主菜に当たるラーメンは、出汁がほどよく香り、細めの麺とよく調和して「純麦」の名にふさわしい逸品だった。ただし、そのあとの白飯に薄片の肉を被せた一皿が、シンプル過ぎてアイデア不足を否めなかった。実山椒や木の芽を添えるか、溶き辛子をつけるかの工夫があってもよかったのではなかろうか。
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▲ 「純麦肉めし」。
デザートはかき氷。季節の果物のピューレなどをかけて、楽しませてくれる。

「純麦」は「麦苗」と女主人矢嶋「純」さんからきていると思われるが、飛躍できる伸びしろはまだまだいっぱいあるように感じられた。
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▲ 「純麦かき氷」。
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● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

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