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2025.01.26

【第69回】 大人のラーメンを探して「醤油」編

大人好みの美味い醤油ラーメンはどこにある?

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博 編集/森本 泉(Web LEON)

日本初の料理評論家、山本益博さんが、B級グルメから一流の料理へと変貌を遂げつつある街のラーメンに注目し、自ら実食リポートする連載です。
山本益博 ラーメン革命! WebLEON  醤油ラーメン

穏やかで奥ゆかしい「塩」を感じさせない炒飯

つい先日、四谷若葉町に開店したばかりの中国料理店「新楽記」へ出かけ、素晴らしい炒飯をいただいた。「脆貝旦白炒飯(干し貝柱と卵白のチャーハン)」で、なにが素晴らしいかというと、「塩」を感じさせない炒飯だったからである。いわゆる「町中華」でいただく炒飯は、必ずひと口目から「塩味」を感じる。具より米より、まず塩気で「うま味」を出そうとしている。
「干し貝柱と卵白のチャーハン」は、それがない。タイの長粒米をぱらぱらに炒めて、干し貝柱自体が持つうっすらとした塩気のみで食べさせる。なんとも、穏やかで奥ゆかしい味わいの炒飯で、私は久しぶりに米料理に感動した。
「新楽記」の「脆貝旦白炒飯(干し貝柱と卵白のチャーハン)」。
▲ 「新楽記」の「脆貝旦白炒飯(干し貝柱と卵白のチャーハン)」。
その数日後、笹塚にあるフランス料理「オーベルジーヌ」で食事した。この店でいただく料理には、ほとんど塩が使われていない。魚や肉や野菜が持っているミネラル分を大切にして、その塩味のみで食べさせる。はじめは、塩が使われてないので、味気がないと感じるのだが、この日は山芋のスフレをいただいた時、土の香りと味がじわじわと伝わってきて、その味わいが体に染みわたった。
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油脂を介在しない本来の「うまみ」とは

いま、日本料理の最先端をゆく西麻布「明寂」で出てくるお椀は、昆布と鰹節で出汁をひくという伝統を思い切って捨て、椀だねと呼べるかどうかわからないが、例えば「輪切りの新玉ねぎ」だけがお椀の中に浮かんでいる。塩気をいっさい感じさせず、玉ねぎの香りと甘みの中にミネラルを感じさせる仕掛けになっている。こういう「お椀」は、美味しさが向こうからやってくるのではなく、こちらから迎えに行かなければ「うまみ」はいつまでたっても「無味」のままである。
真逆の例を一つだけ挙げよう。日本料理の「かんだ」にフランスを代表するグランシェフがやってきて「お椀」を出した時、あまりの味のなさに、かれは「塩」を要求し、椀だねのしんじょにその塩をつけて食べ、あとはそのまま返したところで、「何でスープに味をつけないのか?」と質問してきたという。油脂を介在しない本来の「うまみ」は、フランス料理のグランシェフといえども、そうそう簡単にはわからないということだ。

今のラーメン大好きの若者たちのほとんどは、すべからくこのフランスのグランシェフと同じ舌を持ち合わせていると言わざるをえない。
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具が盛りだくさんでないという共通項

例えば、西荻窪「はつね」湯島「ラーメン大至」銀座「中華そば 共楽」など伝統派と呼んでよいラーメンをいただくと、醤油味はしっかりと感じるものの、さほど食後まで味を引きずらない。私が食べてきた中での、その最高峰は新座「ぜんや」と白河「とら食堂」のラーメンで、共通項はといえば、具が盛りだくさんでないことだろうか。具が増えれば増えるほど、チャーシューや鶏油などの油脂が多くなれば多くなるほど、塩分が必要になる。
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▲ 新座「ぜんや」のぜんやラーメン。
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▲ 白河「とら食堂」の手打ち中華そば。
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どんぶりが大きくなり、表面が広くなれば、当然、具が多くなる。ここで麺とスープのバランスをとることのなんと難しいことか。

この手のラーメンを伝統派に対して改革派と呼ぶとすると、今まで食べた中で極めて印象高いのは、東京では、三ノ輪「ラーメン屋 トイ・ボックス」、早稲田「らぁ麺やまぐち」、浅草橋「饗 くろ㐂」、三鷹「麵屋さくら井」、近郊では東松山「中華そば 深緑」、つくば「中華そば ひしお」。地方では、札幌「Lab Q」、湯河原「らぁ麺 飯田商店」、京都「拳ラーメン」、大阪「カドヤ食堂」「燃えよ麺助」、尼崎「ロックンビリ―S1」だろうか。
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▲ 三ノ輪「ラーメン屋 トイ・ボックス」の醤油ラーメン。
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▲ 早稲田「らぁ麺やまぐち」の鶏そば。
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そうそう、葛飾亀有にあった「ののくら」のスープが、色合いは漆黒なのに穏やかでまろやかなうま味十分の醤油ラーメンだったことが、いまとなってはなんとも懐かしい。
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▲ 亀有「ののくら」の中華そば(醤油)。店は店主の急逝により2023年3月に惜しまれつつ閉店となった。
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山本益博 Web LEON ラーメン革命!

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

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日本初の料理評論家、山本益博さんが、美味しいものを食べるより、ものを美味しく食べたい! をテーマに、「食べる名人」を目指します。どうぞご覧ください!
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