• TOP
  • GOURMET
  • 「貝出汁」のラーメンは魅力的ではあるが、とても難しい!

2025.02.23

【第71回】 貝出汁のラーメン

「貝出汁」のラーメンは魅力的ではあるが、とても難しい!

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博 編集/森本 泉(Web LEON)

日本初の料理評論家、山本益博さんが、B級グルメから一流の料理へと変貌を遂げつつある街のラーメンに注目し、自ら実食リポートする連載です。
山本益博 ラーメン革命! WebLEON 貝出汁ラーメン

あさりとスパゲッティ、はまぐりと素麺。貝と麵には古典的な相性がある⁉

いま、半年ぶりにヨーロッパに来ている。

ミラノに「アルポルト」というリストランテがあり、初めて出かけたのはいまから40年ほど前、イタリア料理のシェフ片岡護さんに連れて行ったもらった。片岡さんのイタリアでの修業先だったという触れ込みで、東京の自分の店におなじ「アルポルト」と名付けたくらいにお気に入りの一軒とのことだった。
この店で食べた「スパゲッティ・ヴォンゴレヴェラ―チ(あさりのスパゲッティ)」と「リゾット・ネロ(いかすみのリゾット)」がそれ以後の基準となった。今回も、それを食べるためだけに、ミラノに立ち寄ったくらいである。
PAGE 2
「アルポルト」の「スパゲッティ・ヴォンゴレヴェラ―チ(あさりのスパゲッティ)」。
▲ 「アルポルト」の「スパゲッティ・ヴォンゴレヴェラ―チ(あさりのスパゲッティ)」。
ヨーロッパへ来る直前、名古屋の日本料理「吉い」で、お椀に「蛤とそうめん、蕗の薹添え」がでた。そうめんの茹で汁に出汁を少々加えただけのところへ蛤を添え、蕗の薹(ふきのとう)をあしらったお椀で、春の息吹を感じさせる逸品で、透明感のある味わいが心に染みた。
イタリア料理のあさりとスパゲッティ、日本料理のはまぐりと素麺、それぞれ古典的な相性があるのだろうと思う。
「吉い」の「蛤とそうめん、蕗の薹添え」。
▲ 「吉い」の「蛤とそうめん、蕗の薹添え」。
PAGE 3

評判の貝出汁ラーメンを色々食べてみたのだけれど

先日、たまたまTVを観ていると、北海道・阿寒湖の「貝族ラーメン」と名付けられた一品が紹介されていたが、スープははまぐり、帆立、ムール貝、つぶ貝などから、これでもかとばかりに出汁をとってて、これでは出汁が出すぎで、ラーメンとしてはバランスを欠いた一杯になってはしないかと感じられたものだった。
数年前、西六郷の「琥珀」が宍道湖のしじみから出汁をとったスープでラーメンをつくり話題となった。私も炎天下、長時間店の前にできた行列に並んで、そのラーメンをいただいた。ひと口目のスープはしじみの香りが漂い、ユニークなスープの味わいに感心したが、食べ進むうちに、しじみの味わいは影をひそめてしまい、感動までには至らなかった。それでも、いまいちど、前回と違う塩ラーメンで挑戦してみたが、結果はさほど変わらなかった。
あまりの行列の待ち時間にしびれを切らし、三度目を諦めかけていた時に、池袋に支店が誕生した。先日、この池袋店に出かけ、しじみ出汁のラーメンをいただいたが、本店ほどの味わいには至ってなかった。
PAGE 4
「金色不如帰」の「真鯛と蛤の塩そば」。
▲ 「金色不如帰」の「真鯛と蛤の塩そば」。
新宿「金色不如帰」の「真鯛と蛤の塩そば」はとても有名で、飲み干してしまうほど素晴らしいスープではあるが、上品なはまぐりの香りと味わいがさほど感じられるわけではない。下北沢「貝麺みかわ」、荻窪駅前「蛤麺しちり」は、はまぐりの出汁が売り物だが、塩味がやや前に出ていて、はまぐりの淡麗な香りが引っ込んでしまっている。
下北沢「貝麵みかわ」の「貝麵」。
▲ 下北沢「貝麵みかわ」の「貝麵」。
荻窪「蛤麺しちり」の「蛤麵」。
▲ 荻窪「蛤麺しちり」の「蛤麵」。
PAGE 5
錦糸町の「麵や 佐市」は牡蠣の出汁をスープにしているが、牡蠣好きには魅力が乏しい。方南町「クラム&ボニート」のラーメンのスープの素は「あさり、しじみ、牡蠣、宗田節、鯖節、にぼし」だそうだが、味が複合的でこれまた貝出汁のうま味が前面に出ていない。左様に「貝出汁」のラーメンは魅力的ではあるが、とても難しい。
山本益博 ラーメン革命! WebLEON  味噌ラーメン
▲ 錦糸町「麺や佐市」の「牡蠣・拉麵」。
方南町「クラム&ボニート」の「貝節潮そば」。
▲ 方南町「クラム&ボニート」の「貝節潮そば」。
例えば、北浦和「かねかつ」は、季節に応じて積極的に「まぜそば」に挑戦している。ここで一つ、「あさりのスパゲッティ」、「いかすみのリゾット」の向こうをはって「いかすみのまぜそば」を創作してみるのはいかがだろうか? また「はまぐりのつけそば」などは、これからの季節にうってつけではなかろうか?
PAGE 6
山本益博 Web LEON ラーメン革命!

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

山本益博 YouTube  MASUHIROのうまいのなんの!

山本益博さんのYouTubeが好評稼働中!

日本初の料理評論家、山本益博さんが、美味しいものを食べるより、ものを美味しく食べたい! をテーマに、「食べる名人」を目指します。どうぞご覧ください!
YouTube/MASUHIROのうまいのなんの!

「山本益博のラーメン革命!」、他の記事はこちらから!
PAGE 7

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        「貝出汁」のラーメンは魅力的ではあるが、とても難しい! | グルメ | LEON レオン オフィシャルWebサイト