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2025.03.23

【第73回】 映画『タンポポ』と東池袋「大勝軒」

40年ぶりに観直した映画『タンポポ』のラーメンは懐かしいほどにシンプルだった

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博 編集/森本 泉(Web LEON)

日本初の料理評論家、山本益博さんが、B級グルメから一流の料理へと変貌を遂げつつある街のラーメンに注目し、自ら実食リポートする連載です。

映画『タンポポ』の下敷きになったのは荻窪の「佐久信」

先日「TOHOシネマズ日比谷」で公開中の「伊丹十三4K映画祭10作品10週連続ロードショー」で映画『タンポポ』を久しぶりに観た。初公開されたのが1985年で、それ以来だから40年ぶりのことである。
この映画の下敷きになったのが、当時テレビ朝日のレギュラー番組だった「愛川欽也の探検レストラン」で、荻窪のラーメンの名店「丸福」と「春木屋」に並んで青梅街道沿いにあった客の入りが冴えない「佐久信」をみんなで知恵を合わせて再建、できれば人気店にしようという番組だった。その証拠に、映画の最後のクレジットに、資料協力として「愛川欽也の探検レストラン」の名前が出てくる。一緒に私の名前も並んでいる。
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ラーメン革命! 山本益博 ラーメン タンポポ
▲ 映画『タンポポ』の当時のフライヤー。
私は伊丹十三監督に呼ばれ、「伊丹プロダクション」の事務所で1時間ほど、「美味しいラーメン屋」の見分け方などのレクチャーをさせてもらった。

当時のラーメン屋にはかなりテレビがついている店が多かった。お客のためでなく、そのほとんどが、店主がナイターのプロ野球巨人戦などを見るためのテレビだった。また、新聞や雑誌が無造作に散らかっている店も多かった。カウンターやテーブル席には、箸立て、灰皿、胡椒、爪楊枝を置く店も多く、それが同じ並びで等間隔に置いてある店もあれば、雑然と並んでいる店もあった。ラーメンの味以外でも、店の良し悪しは見当がつくもので、映画の中でもそれがちょっぴりだが、採用されていた。
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懐かしいほどにシンプルだった映画のラーメンを今、食べるなら

映画『タンポポ』では、しがないラーメン屋の女主人公に宮本信子が、店の再建役を買って出るトラック野郎に山崎 努、渡辺 謙が扮している。ほかに、役所広司、大友柳太朗、津川雅彦、岡田茉莉子などが出演している。役所広司はブレイクする以前のことで、今考えても何とも豪華な配役陣である。
映画では、最後にめでたく行列ができるほどの繁盛店に仕上がるのだが、そのラーメンは、今から見ると懐かしいほどにシンプルで、細麺と醤油味のスープにチャーシュー、メンマ、それにネギ。当時のラーメンは、ほとんどこのタイプで、これに青味やなるとや海苔がのっていたりするだけだった。

40年たった今、このタイプの美味しいラーメンといえば、銀座「共楽」、西荻窪「はつね」新座「ぜんや」など、指折り数えるほどしかない。
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期せずして、文藝春秋社から『ラーメンの神様が泣き虫だった僕に教えてくれたなにより大切なこと』と題する単行本が出版された。副題に「『お茶の水、大勝軒』田内川真介の変えない勇気」とある。

小学生の頃から東池袋の「大勝軒」のラーメンやつけ麺に親しんだ田内川真介さんが「大勝軒」で修業を重ね、独立してからも名物の味を変えずに守り続けている姿をノンフィクション作家の北尾トロさんとの対談形式でまとめ上げた一冊。

読み終えて、早速「お茶の水、大勝軒」へ出かけ、「中華そば」を注文した。これが、間違いなく40年前と変わらぬ「大勝軒」の味だった。
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ラーメン革命! 山本益博 ラーメン タンポポ 大勝軒
▲ 「お茶の水、大勝軒」の中華そば。
ラーメン革命! 山本益博 ラーメン タンポポ 大勝軒
▲ 『ラーメンの神様が泣き虫だった僕に教えてくれたなにより大切なこと』(文藝春秋社刊)。
私も、1982年から『東京・味のグランプリ』を出していて、そこに「大勝軒」が登場する。82年の『東京・味のグランプリ200』から、「大勝軒」を転載してみよう。

「主人はいつもタオルで鉢巻きをしながら、めんを打ち、そばを茹で、中華そばを手際よくつくってゆく。めんに限っていえば、この店に匹敵するものがないと思われるほど、ツルツルしていてコシがあって見事である。本当にこのめんの味には比類がない。このめんを生かした特製もりそばが中華そばより人気がある。めんが新しいところへもってきて、丁寧に茹で上げるから、水でさらしためんを、コクのあるスープに漬けて食べるうまさはこたえられない。そのスープに入るチャーシューうまさも特筆ものである」
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「中華そば」を食べた翌日、再び出かけ、今度は「特製もりそば」をいただいた。これまた、当時の味を思い起こさせるに十分な、甘酸っぱいスープが特徴の、とても懐かしさあふれる「もりそば」だった。本によれば、「つけ麺」が誕生して、今年70周年だそうである。
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山本益博 Web LEON ラーメン革命!

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

山本益博 YouTube  MASUHIROのうまいのなんの!

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日本初の料理評論家、山本益博さんが、美味しいものを食べるより、ものを美味しく食べたい! をテーマに、「食べる名人」を目指します。どうぞご覧ください!
YouTube/MASUHIROのうまいのなんの!

「山本益博のラーメン革命!」、他の記事はこちらから!
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