2025.03.23
【第73回】 映画『タンポポ』と東池袋「大勝軒」
40年ぶりに観直した映画『タンポポ』のラーメンは懐かしいほどにシンプルだった
日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。
- CREDIT :
文・写真/山本益博 編集/森本 泉(Web LEON)
映画『タンポポ』の下敷きになったのは荻窪の「佐久信」

当時のラーメン屋にはかなりテレビがついている店が多かった。お客のためでなく、そのほとんどが、店主がナイターのプロ野球巨人戦などを見るためのテレビだった。また、新聞や雑誌が無造作に散らかっている店も多かった。カウンターやテーブル席には、箸立て、灰皿、胡椒、爪楊枝を置く店も多く、それが同じ並びで等間隔に置いてある店もあれば、雑然と並んでいる店もあった。ラーメンの味以外でも、店の良し悪しは見当がつくもので、映画の中でもそれがちょっぴりだが、採用されていた。
懐かしいほどにシンプルだった映画のラーメンを今、食べるなら
40年たった今、このタイプの美味しいラーメンといえば、銀座「共楽」、西荻窪「はつね」新座「ぜんや」など、指折り数えるほどしかない。
小学生の頃から東池袋の「大勝軒」のラーメンやつけ麺に親しんだ田内川真介さんが「大勝軒」で修業を重ね、独立してからも名物の味を変えずに守り続けている姿をノンフィクション作家の北尾トロさんとの対談形式でまとめ上げた一冊。
読み終えて、早速「お茶の水、大勝軒」へ出かけ、「中華そば」を注文した。これが、間違いなく40年前と変わらぬ「大勝軒」の味だった。


「主人はいつもタオルで鉢巻きをしながら、めんを打ち、そばを茹で、中華そばを手際よくつくってゆく。めんに限っていえば、この店に匹敵するものがないと思われるほど、ツルツルしていてコシがあって見事である。本当にこのめんの味には比類がない。このめんを生かした特製もりそばが中華そばより人気がある。めんが新しいところへもってきて、丁寧に茹で上げるから、水でさらしためんを、コクのあるスープに漬けて食べるうまさはこたえられない。そのスープに入るチャーシューうまさも特筆ものである」

● 山本益博(やまもと・ますひろ)
1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

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