松茸に白トリュフなど高級食材は合わせるワインも高級なものになりがちで、お財布には秋風が吹いています(苦笑)。
今回も引き続き「映画とワイン」の考察にお付き合いください。前回は『ボトル・ドリーム』に力を入れ過ぎて一作品しか紹介できませんでしたので、今回はサクサク行きたいと思います。
モテるワイン道入門~映画とワイン(洋画編)
離婚のショックを抱えた中年のしがない国語教師で小説家志望の主人公マイルズ(ポール・ジアマティ)が、結婚を1週間後に控えた大学時代の親友ジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)と、カリフォルニアのワイナリーへ旅に出る物語です。マイルズはピノ・ノワールを崇拝するワインオタク。対するジャックはこだわり無く、酔えれば何でもオーケー。むしろ独身最後の週にハメを外すことが目的。こんな男たちの二人旅を描いた人間ドラマです。映画としての評価も高く作品賞をはじめとして5部門でアカデミー賞にノミネートされました(*1)。
舞台となるのは日本でお馴染みのナパ・ヴァレーではなく、もっと南のサンタバーバラ・カウンティにあるサンタ・マリア・ヴァレーです。ナパ・ヴァレーよりはもっと広大で大らかな感じがします。ストーリーにはカリフォルニアワインだけではなく、「Chateau Cheval Blanc 1961」などの有名ワインも数多く登場します。そして、全米ではこの映画のヒットがきっかけでピノ・ノワールが一大ブームになったと言われています。映画の力ってすごいですね。
1980年代にフランスのミッテラン大統領に仕えた女性料理人ダニエル・デルプシュの実話をもとにした映画です。主人公のオルタンス・ラボリ役をカトリーヌ・フロ(『偉大なるマルグリッド』の主演など)が演じています。
ストーリーの主軸はワインよりもむしろ料理。大統領から日常の食事におふくろの味を期待される主人公が、超男性社会であるエリゼ宮(*2)の厨房に単身乗り込み、晩餐会などの料理を担当する有名シェフたちと対立しながらも努力する姿が描かれます。何と言っても印象的なのは、主人公と大統領がふたりで「Chateau Rayas 1969」を飲みながら黒トリュフのタルティーヌ(*3)を食べて語り合うシーン。ワインもトリュフも本当に美味そうで、垂涎ものです。フランスワイン好きのワイピは必見の作品だといえるでしょう。
また、この映画で主人公を支える大統領専属給仕長を演じているのはジャン・マルク・ルーロ。ブルゴーニュの有名ドメーヌの「Domaine Roulot」のオーナー醸造家! 俳優であり、一流ワインメーカーであるというレアな経歴の持ち主です。さらに面白いのは、主人公とそりが合わない仕入部長の名前がコシュ・デュリです。これは、ワイピなら誰もが知るブルゴーニュの超有名ドメーヌと同じです。この辺りもフランス人独特のユーモアなのでしょうか?
ワイン、そしてソムリエを題材にした映画です。以前本コラムでも紹介したことのある最難関資格の一つマスターソムリエ(MS)合格を目指し、人生を賭けて挑戦する受験生たちの物語です。前のふたつの作品に比べると、ドキュメンタリー的な要素が強く、専門的でもありますが、ワインに興味があるみなさまならきっと楽しんでいただけると思います。続編として『SOMM into the bottle』(2015年)、『SOMM III』(2018年)も作られています。
映画とワイン(洋画編)いかがでしたか? 次回は邦画を取り上げたいと思います。
(*1)
『サイドウェイ』は2004年のアカデミー賞脚色賞を受賞。
(*2)
フランス大統領官邸のこと。
(*3)
スライスしたカンパーニュなどのパンにバターなどを塗って食材を乗せたオープンサンドイッチ。カジュアルなランチでよく食される。
● 吉川慎二 / Shinji Yoshikawa
1962年三重県生まれ。
東京大学法学部卒業後、三井住友銀行、メリルリンチ自己勘定投資部門のアジア太平洋地域統括本部長を経て、現在は投資家・経営コンサルタント。
2007年、日本ソムリエ協会のワインエキスパート資格を取得。12年にシニアワインエキスパートへ昇格し、同年に開催された第5回全日本ワインエキスパートコンクールで優勝。14年にはエキスパート資格者で初の日本ソムリエ協会理事に就任、2018年まで2期4年務めた。漫画「神の雫」に登場する吉岡慎一郎のモデルともいわれ、プロフィールイラストは「神の雫」作画のオキモトシュウ氏によるもの。