しかし、ここ40年間のラーメン史を語る上で重要だった出来事は、三田の「ラーメン二郎」、東池袋の「大勝軒」、横浜の「吉村家」を発祥とする家系ラーメンの多店舗展開だったと思う。とくに「大勝軒」のメインメニューだったつけ麺は、ラーメンに並ぶ人気アイテムになった。ファッションで言えば、1960年代後半にイヴ・サンローランが提案したパンツルックがスカートコーディネートに並ぶスタイルになったようなものである。
場所は松屋通りを昭和通りに向かって歩いて行って右側の円柱型のビルの地下1階だ。その1階は行列のできるシュークリームショップの「緑花堂(ろっかどう)」である。この日も午後4時の時点で8人ほどの行列ができていた。これは後に知ったのだが、この1階のシュークリームショップと「銀座 魄瑛」には、ヴィジュアル系バンド「ペニシリン」のHAKUEIが経営にかかわっているらしい。きっとHAKUEIはシュークリームとつけ麺が好きなのであろう。
◆「銀座 魄瑛(はくえい)」
「特製つけ麺」1500円を注文する。この価格はラーメン・つけ麺のカテゴリーではたぶん日本一であろう。自信がなければ、つけられる値段ではない。特製つけ麺の、さらに上には味玉やチャーシューが増量された「特上つけ麺」2000円というのもある。フレンチレストランのランチメニューに匹敵する値段だが、果たしてどんなものなのか。
この店のスープは、丸鶏から取ったスープと鶏油(ちーゆ)がベース。これにシジミのスープをミックスするダブルスープである。もっちりした中太の麺(信州産小麦)にはかすかにトリュフオイルの香りづけがなされ、ピカピカと輝いている。トッピングには、江戸前シジミのムース、鴨ロース、和牛ロース、豚ロースのチャーシューが1枚ずつ、それにラディッシュのスライス、青菜、これにライムが添えられている。
三浦彰/ジャーナリスト
福島市生まれ。慶應義塾大学卒業後、野村證券を経て、1982年WWDジャパンに入社。同紙編集長、編集委員を務めた後、2020年9月に退職。現在は和光大学で教鞭をとる。