モテるワイン道入門~世界の新酒ワイン
新酒のワインで真っ先に思い浮かぶのがこれですよね。フランス・ブルゴーニュ地方の最南端から、食で有名な都市リヨン(Lyon)までの、ボージョレ地区で造られるワインです。種類は赤とロゼのみ。ガメイ(Gamey)というブドウから造られ、さわやかでフルーティーな味わいが特徴です。なんと、ボージョレ地区で作られるワインの3分の1がこのヌーボー、そして日本はその最大の輸出先です。初物好きの日本人気質と、本国フランスよりも時差の関係で8時間も早く飲める点が人気の秘密なのでしょうか?
以前はボージョレ・ヌーヴォーと言えば「解禁日に飲む」こと優先で、品質には重点が置かれていないイメージもあったように思われましたが、最近はそうでもありません。日本での人気の影響なのかブルゴーニュ地方の有名生産者もヌーヴォーを造っています。ぜひトライしてみてください。
また、ボージョレ・ヌーヴォーといえば毎年のキャッチコピーも有名です。実はこのキャッチコピーにはボージョレワイン委員会による品質評価に基づくものと、日本の販売業者が独自につけるものの2種類があるそうです。前者は控えめなのですが、後者はワイン普及・セールスを目的としているため、なかなか大胆、なかには笑えるものもあります。過去の傑作をご紹介しますと……
2001年: ここ10年で最高
2002年: 過去10年で最高と言われた01年を上回る出来栄え。1995年以来の出来
2003年: 100年に1度の出来、近年にない良い出来
2005年: ここ数年で最高、タフな03年とはまた違い、本来の軽さを備え、これぞ『ザ・ヌーボー』
2009年: 過去最高と言われた05年に匹敵する50年に1度の出来栄え
2010年: 2009年と同等の出来
2011年: 100年に1度の出来とされた03年を超す21世紀最高の出来栄え
2014年: 2009年の50年に一度の出来を超える味わい
2015年: 今世紀で最高の出来
どうですか。もう、伝家の宝刀を抜きすぎて、ツッコミどころ満載ですよね。このキャッチコピーが大げさすぎるという話題がコピーライターの耳に入ったのでしょうか、2016年以降は比較的おとなしい表現が続いています。今年は果たしてどのようなキャッチコピーになるのか、それも楽しみですね。
ボージョレ・ヌーヴォーが有名過ぎるのであまり注目されていないかもしれませんが、フランスのほかの地方でも50種類程度の新酒ワインが認められており、同じ11月の第3木曜日に解禁されます。
イタリアの新酒です。ボージョレ・ヌーヴォーに代表されるフランスとの大きな違いは、基本的にイタリア全土で多くの種類が造られること、アルコールが11%を超えてはいけないことなどです。ボージョレ・ヌーヴォーのブドウ品種はガメイに限られますが、ヴィーノ・ノヴェッロはイタリア各地のいろんな種類ブドウから造られたワインを楽しむことができます。かつては11月6日が解禁日でしたが、2012年の法律改正で10月30日に変更されました。たまたまなのか、意図的なのかハロウィンの前日ですね! 主要生産国の新酒ワインの中では一番解禁日が早いです。
読んで字の如く、山梨県産ワインの新酒です。法律による規定ではなく、山梨県ワイン酒造組合の自主規制によって2008年からスタートしました。
「山梨ヌーボー」と呼ばれるのは山梨県内で収穫、醸造された甲州とマスカット・ベーリーAの新酒ワインのみ。解禁日の11月3日は文化の日で、不動の国民の祝日ですし、晴れの特異日としても知られています。まさに日本の新酒ワイン解禁日にふさわしい日ですね。例年、山梨県甲府市と東京で屋外イベントが開催されていましたが、今年は新型コロナウィルスの影響で中止となってしまいました。来年以降の復活を大いに期待したいです。
以上のほかドイツ、オーストリア、スペインなど世界各国の新酒ワインがまだまだあります。みなさまもぜひお気に入りの新酒ワインを見つけてみてください。
● 吉川慎二 / Shinji Yoshikawa
1962年三重県生まれ。
東京大学法学部卒業後、三井住友銀行、メリルリンチ自己勘定投資部門のアジア太平洋地域統括本部長を経て、現在は投資家・経営コンサルタント。
2007年、日本ソムリエ協会のワインエキスパート資格を取得。12年にシニアワインエキスパートへ昇格し、同年に開催された第5回全日本ワインエキスパートコンクールで優勝。14年にはエキスパート資格者で初の日本ソムリエ協会理事に就任、2018年まで2期4年務めた。漫画「神の雫」に登場する吉岡慎一郎のモデルともいわれ、プロフィールイラストは「神の雫」作画のオキモトシュウ氏によるもの。