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2017.06.22

上野の昭和レトロ喫茶「古城」はオトナのワンダーランド

CREDIT :

文/秋山 都 撮影/菅野 祐二

スターバックスが東京・銀座に1号店をオープンしてから早20年。2015 年にはブルーボトルコーヒーに代表されるサードウェーブが押し寄せ、猫も杓子も自家焙煎で「浅煎り」ブーム。シングルオリジンなど単一農場産のコーヒーが注目されるなど、一杯のコーヒーの楽しみ方も時代に応じて大きく変化してきました。

振り返って昭和。コーヒーを楽しむなら「カフェ」ではなく「喫茶店」でした。それも「純喫茶」。純喫茶の「純」っていったい何? 「純」があるなら「不純」もあったのでしょうか? 今に残る昭和喫茶を探して旅にでたところ、パンダ誕生に湧く上野に貴重な一軒が残っていました。

「不純」喫茶の時代があった!?

古城(東京・上野)

「純喫茶の純ってのは、お酒を出さずにコーヒーやお茶を純粋に楽しむっていう意味。昔、銀座や上野のカフェーでは女給さんてのがいてね。お客と一緒に座ってお酒を出したものなのよ」と、教えてくれたのは上野駅ほど近くで昭和39年にオープンした喫茶店「古城」のママである松井京子さん。
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アルコールを提供する店と差別化する意味で「純」喫茶と名付けられたわけですが、同時に「不純」喫茶も少なからずあったようで……

「同伴喫茶ってあったでしょ?え、知らないの? 同伴っていうのはカップルがふたりで行くと並んだ席に座らせてくれて、薄暗くて、飲み物一杯頼んだらあとは放っておいてくれるわけよ。だからお好きにガサガサ、ゴソゴソできるのよね」

もちろんこの「古城」はまったくの「純」喫茶。コーヒーや軽食を純粋に楽しむ場所ですが、その割にはインテリアが過剰にゴージャスです。

「これはヨーロッパに憧れていた私の父の普請道楽でね。大理石を壁に貼って、天井にはシャンデリア。モザイクにした床はとってもお金がかかって、当時1万円札を床に貼り付けているほどだと噂されたのよ」
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ステンドグラスにアールデコの装飾、そしてなぜかツタンカーメン。さまざまなテイストの小物が混沌と配された店内は不思議と落ち着く。
ステンドグラスにアールデコの装飾、そしてなぜかツタンカーメン。さまざまなテイストの小物が混沌と配された店内は不思議と落ち着く。
漫画が置いてあるのも昭和喫茶の特徴。「じゃりん子チエ」と「代紋TAKE2」は全巻そろってます。
漫画が置いてあるのも昭和喫茶の特徴。「じゃりん子チエ」と「代紋TAKE2」は全巻そろってます。
開業当時から変わらぬレシピのミックスサンド(飲み物とセットで)1,300円。コーヒーは男性が青いカップ、女性が赤いカップで供されるのも変わらぬ伝統。
開業当時から変わらぬレシピのミックスサンド(飲み物とセットで)1,300円。コーヒーは男性が青いカップ、女性が赤いカップで供されるのも変わらぬ伝統。
客層は近所で働くサラリーマンがほとんどですが、ときどき昭和レトロなインテリアを鑑賞したい平成女子もチラホラやってくるとか。白いレースのカバーがかかった座席に身を沈め、ミルクセーキなどチビチビ飲みながら、赤いチェリーはどのタイミングで食べようか考えていると、まさにタイプトリップしたような感覚に陥る不思議な空間です。

昭和生まれの筆者ですら、自分の知らない世界へ来たような気分になるのです。まして平成女子をや。必ずやお楽しみいただけることでしょう。
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ロマンスシートで、オーナーの松井さんご夫妻。ご主人のパンチ、気合が入ってます。
ロマンスシートで、オーナーの松井さんご夫妻。ご主人のパンチ、気合が入ってます。
同伴喫茶ではない「古城」ですが、当時カップルに人気だった「ロマンスシート」は健在です。二人がけのソファが一列に並んだ(つまり新幹線のように一方向に向いている)席は、いまやおひとりさまに人気だそうですが、たまにはふたりで座ってみてはいかがでしょう。

手がちょっと触れるだけでドキドキした初心(と書いてウブ)な気持ちを思い出せるかもしれません。

あ、言い忘れました。こちらはいまどき珍しく「全席喫煙」です。愛煙家のみなさまもぜひどうぞ。
■喫茶 古城

■喫茶 古城

喫茶 古城

住所/東京都台東区上野3-39-10 光和ビルB1F
営業時間/9:00~20:00
定休日/日曜・祝日
お問い合せ/☎03-3832-5675

まだまだある東京の昭和レトロ喫茶

もちろん昭和のレトロ喫茶はこの「古城」だけではありません。昭和元年に創業した名曲喫茶「ライオン」(東京・渋谷)はいまも5000枚に及ぶCD、レコードのコレクションを誇り、1日2回のレコードコンサートを欠かしません。

名曲を楽しむ環境を優先するため、大声でおしゃべりしたり、携帯電話で話したりすることはできませんが、昭和25年当時のままの建物だけでも一見の価値ありです。

また、「ロッジ赤石」(東京・浅草)は昭和48年創業。ロッジと名が付くだけあって山小屋風の店内には、懐かしのインベーダーゲームや麻雀などゲームテーブルも健在。

朝4時まで営業していることもあって、飲食業界で働く人やタクシードライバーの憩いの場となっています。「ナポリタン」や「エビフライ」「カツ重」などなんでもおいしいからお腹をすかせて行くのが吉。

最後に昭和21年創業の「アンヂェラス」(東京・浅草)。池波正太郎、永井荷風、手塚治虫など多くの文化人に愛されたことで知られる店ですが、ここのおすすめはなんといっても懐かしいバタークリームのケーキ。

今のように生クリームが一般的でなかった昭和30~40年代、ケーキといえばこっくりとしたバタークリームでした。小さくてもボリュームと食べごたえ満点のケーキは、昭和男子なら誰もが「ああ、これこれ」と膝を叩く美味しさです。

ドアをくぐるだけで昭和へとタイムトリップできる昭和喫茶はまるでオトナのワンダーランド。いろんな町でひっそりと生きている昭和喫茶を探してみませんか。

※記事中の情報は公開時のものとなります。
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