2021.06.13
ダジャレでワインを選んではいけない⁉ ドン引きされたワイン会の失敗例
5000本以上のコレクションを持つ日本随一のワインコレクターで、多い時は月に3桁の金額をワインに費やす超愛好家だからこそわかる、真にスマートで男女問わずモテるワイン道ってどんなもの? ちょっとイタいワインおたくや面倒くさい半可通など、周囲の反面教師からも学ぶ、ワインのたしなみ方入門です。
- CREDIT :
文・写真/吉川慎二 イラスト/Isaku Goto, オキモトシュウ(吉川慎二氏)
そんな暗い雰囲気を吹っ飛ばす願いも込めて、今回は軽いお笑いネタをお送りしたいと思います。題して『ダジャレのワイン選び〜失敗と成功』です。
モテるワイン道入門~ダジャレでワインを選んだら?
まずは失敗例から。
【場所】
某ミシュラン一つ星の和食店
【シチュエーション】
4名(男性2名、女性2名)の持ち寄り会。男性がシャンパーニュ、女性2名のうち1名がブルゴーニュの赤、もう1名がブルゴーニュの若い白を担当すると決まり、筆者としてはワイルドカード的な立ち位置になりました。
【伏線】
お料理が繊細な和食なので、やはり泡か白を持参すべきかと参加者4名のグループチャットで呟いたところ、白を持参する女性から「ヴィンテージ古めの白があれば抑揚が出て良いのではないか⁉️ 」との提案もあり,
白に決定!
この後、この「抑揚」がキーワードとなって蟻地獄にハマります。
痛々しい独り相撲に終わったダジャレでのワイン選び
1.「抑揚」と言えば高校時代、漢文の授業で出てきた抑揚の句形(*2)が連想されます。その用例の定番と言えば、あまりにも有名な「死馬且買之、況生者乎」(死馬すら且つ之を買ふ、況んや生ける者をや)が浮かびます。
[訳]死んだ馬でさえ高く買ったのだから、生きている馬ならなおさら高値で買ってくれるだろう
2.この有名なフレーズの出典は「十八史略(*3)」にある先従隗始(まず、隗=カイ)より始めよ)で、これ自体が非常に有名な諺(古事成語)です。
3.ところでここに登場する人名の隗(カイ)さん。発音は「カイ」= [kāi]であり、ギリシャ文字の χ(カイ)とほぼ同じです。そして、ご覧のとおり、ギリシャ文字のχ(カイ)はラテン文字(アルファベット)のX(エックス)に相当します。
4.と言うことで、何とかしてXで始まるワインを持参し、カッコよく決めようと思ったのですが、自分のコレクションの中に適当なものが見つかりません。思いついたのはスペインの白ブドウ品種チャレロ(Xarello)です。大好きなブドウで美味しいワインも多数ありますが、一連の流れからブルゴーニュの白で熟成したものとのリクエストなので伏線が回収できません(汗)。
⑤ 結局悩んだ末に、「Xで始まる」ワインがないので「Xで終わる」ワインとして、「Benjamin Leroux Batard Montrachet 2010」を持参しました。ワイン自身は状態も良く楽しめたのですが、自分の妄言に近い思考プロセスを披露したところ、一同ドン引き……大失敗でした。
註
*1) 主にフランス・ジュラ地方で栽培されている白ワイン品種。ジュラの名産である黄ワイン(ヴァン・ジョーヌ)の原料としても有名。
(*2) 一般に「抑揚」といえばイントネーションのことを指します。たとえば、英語の疑問文ではおしまいを上がり調子に言うなど。しかし、ここで言う漢文法の「抑揚」は全く別モノです。「小学生でさえ出来るのだから、大人ならなおさら出来るはずだ」というように、前半で程度のやさしいもの・当たり前なことを挙げ、後半の当然さをより強調する漢文独特の構文です。漢文だと「A且B況C乎」。これを書き下し文にすると、「Aすら且(か)つB、況(いわん)やCをや」となり、意味としては「AでさえBなのだから、ましてCならなおさら当然にBだ」となります。「あ〜、あれね!」と思い出した人も多いのでは?
(*3) 「史記」以下の十七史に宋代の史料を加えて十八史とし、これを概述した通史。日本では中国史の入門書として広く読まれてきました。
(*4) 「戦国策燕策」にある郭隗(かくかい)の故事。隗が燕の昭王に、賢臣を求めるならまず自分のようなつまらない者を登用せよ、そうすれば賢臣が次々に集まって来るだろうと言ったことから、①遠大な事をするには、手近なことから始めよ、②転じて、事を始めるには、まず自分自身が着手せよ、との意味。
ダジャレクイズの解答
Q1. ガメイ
ブルゴーニュ地方ボジョレーで多く栽培されている赤ワイン用のブドウ品種で、正式な名称はガメイ・ノワール。
Q2. ジンファンデル
米国カリフォルニア州を中心に栽培されている、赤ワイン用ぶどう品種。
● 吉川慎二 / Shinji Yoshikawa
1962年三重県生まれ。
東京大学法学部卒業後、三井住友銀行、メリルリンチ自己勘定投資部門のアジア太平洋地域統括本部長を経て、現在は投資家・経営コンサルタント。
2007年、日本ソムリエ協会のワインエキスパート資格を取得。12年にシニアワインエキスパートへ昇格し、同年に開催された第5回全日本ワインエキスパートコンクールで優勝。14年にはエキスパート資格者で初の日本ソムリエ協会理事に就任、2018年まで2期4年務めた。漫画「神の雫」に登場する吉岡慎一郎のモデルともいわれ、プロフィールイラストは「神の雫」作画のオキモトシュウ氏によるもの。