リーマン・ショック(2008年9月)の冷めやらぬ東京で、しかも陸の孤島みたいな千駄ヶ谷の谷底にポツンとサザビーリーグ社の手によってオープンした。そのバカでかい店を見て、「こんな店が成功するわけない」と思ったのをハッキリ覚えている。結果はご存じの通りで、前回の日本人のハワイ好きと同じで、日本人はウエストコーストも大好きなのであった。
トラッドベースのちょっと几帳面なニューヨーク・ファッションに比べて、ジーニング・カジュアルをベースにして開放的でちょっとスノッブなファッション・テイストは、日本人のハートをつかんだのだった。「ロンハーマン」はその後多店舗展開に乗り出し、現在はセレクト業界の一大勢力になり、LAの本家をしのぐ存在になった。これに便乗して大ヒットした男性誌『サファリ』(日之出出版)なんていうのも登場した。
2016年2月にオープンした「MENSHO TOKYO SAN FRANCISCO」は瞬く間に大行列店になって、『ミシュランガイド』サンフランシスコ版のビブグルマンで取り上げられたという。
新宿ミロード店はそれに目を付けた逆輸入であった。同店の入り口にはいかにも和風の赤いすだれがかけられており、カウンターの中には観葉植物が置かれてウエストコースト気分を盛り上げている。
微妙なスープの配合、小麦、ミリ単位の麺の幅、かえし(醬油)、茹で上げのタイミング、湯切りなど一流店なら尋常ならざるこだわりがある。もちろん、「MENSHO」のラーメンにもそうしたこだわりはあるが、もっと重要視しているのはラーメンという食べ物を楽しんでほしいという実にストレートなエンターテインメント性だ。
バレンタイン週間には「チョコつけ麺」などという、ラーメン求道派が眉をひそめそうな一品も提供されるという。
● 三浦 彰(みうら・あきら)
ジャーナリスト。福島市生まれ。慶應義塾大学卒業後、野村證券を経て、1982年WWDジャパンに入社。同紙編集長、編集委員を務めた後、2020年9月に退職。現在は和光大学で教鞭をとる。