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2018.05.07

弁当界の永久定番、海苔弁のヒミツを追う!

唐揚げや幕の内ほど華はないものの、どうも海苔弁に心ときめいてしまう。それってなぜ? 都内屈指の海苔弁専門店で、そのおいしさの秘密を探ります。

CREDIT :

文/中島 由貴 写真/松井 康一郎

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“海外旅行から帰って、いちばん先に作ったものは、のり弁”と、自身のエッセイ『夜中の薔薇』(講談社文庫)で表現したのは向田邦子。彼女のレシピは、ごはん+醤油で湿らせた鰹節+火取って八枚切りにした海苔、を三回繰り返し、おかずは肉のしょうが煮と塩焼き卵が好きだったそう。
あれ? 海苔弁って白身フライじゃないの? 鮭でしょ? の声が聞こえてきましたね。どれも正解です。むしろ定義はありません。向田さんのレシピからも分かるように、あくまで主役は海苔。だというのに、質素どころか味わい深く、心と舌にグッとくるものがあるから不思議。ではその魅力のヒミツは一体? 人気の海苔弁屋さん2軒に聞いてきました。

◆ 刷毛じょうゆ 海苔弁山登りの海苔弁「海・山・畑」

レンジでチンしなくてもあたたかい

過去には「行列は最長100人、1~2時間待ち」「開店と同時に売り場へダッシュ」「整理券でさえ入手困難」。
これすべて、海苔弁のお話です。17年の4月のGINZA SIXオープンと同時に話題となっているのが海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」。
なぜ海苔弁がここまで人を虜にするのか?  生みの親である我妻義一さんを直撃しました。この方、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo 」(スープストックトーキョー)や、 ネクタイ専門店「giraffe」(ジラフ)などを手掛ける「株式会社スマイルズ」の弁当事業部長さんです。
まずは、なぜ海苔弁の専門店をはじめようと思ったのですか?

「社内で弁当の話をしていた時に、海苔弁ってみんな好きだよね、という話になりました。でも、海苔弁はお弁当屋さんでも一番安い価格帯で売られているような、少しかわいそうな存在です。だったら、私たちが本当に納得のいく最上級の海苔弁を作ってみたらどうだろうか?という話になり、海苔弁専門店を始めることにしました。今のコンビニ弁当はレンジで温める前提ですが、昔のお弁当の記憶をたどっていたら、母が作るそれは温めなくてもおいしかったことを思い出しました。そこから「家庭料理の最上級」を目指そう、冷たいままでもどこか懐かしくてあたたかい気持ちになる、作り手から食べる人にその想いがじんわりと伝わるような海苔弁をつくろうと思いました。そういうのが本来のお弁当なんじゃないかなと。昭和の人間なんで(笑)」
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高級弁当ではなくこだわりをもって手間暇かけたお弁当

2層になった “ご飯+かつお節+海苔”の断面に、思わず頬がゆるみます。
2層になった “ご飯+かつお節+海苔”の断面に、思わず頬がゆるみます。
まず取り掛かったという海苔選びには、並々ならぬこだわりがあるようで?
「海苔は2段がさねなんです。海苔が2枚、重ねられていると単純にうれしいですよね! 私たちはビジネス的な数字よりも、自分たちだったらこういうものがあったらうれしいよね、という素直な気持ちを大事にしている会社でして(笑)。 ただ、海苔の選定には相当こだわりました。どれくらい試食したか分からないほど。選定のポイントはまず柔らかいこと。最初の一箸で海苔が全部はがれてしまうことがないように、すっと切れる箸切れのよい海苔を探しました。次に味と香りです。しょうゆを塗って食べてみて最終的にたどり着いたのは、ごくわずかな海域で獲れる「青まぜ」という、自然に青のりが混ざっている海苔でした。」

それが、有明海で獲れる上位1%の、青海苔が付着する初摘みの海苔「青まぜ」だったそう。柔らかさと味が完璧で、ブラインドテストで「これしかいないね」と全会一致で決定したほど。たしかに、お店に伺うと。鶏肉や鮭を焼く匂いよりも海苔の香りが何より感じられたことにビックリ。

「ほかには揚げちくわのちくわは色々なものを揚げてみましたが、ちまたで普通に売られているものなんです。この海苔弁には雑魚を原料にしたものが合いました。割りしょうゆも普通の酒としょうゆを煮切った自家製のもの。決して高級にしたかったわけではなく、まじめに手作りに徹し、弁当全体の調和と味を追及した結果です。ただ、圧倒的においしい海苔弁ではあると自信を持っています。」
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定番3種の「海・山・畑」

GINZA SIX店で売れていくスピードにお弁当作りが追いつかないため、昨年11月にこちらの築地店をオープン。当初より行列は少なくなったものの、両店には常にお客さんがたくさんいらっしゃいます。
GINZA SIX店で売れていくスピードにお弁当作りが追いつかないため、昨年11月にこちらの築地店をオープン。当初より行列は少なくなったものの、両店には常にお客さんでにぎわう。
定番のお弁当にはユニークな名前がつけられていますね。

「1種目は鮭に決まっていて、つぎに鶏肉がいいかなと。鮭は魚だから『海』で、鳥なら『山』かなと。そして野菜の海苔弁を作ろうとなり、それなら『畑』だろうと。今は日本古来の食材である乾物が気になっていて、つぎに作るなら乾物は風で作られるから『風』がいいなと。

『海ってないんですか?』と、商品を渡すだけじゃなく店頭で会話が生まれます。売り場にはお弁当のサンプルと最低限の情報しかありません。私たちの仕事は販売業でもあり接客業なので。情報の足りない部分はお客様との会話の中でお伝えしていきたいということなんです。よくご質問いただくのは『何分あたためますか?』というもの。そのご質問に対しては『冷めててもおいしいのでそのままでお召し上がりください』と答えています。あたためずそのままでもおいしい、家庭で作るようなお弁当の原点を目指しているからです」

食べてみると、我妻さんの言葉に納得。どの具材も手が込んでいるのがはっきりとわかるほど、それぞれの素材本来の味がしっかりと口の中で広がります。冷めてはいるのですが、思わず目をつぶってかみしめたくなるほどのおいしさが、じーんと心を解かしていくよう。

「お客さまからの『おいしかった』も嬉しい言葉ですが、『なつかしかった』と言ってもらえることが多くて、こちらの想いが伝わっているのな、と感じます」
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◆ 刷毛じょうゆ 海苔弁山登り 築地直売所

住所/東京都中央区築地2-8-8
営業時間/11:30~17:00(商品がなくなり次第終了)
定休日/日曜・祝日

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◆ 江戸前海苔弁 大田やの「海苔(極)弁当」

価格はチェーン店の約3倍!

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まずはこちらをご覧ください。気づきましたか? 蓋が閉まってないですね(笑)。 こちらを作るのは、大田区にある「江戸前海苔弁 大田や」。海苔弁だけでも12種類も取り揃えた宅配弁当の海苔弁屋さんです。メニューには唐揚げやシューマイ、生姜焼きにカルビ焼肉に、+海苔弁という夢のコラボレーションが並んでいます。

指名率NO.1はやはり、海苔(極)弁当。“極”の名にふさわしく、そのお値段なんと1200円(税別)。ラインナップの中で最高額にも関わらず、1日100食も売れることもあるほど圧倒的な人気を集めているそうです。で、やっぱり聞いちゃいます。なぜ、海苔弁の専門店を?
大田区の地形をそのままお店のロゴに。(もちろん大田区の許可済みです)
大田区の地形をそのままお店のロゴに。
「大田区の大森という地域は、江戸時代から昭和初期まで日本一の海苔生産地でした。この歴史ある街をアピールしたいと思い、5年前に考えついたのが海苔弁の専門店です」と答えてくれたのは、この地で暮らして30年という代表取締役の早川邦彦さん。休日は弁当の食べ歩きをするほどの生粋の弁当ファン。

「すでに江戸前海苔は製造されていないのですが、昔の名残で今もこの町には乾物屋が多く残っています。海苔はそこから仕入れています」と見せてくれたのは、本社を大田区に構える金子海苔店の寿司海苔。「熊本有明産の青まぜ海苔なんですが、香りがすごいんです」。あれ? こちらも青まぜ海苔とは! なかでも食べこたえのある肉厚のものを使っているそう。

いよいよ、厨房へ。空っぽの弁当箱の中に、ご飯…ではなく、いきなりかつお節を!? それ、あってますか早川さん? 「当初はご飯→かつお節→海苔の順でしたが、かつお節と海苔の香りがより活きるために、ご飯で挟みました。ですので、底からすくってお召し上がりいただくのがおすすめです。」聞けば、香り豊かな糸削りのかつお節なんだとか。そこに、醤油をなじませてほかほかのご飯を投入。2枚の海苔で箱一面にと敷きつめていきます。
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鮮やかな手際の良さに見とれていると、揚げ物のいい匂いが。「よくあるのが安価なメルルーサという外来魚の白身フライですが、私どもは新鮮なカジキを築地から直送しています。磯辺揚げは鯛ちくわを使用し、中にチーズが入っているのがこだわりです」
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ここまでひっぱってきましたが、ついて来ていただいたみなさま、お待たせしました。中身がこちら!

決してお弁当が小さいわけではないんです。カジキのフライも磯辺揚げもなんと大きいこと! 「お客さんの顔が見えない配達でお届けするので、見た目にはかなり気を使っています。最初、カジキのフライはもっと大きかったですが、見栄えのバランスがおいしさに直結するので、試行錯誤を繰りかえすうちにこの大きさに」と早川さん。カジキの形を判断基準に、ひとつずづ丁寧に手作業で盛り付けられています。
海苔(極)弁当 1200円(税別)
海苔(極)弁当 1200円(税別)
ずしっと重い弁当箱を手にして、まず主役の海苔からいただきます。間に入ったふっくらご飯がかつお節と海苔のどちらの旨味もうまく引き立て、うまい! 驚きはまだまだ。カジキのフライは想像以上に分厚く、お肉なんじゃないかと錯覚するほどの弾力。そして、鯛ちくわの甘いこと♡ 磯の香りとクリーミーなチーズの相性も抜群です。
注文が込み合って受けられない場合もあるそうで、お早めのご連絡がおすすめですよ。
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◆ 江戸前海苔弁「大田や」

お問い合わせ/03-5499-2200・FAX 03-5499-2626
配達エリア/東京都内・横浜・川崎

●弁当宅配希望の前日の午前中(8:00—12:00)までに、電話かファックスで。注文個数は配送エリアによっても異なりますので、詳しくはHPをご覧ください。

こちらでご紹介した海苔弁当はどちらも、濃い味付けでごまかすことなく、素材のおいしさ直球勝負。シンプル極まりない弁当だからこそ、豊かに香りと味のする海苔を徹底して選び、おかずはわずかしかない分、工夫と愛情を惜しげも無くそそぐ。そして、作る側の想いが食べる側の心と舌に直に届く。
海苔弁の“おいしい”と“癒し”に、私たちの心は高鳴ってしまうのかもしれません。

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