2018.05.07
弁当界の永久定番、海苔弁のヒミツを追う!
唐揚げや幕の内ほど華はないものの、どうも海苔弁に心ときめいてしまう。それってなぜ? 都内屈指の海苔弁専門店で、そのおいしさの秘密を探ります。
- CREDIT :
文/中島 由貴 写真/松井 康一郎
![null](https://assets-www.leon.jp/image/2018/05/02185118456492/0/1.jpg)
あれ? 海苔弁って白身フライじゃないの? 鮭でしょ? の声が聞こえてきましたね。どれも正解です。むしろ定義はありません。向田さんのレシピからも分かるように、あくまで主役は海苔。だというのに、質素どころか味わい深く、心と舌にグッとくるものがあるから不思議。ではその魅力のヒミツは一体? 人気の海苔弁屋さん2軒に聞いてきました。
◆ 刷毛じょうゆ 海苔弁山登りの海苔弁「海・山・畑」
レンジでチンしなくてもあたたかい
「海苔弁 海」1080円(税込)。皮がカリッ、身がふわっの銀鮭。鰹節は築地や市場まで出向いて安定的においしいものを仕入れているそう。
「海苔弁 山」1080円(税込)はメインが鶏の照り焼き。いつまでも柔らかく楽しめるのは、塩麹を揉みこみ一昼夜漬け込んでいるため。生姜が効いているのであっさりと食べ進められます。
「海苔弁 畑」1080円(税込)。れんこんの大葉もちと、舞茸の天ぷらというユニークな野菜のおかずが魅力。こちらは我妻さんのフェイバリット。スタッフからの人気も高い。
「海苔弁 海」1080円(税込)。皮がカリッ、身がふわっの銀鮭。鰹節は築地や市場まで出向いて安定的においしいものを仕入れているそう。
「海苔弁 山」1080円(税込)はメインが鶏の照り焼き。いつまでも柔らかく楽しめるのは、塩麹を揉みこみ一昼夜漬け込んでいるため。生姜が効いているのであっさりと食べ進められます。
「海苔弁 畑」1080円(税込)。れんこんの大葉もちと、舞茸の天ぷらというユニークな野菜のおかずが魅力。こちらは我妻さんのフェイバリット。スタッフからの人気も高い。
これすべて、海苔弁のお話です。17年の4月のGINZA SIXオープンと同時に話題となっているのが海苔弁専門店「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」。
なぜ海苔弁がここまで人を虜にするのか? 生みの親である我妻義一さんを直撃しました。この方、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo 」(スープストックトーキョー)や、 ネクタイ専門店「giraffe」(ジラフ)などを手掛ける「株式会社スマイルズ」の弁当事業部長さんです。
まずは、なぜ海苔弁の専門店をはじめようと思ったのですか?
「社内で弁当の話をしていた時に、海苔弁ってみんな好きだよね、という話になりました。でも、海苔弁はお弁当屋さんでも一番安い価格帯で売られているような、少しかわいそうな存在です。だったら、私たちが本当に納得のいく最上級の海苔弁を作ってみたらどうだろうか?という話になり、海苔弁専門店を始めることにしました。今のコンビニ弁当はレンジで温める前提ですが、昔のお弁当の記憶をたどっていたら、母が作るそれは温めなくてもおいしかったことを思い出しました。そこから「家庭料理の最上級」を目指そう、冷たいままでもどこか懐かしくてあたたかい気持ちになる、作り手から食べる人にその想いがじんわりと伝わるような海苔弁をつくろうと思いました。そういうのが本来のお弁当なんじゃないかなと。昭和の人間なんで(笑)」
高級弁当ではなくこだわりをもって手間暇かけたお弁当
![2層になった “ご飯+かつお節+海苔”の断面に、思わず頬がゆるみます。](https://assets-www.leon.jp/image/2018/05/02185223002354/0/5.jpg)
「海苔は2段がさねなんです。海苔が2枚、重ねられていると単純にうれしいですよね! 私たちはビジネス的な数字よりも、自分たちだったらこういうものがあったらうれしいよね、という素直な気持ちを大事にしている会社でして(笑)。 ただ、海苔の選定には相当こだわりました。どれくらい試食したか分からないほど。選定のポイントはまず柔らかいこと。最初の一箸で海苔が全部はがれてしまうことがないように、すっと切れる箸切れのよい海苔を探しました。次に味と香りです。しょうゆを塗って食べてみて最終的にたどり着いたのは、ごくわずかな海域で獲れる「青まぜ」という、自然に青のりが混ざっている海苔でした。」
それが、有明海で獲れる上位1%の、青海苔が付着する初摘みの海苔「青まぜ」だったそう。柔らかさと味が完璧で、ブラインドテストで「これしかいないね」と全会一致で決定したほど。たしかに、お店に伺うと。鶏肉や鮭を焼く匂いよりも海苔の香りが何より感じられたことにビックリ。
「ほかには揚げちくわのちくわは色々なものを揚げてみましたが、ちまたで普通に売られているものなんです。この海苔弁には雑魚を原料にしたものが合いました。割りしょうゆも普通の酒としょうゆを煮切った自家製のもの。決して高級にしたかったわけではなく、まじめに手作りに徹し、弁当全体の調和と味を追及した結果です。ただ、圧倒的においしい海苔弁ではあると自信を持っています。」
しょうゆを隅々にまで染み込ませるため、刷毛を使用。馬の毛やシリコン製などさまざまな素材で試行錯誤の末、現在のものに。
刷毛でたっぷりとしょうゆを塗ると、箱よりも大きくカットした海苔が収縮してぴったり収まります。
「お母さんがつくる家庭料理の最上級を目指しているから、玉子焼きはあえて焼き目をつけています。最初は、色むらのない黄色一色のもので試作を進めていたんですが、焼き目のついた失敗作を入れてみたらお母さんの手作り感がありしっくりきたんです。」と我妻さん。
一見量は少なく見えるかもしれませんが、鶏肉も鮭も大きくド~ンと乗っていますし、ご飯はお茶碗1杯ほどしっかり入っている、食べ応えのあるお弁当です。
しょうゆを隅々にまで染み込ませるため、刷毛を使用。馬の毛やシリコン製などさまざまな素材で試行錯誤の末、現在のものに。
刷毛でたっぷりとしょうゆを塗ると、箱よりも大きくカットした海苔が収縮してぴったり収まります。
「お母さんがつくる家庭料理の最上級を目指しているから、玉子焼きはあえて焼き目をつけています。最初は、色むらのない黄色一色のもので試作を進めていたんですが、焼き目のついた失敗作を入れてみたらお母さんの手作り感がありしっくりきたんです。」と我妻さん。
一見量は少なく見えるかもしれませんが、鶏肉も鮭も大きくド~ンと乗っていますし、ご飯はお茶碗1杯ほどしっかり入っている、食べ応えのあるお弁当です。
定番3種の「海・山・畑」
![GINZA SIX店で売れていくスピードにお弁当作りが追いつかないため、昨年11月にこちらの築地店をオープン。当初より行列は少なくなったものの、両店には常にお客さんがたくさんいらっしゃいます。](https://assets-www.leon.jp/image/2018/05/02185357840343/0/10.jpg)
「1種目は鮭に決まっていて、つぎに鶏肉がいいかなと。鮭は魚だから『海』で、鳥なら『山』かなと。そして野菜の海苔弁を作ろうとなり、それなら『畑』だろうと。今は日本古来の食材である乾物が気になっていて、つぎに作るなら乾物は風で作られるから『風』がいいなと。
『海ってないんですか?』と、商品を渡すだけじゃなく店頭で会話が生まれます。売り場にはお弁当のサンプルと最低限の情報しかありません。私たちの仕事は販売業でもあり接客業なので。情報の足りない部分はお客様との会話の中でお伝えしていきたいということなんです。よくご質問いただくのは『何分あたためますか?』というもの。そのご質問に対しては『冷めててもおいしいのでそのままでお召し上がりください』と答えています。あたためずそのままでもおいしい、家庭で作るようなお弁当の原点を目指しているからです」
食べてみると、我妻さんの言葉に納得。どの具材も手が込んでいるのがはっきりとわかるほど、それぞれの素材本来の味がしっかりと口の中で広がります。冷めてはいるのですが、思わず目をつぶってかみしめたくなるほどのおいしさが、じーんと心を解かしていくよう。
「お客さまからの『おいしかった』も嬉しい言葉ですが、『なつかしかった』と言ってもらえることが多くて、こちらの想いが伝わっているのな、と感じます」
![null](https://assets-www.leon.jp/image/2018/05/02185445262496/0/11.jpg)
◆ 刷毛じょうゆ 海苔弁山登り 築地直売所
住所/東京都中央区築地2-8-8
営業時間/11:30~17:00(商品がなくなり次第終了)
定休日/日曜・祝日
◆ 江戸前海苔弁 大田やの「海苔(極)弁当」
価格はチェーン店の約3倍!
![null](https://assets-www.leon.jp/image/2018/05/02185534367467/0/12.jpg)
指名率NO.1はやはり、海苔(極)弁当。“極”の名にふさわしく、そのお値段なんと1200円(税別)。ラインナップの中で最高額にも関わらず、1日100食も売れることもあるほど圧倒的な人気を集めているそうです。で、やっぱり聞いちゃいます。なぜ、海苔弁の専門店を?
![大田区の地形をそのままお店のロゴに。(もちろん大田区の許可済みです)](https://assets-www.leon.jp/image/2018/05/02185603108896/0/13.jpg)
「すでに江戸前海苔は製造されていないのですが、昔の名残で今もこの町には乾物屋が多く残っています。海苔はそこから仕入れています」と見せてくれたのは、本社を大田区に構える金子海苔店の寿司海苔。「熊本有明産の青まぜ海苔なんですが、香りがすごいんです」。あれ? こちらも青まぜ海苔とは! なかでも食べこたえのある肉厚のものを使っているそう。
いよいよ、厨房へ。空っぽの弁当箱の中に、ご飯…ではなく、いきなりかつお節を!? それ、あってますか早川さん? 「当初はご飯→かつお節→海苔の順でしたが、かつお節と海苔の香りがより活きるために、ご飯で挟みました。ですので、底からすくってお召し上がりいただくのがおすすめです。」聞けば、香り豊かな糸削りのかつお節なんだとか。そこに、醤油をなじませてほかほかのご飯を投入。2枚の海苔で箱一面にと敷きつめていきます。
新鮮なカジキを約160度で6、7分カラリと揚げます。
「そろそそかな?」と、揚げ物担当の大見さん。
「まだかな?」と、盛り付け担当は入社19年のベテラン、小松さん。ごはんが冷めるまでしばし待機。
鯛ちくわの高級磯辺揚げも完成! この中にチーズが入っているとは…味が気になります。
カジキと磯辺揚げが大きいため、2品だけで下の海苔がほぼ見えない状態。
新鮮なカジキを約160度で6、7分カラリと揚げます。
「そろそそかな?」と、揚げ物担当の大見さん。
「まだかな?」と、盛り付け担当は入社19年のベテラン、小松さん。ごはんが冷めるまでしばし待機。
鯛ちくわの高級磯辺揚げも完成! この中にチーズが入っているとは…味が気になります。
カジキと磯辺揚げが大きいため、2品だけで下の海苔がほぼ見えない状態。
決してお弁当が小さいわけではないんです。カジキのフライも磯辺揚げもなんと大きいこと! 「お客さんの顔が見えない配達でお届けするので、見た目にはかなり気を使っています。最初、カジキのフライはもっと大きかったですが、見栄えのバランスがおいしさに直結するので、試行錯誤を繰りかえすうちにこの大きさに」と早川さん。カジキの形を判断基準に、ひとつずづ丁寧に手作業で盛り付けられています。
![海苔(極)弁当 1200円(税別)](https://assets-www.leon.jp/image/2018/05/02185812532241/0/22.jpg)
注文が込み合って受けられない場合もあるそうで、お早めのご連絡がおすすめですよ。
![null](https://assets-www.leon.jp/image/2018/05/02190002377671/0/23.jpg)
◆ 江戸前海苔弁「大田や」
お問い合わせ/03-5499-2200・FAX 03-5499-2626
配達エリア/東京都内・横浜・川崎
●弁当宅配希望の前日の午前中(8:00—12:00)までに、電話かファックスで。注文個数は配送エリアによっても異なりますので、詳しくはHPをご覧ください。
海苔弁の“おいしい”と“癒し”に、私たちの心は高鳴ってしまうのかもしれません。