2018.07.25
老舗バー「サンボア」のハイボールはなぜ氷なしなのか。
第二次ハイボールブームも落ち着きを見せてきたように思える昨今。ここに100年変わらないスタイルでハイボールを供してきたバーがある。その一杯を作る姿はもはや求道者にも似て……そのスタイルはどこからやってきたのか。
- CREDIT :
文/秋山 都 写真/松井康一郎
ここ「サンボア 銀座店」はひと言で表すならスタイルのあるバーだ。午後3時の開店とともにどこからともなく紳士(ときどき淑女)が現れて、1、2杯を飲んですっと立ち去る。「XXは禁止」とどこかに書いてあるわけではないけれど、マナーと礼儀の不文律を皆が心得ている。
そんな彼らが多く手にしているのが「ハイボール」。言わずとしれたウイスキーのソーダ割りだ。そして「サンボア」のハイボールは他の店とはひと味もふた味も違う。その作り方はシンプル(に見える)。じっと穴の開くほど見て、家でも真似してみたが、決して同じ味にはならない。なぜなんだろう。 サンボアとは? そしてそのハイボールとは? 「サンボア 銀座店」のオーナーバーテンダー新谷尚人さんに聞いた。
100年の老舗バー「サンボア」
サンボアには10年以上修業したものにのれん分けを許すという独特の独立制度がありまして、僕も学生時代に大阪・南のサンボアでアルバイトを始めてから10年をひとつの節目と捉えていました。94年に北新地サンボアを開業、03年にはこの銀座店を開け、11年には浅草店……つまり僕のサンボアは3店あります。いま現在ほかに11店ありますから、全国には14軒のサンボアがあるということになりますね。
それぞれの経営者がいるので、すべてがまったく同じスタイルとは言えませんが、それでもやはり似たようなトーン&マナーがあるのは事実です。たとえば、カウンターが店の中心である。バーテンダーは白いバーコート(上衣)とボウタイを着用する。BGMがない。極端な軽装のお客様はお断りする。そんなお店が多いかな。これらはやはりそれぞれの修業先で叩き込まれたサンボアスピリッツだと言えるでしょう」
サンボアのハイボールができるまで
日本にいつからハイボールがあるのか? それはわかりません。でも、今のサンボアの原型といえる大阪・堂島のサンボアがオープンした1935(昭和15)にはあったはず。というより、ウイスキーはストレートかソーダ割りしかなかったんです。水割りが出てきたのはずっとずっと後のこと」
ここで、サンボアのハイボールの作り方を紹介しておこう。
「氷がないことがミステリーのように言われますが、昔は今のように簡単に氷が作れるわけではなかったし、冷蔵庫に氷を入れて冷やしていた時代。そんな貴重な氷を個々のグラスに入れるわけにもいかず、でも冷たく召し上がっていただくために酒瓶やソーダを瓶ごと冷やしていたんです。
ソーダを垂直に、突き立てるように入れるのは、ハイボールをステア(バースプーンで軽くかきまぜる)しなくて済むように、なのかなぁ。はっきりしたことはわかりません。まあ時短テクニックなんじゃないですか(笑)」
「ダブルですからね、飲み過ぎにはご注意くださいね」
数々の酒場で酔い、失態をさらしてきた筆者だが、このサンボアでだけはしくじりたくない。粋に飲んでさっと帰りたい、と思わせてくれる店はそうはないだろう。これからも大切に通いたい名店のハイボールを、ぜひ味わっていただきたい。
◆ サンボア銀座店
住所/東京都中央区銀座5-4-7 銀座サワモトビル B1F
TEL/03-5568-6155
営業時間/月~土15:00~24:00、日・祝15:00~22:00
定休日/無休
※ チャージなし。ハイボール1杯1000円~