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2018.08.06

海の底に眠らせたワインとウイスキーはどちらが美味しい?

沈没船から引き揚げられたワインやシャンパンが高額で取引されていることをご存知ですか? 海の不思議な力によってお酒が美味しく生まれ変わるのだとか。それを人工的にやってしまおうという試みが日本でも行われているのです。海底熟成ワインとウイスキー、それぞれのお味は?

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文/古関千恵子 写真/中川 司(店内)

フジツボなどが付着し、擦れて少しくすんだボトル。およそ半年間、海中で眠っていたお酒は、見た目からしてロマンがあります。なにせ自然が作ったものだから同じデザインはふたつとないし、この模様ができた様子を想像するだけでワクワクします。ボトルの眺めをつまみに、お酒が飲めるくらい。
で、気になるお味は? ウイスキーとワインで、海底熟成させたものと、そうでないものを飲み比べてみました。
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西伊豆の田子に3000本沈めた海底熟成ワイン。

日本でも海底で熟成したお酒を買うことができるんです

数年前、バルト海に沈んでいた帆船から引き揚げられた200年前のヴーヴ・クリコが話題になりました。テイスティングをした専門家はその鮮度にまずは驚き、明るいゴールドの輝き、はちみつのような味わい、そして農場のようなこうばしい香り、と評しました。このボトル、オークションにて3万ユーロもの高額で落札されたそうです。

海の底に眠っていたボトルたち。
微かな光を受ける水中で、干満の潮流にわずかに揺れながら、どこからともなくフジツボたちがやってきては根を張り、たまに魚たちがラベルを眺めに訪れる……。そんな日々を送っていたのかな、と想像が膨らみます。まさに海のロマン!
実は、沈没船から引き揚げされたものではないけれど、日本でも“海底熟成”を行ったお酒を入手することができます。今回は、この夏から予約販売をスタートするウイスキー「トゥールビヨン」と、6月に販売を開始したばかりのワイン「ヴォヤージ」にフォーカスしてみました。
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損得抜きで最高のウイスキーを海底に沈めてみた

まずは海底ウィスキーの「トゥールビヨン」。
今回販売するのは、2017年11月に南伊豆の海中に沈め、2018年6月に引き揚げた2種類のスコットランドのウイスキー。10年ものの蔵出しのアイラウイスキーと、もうひとつは“感動を追い求めて、最高のものを!”と掛け値なしに美味しい43年もののグレーンウイスキー。どちらも樽で輸入し、シーリング材を使ってボトルを蝋封したそうです。このシーリングが難しく、少しでも間違えると、ヒビが入り、水が浸入してしまうのだとか。試行錯誤を繰り返し、今年、初出荷を行います。
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海底熟成ウイスキーのトゥールビヨン。ラベルは箱内に添えられています。衛生面を考えて、ドロップストッパーも添付。10年もの300本限定3万円、43年もの100本限定 8万円(いずれも税別)
仕掛人の柳谷智宣さんは探求心旺盛な、情熱タイプのもよう。海底熟成に興味をもったのをきっかけにダイビングのCカードを取得し、沈めるウイスキーも期間や種類を変えるなど、さまざまな条件下でテストを重ねました。研究所にも出向き、味が変わるメカニズムをデータ的に解明しようともしました。けれども、液体の分子は機器で撮影することができず、結局はわからない……。
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貯蔵庫は海水が出入りできる格子状のがっしりとした造りのものを使用。
「おそらくは……」と前置きをしながら、「水中は空中の300倍くらい音の伝達率が高く、“振動”が関係しているのでは。波の音、石がぶつかる音、水中にはいろんな音が溢れていますから。ボトルは密封をされているので、内容物に変化はないはずです。それでも、 “熟成が加速する”というか、水中に置いてあるのは7カ月間なのにもっと長い時間をかけたような、味の変化があります。そしてアルコール度数が高い方が、味に違いがはっきり出ますね」

どうやら、海底に沈めたものは味が歴然と違うようです。しかも変化のカギを握るのは“振動”のもよう。
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「トゥールビヨンはフランス語で“渦”という意味。海の力で熟成させたウイスキーなので、そう名付けました」と、柳谷智宣さん。
「味というより、ロマンごと買っていただきたい」と柳谷さん。本当においしいものをと、追求するあまり、今回は完売したとしても利益はゼロだとのこと。「次回はもう少し商売を考えなくては」、とぽそり。買うなら、今年が狙い目です!

ちなみに、原価BARで1杯1500円、ハーフショット750円で飲むこともできます。
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西伊豆の海底はある意味ワインセラーと似た環境

もうひとつは海底熟成ワインの「ヴォヤージ」。
モンペラ・ルージュ、コノスル20バレル、シャトー・ピュイグロー、カサーレ・ベッキオ、熟成に適した赤ワインのフルボディで、4タイプを用意。2017年12月、西伊豆に3000本を沈め、2018年5月末に引き揚げたもので、こちらも今年が初出荷です。
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海底熟成ワインのヴォヤージュ 各1万800円(送料、税込み)
ワインはウイスキーと異なり、温度が大切。西伊豆の海水温は12月から5月の間が15~19℃でほぼ一定
、紫外線も入らない点ではワインセラーと共通しています。こちらの仕掛人の土本直矢さんも「波の影響などにより発生する音の微振動がワインの酵母に働きかけているのでは。音楽を聴かせるのと同じ。可能性の話ですけど、ね」

海中でのボトルの並び方を工夫したおかげで、フジツボや魚卵が風合いよく付着し、中にはエチケットがはがれずに残っているものも。
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風光明媚な西伊豆の美しさも、海底熟成ワインの味わいに影響を与える?
開発部主任の鈴木さんは「チリ、フランス、イタリア、世界各国で生まれたワインが旅に出て、西伊豆の海で眠り、お客様の元へ。特別な節目や新たなる門出に飲んでいただきたい、という気持ちを込めて、という気持ちを込めて、ヴォヤージュ(旅立ち)と名付けました。西伊豆の美しい海のことも、知っていただけたら」と。新たなるステージへ向かう方へ、贈りたいワインです。
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明らかに飲み口が変わってまろやかな味わいに

ではでは、お待ちかねのテイスティングです。
ソムリエでもなんでもない編集MとライターCが、一般ユーザー代表として味わってきました。
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海底熟成ウイスキーのトゥールビヨン。左が1972年の43年もの、右が2006年の10年もの。
まずは海底熟成ウイスキーの「トゥールビヨン10年もの」。
M「尖った感じが丸くなった。もともといいお酒だけど」
C「そのままのものはアルコール感が強い? 密閉してあるのでアルコール度数は落ちてないのですか? 何かの香りが移った、あるいは加わった、というのではなく、味自体が変わっていますね」
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注ぎ口にドロップストッパーを添えてトゥールビヨンをグラスに。
同じく「トゥールビヨン43年もの」。
M「こりゃ、結構違いますね。沈めていないものも、もとがすごく美味しいけれど、海中熟成は明らかに甘みが増している」
C「沈める前のものは香りがすごい! 海底熟成は香りが落ち着いた感じ」
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海底熟成ワインのチリのコノスル カベルネ・ソーヴィニヨン 20バレル リミテッド・エディション。
海底熟成ワイン「ヴォヤージュ」。
C「沈める前の方が、しっかりぶどう感があるかな? 軽やかになった?」
M「山の稜線ががきれいに整えられた感じがする。まろやかなのだけれど、それだけではない旨みも感じるね」

※これは素人の個人の感想です。
いわば、ロマンの味? どんな味かは、自分の舌でご確認を。そもそも封を切るのがもったいなくて、目で味わいたいお酒たちです。

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