2019.03.10
【科学】本能か理性か!? モテるってなんだ!?
映画やドラマはもちろん、私たちの日常はモテる、モテないで世界は回っている。シビアな自然界から私たちが得られるモテの策とは。進化生物学の目線から論じてみたい。
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文/宮竹貴久(進化生物学者)
すべてのオスは、メスにモテたい
ところが鮮やかな斑点を持つオスは捕食者にも目立ってしまい、狙われやすいという代償を払っている。そんな危険を顧みずにメスへ必死のアピールをするオスの姿は、我々人間の目から見ればなんとも涙ぐましい。
しかし、そもそもなぜグッピーのメスはオレンジ色を好むのだろうか。その答えは餌にある。卵を産みたいグッピーのメスは、餌をより多く食べようとする。そんなメスが反応するのは大好きな餌のオレンジ色だと考えられている。つまり、オレンジ色に刺激を受けるというメスの感覚をオスが利用したというわけだ。
生物の恋愛は錯覚から始まる!?
いったんこのような感覚的な好みがメスに生じると、オスが発する刺激は世代を超えてどんどん強くなるよう進化し、その刺激を好むというメスの性質もより強くなる方向へと進化する。
地球上にじつに色とりどりのファッションをまとった野生生物のオスが棲息するのは、この仕組みのためである。野生の生物界はモテるために頑張ったオスたちで満ち溢れているのだ。

メスはどんな”ファッション”を好むのか?
愛の巣であるこのあずま屋作りのポイントは、いかに青い色で巣を飾り付けられるかにかかっている。この鳥のメスは、青色の刺激に惹かれる。森に棲むオスは青い色をした鳥の羽根を、街に棲むオスは青色の洗濯バサミやペットボトルの蓋を必死に運んできては巣のまわりに散りばめてメスにアピールする。
ときにはせっかくちりばめた青い装飾品がライバルのオスに奪われてしまうこともあるけれど、それにも落ち込むことなくオスは再び青い飾りを集めてはメスへのアピールを欠かせない。青だけではなく、黄色や白の飾りが人気になることもあるらしく、ファッションはときによって変わる。

クジャクの雄は”目玉の数”でモテ度が変わる?
トロント(カナダ)での最近の研究によると、145個より目玉の数が多いときは、メスは目玉の数が多いオスにより惹かれるのだけれど、目玉が144個より少ないときには数は関係なかったそうだ。ちなみにもっとも目玉模様の数が多いオスは169個だった。
これはカナダのクジャクであったが、日本のクジャクでは目玉の数ではなく、オスの鳴き声によってメスの恋心は揺さぶられるようだ。そう。ファッションは、ところによっても変わるのである。
オスは見た目が100%……オナガドリじゃなくて良かった!?
スウェーデン人の鳥学者がオナガドリの尾をちょんぎって、別のオスの尾に接着剤でくっつけた上でメスがどのオスに惹かれるか観察した。果たして、多くのメスは目の前に突如現れた自然界ではありえない二倍の長さの尾を携えた超イケメンの整形オスにメロメロになったのだった。
ヒトはモテ度に10%の余白がある
ヒトに生まれた我々は見た目に加え10%の何か、より高度の何かを提供できなければ、DNAを残すことができないのだ。それを過酷と呼ぶのは簡単だ。しかし諦めたオスは野生の生物界では生き残ってはいない。過酷な運命を受け入れた上で、男たちにとって常に全力の努力が大切であることを野生のオスたちは教えてくれる。

●宮竹貴久/進化生物学者
進化生物学者。岡山大学大学院環境生命科学研究科教授。博士(理学)。著書に『恋するオスが進化する』KADOKAWAメディアファクトリー新書、『「先送り」は生物学的に正しい 究極の生き残る技術』講談社+α新書、など。