2021.12.31
【vol.14】能の真髄を学ぶ/前編
約700年前から現代に続く、世界最古の舞台演劇!? 「能」の魅力を完全解説!
いい大人になってお付き合いの幅も広がると、意外と和の素養が試される機会が多くなるものです。モテる男には和のたしなみも大切だと、最近ひしひし感じることが多いという小誌・石井編集長(47歳)が、最高峰の和文化体験を提供する「和塾」田中康嗣代表のもと、モテる旦那を目指す連載。今回のテーマは「能」です。
- CREDIT :
写真/トヨダリョウ、米山理功(動画) 文/井上真規子 取材協力/観世会
能楽は、歌舞伎や文楽、落語など数ある日本芸能の中でもっとも起源が古く、あらゆる芸術に脈々と影響を与え続けてきた、芸能の頂点ともいえる存在。そして700年近くにわたり、絶えることなく受け継がれてきた現存する世界最古の舞台芸術でもあります。この日本が誇るべき芸能の魅力を知らないなんてもったいない!
そして、みなさんご存知でしょうか? 観世流の総本家となる観世能楽堂は、銀座6丁目にあるGINZA SIXの地下にあることを。今回の御指南いただく場所は、この大都心の奥深くに鎮座する伝統芸能の聖地! しかも石井編集長は実際に舞台上で稽古をつけていただけるということでかなり緊張気味です……。
銀座の目抜き通りに面した地下3階に最高峰の能楽堂が!
田中 僕は、デートでお能に女性を誘うのはすごく粋だと思うんです。強印象を残せますからね。しかもこの観世能楽堂は、銀座のド真ん中にあってデートに最強の立地。
石井 確かにここなら観劇の後に食事にも行けるし、バーへ飲みに行くこともできますね。銀座デートで「お能&ディナー」ってもう手練れの域ですね。
石井 確かに!
田中 というわけで、今日1日お能の魅力を学んで粋なオヤジを目指しましょう!
世阿弥の子孫である山階彌右衛門先生がご登場!
石井 あ、あの教科書に出てくる世阿弥ですか!? なんだか聞いただけでしびれてきました……。本日はどうぞよろしくお願いいたします!
山階 石井編集長、本日はよくお越しいただきました。よろしくお願いいたします。
石井 それにしても、銀座のド真ん中にこんな非日常的な空間が広がっているなんて、驚きました。
石井 そうだったんですか。本来の場所に戻ってきたんですね。
田中 今日はお能の魅力について色々伺いたいと思っております。そして、山階先生ご自身もお能を披露してくださるということで……。とても楽しみにして参りました!
石井 なんて贅沢なんでしょう!
山階 では、まずは実際に見ていただくのがよろしいかと思いますので、「高砂」という曲を舞わせていただきます。結婚式や正月に舞うとてもおめでたい曲で、恋愛成就の神様ともいわれているんです。私の舞をご覧いただければ、いいことがあるかもしれません。
石井 はは~。山階先生、ありがたく拝見いたします!
能は、世界最古の現存する舞台芸術!
石井 素晴らしくて、魂が震えました!(興奮気味)
田中 本当に! そして石井編集長、いよいよ本日はお能のお勉強ということで。
石井 僕の中では、これまででもっともハードルが高いんじゃないかと緊張しています! 早速ですが、成り立ちなど基礎知識を簡単にお教えいただければと思います。
山階 能は今から約700年前、室町時代に成立した芸能で、今でいうミュージカルやオペラのようなものでした。踊り、お芝居、語りという要素がすべて入っています。
田中 お能は700年前から途切れることなく伝承され、今でも上演されています。こうした演劇は海外を見てもほかにありません。世界にも、古代ギリシャの演劇や中国の戯曲など、古い演劇はありますが、どれも途切れています。
田中 現存する世界最古の舞台演劇が日本で受け継がれてきたということ。残念なことに、この事実が日本で意外と知られていないんですね。
石井 そうだったんですね……。世阿弥は今でも小説やコミック、映画、ドラマにも登場していて、名前は若い人も知っている。そこからもう一歩進んで、お能自体に興味を持つことが大切ですね。そして、今日は世阿弥の子孫である先生のお能を生で見せていただいて! 気持ちが昂ります。
【ポイント】
■能は700年前の室町時代に成立した世界最古の舞台演劇
■大成者は、世阿弥
■大成者の子孫が受け継いでいる演劇としても世界最古
初心者は、歌舞伎の原型になっているわかりやすい能を観るべし
山階 よく能は難しいと言われますが、これは700年前の敬語がそのまま使われているから。だから事前に、演目のあらすじを簡単にでも予習してみてください。ブロードウェイのミュージカルでも、物語を知らないまま英語の舞台を見たら、なかなか理解できないのと同じですね。英語がわかる方は別ですが。
石井 ある程度、話の流れを把握しておけば、言葉が分からずとも「今、どんな場面なのか」ということが予測しやすくなるわけですね。
山階 そうです。それから能の曲には、キーワードになる「謡」が入っています。余裕があれば、見る前にその謡がどんな意味なのか調べて覚えておくと、五感で能を楽しめるようになると思います。
田中 お能は、歌舞伎など他の舞台芸術と比べて背景や小道具もほとんど使わないし、観客に対する状況説明が少ないんです。だから多少の準備が必要ですが、その分、頭の中でいかようにも想像を膨らませることができる。それがお能の大きな魅力ですよね。
田中 はじめが本当に肝心ですね!
山階 最初は、鬼や侍、天女が出てくるようなわかりやすい曲をお選びいただくのがよろしいかと思います。
石井 具体的にはどういった?
田中 3つとも鬼が出てくる演目ですね。
山階 また歌舞伎の代表的な演目で市川團十郎家に伝わる「勧進帳」は、能の「安宅」が原型になっています。歌舞伎の「勧進帳」では義経と弁慶の主従一行が6人出てきますが、能の「安宅」では倍の12人が出てくるんです。
石井 それはとても迫力がありそう!
山階 古典のほかに、能から派生した芸術も色々とございます。黒澤明監督の映画『虎の尾を踏む男たち』は、先ほどの「安宅」をもとに作った作品です。「安宅」を見ながら、彼女さんなんかにそういう豆知識を披露すると、よく知っていてすごいな、となるかもしれませんね。
石井 先生からそんなアドバイスが頂けるとは! 参考にさせていただきますっ。
【ポイント】
■能は700年前の敬語が使われているから理解しにくい
■事前に簡単なあらすじを調べておくと、わかりやすくなる
■最初は、歌舞伎の原型になっていて、鬼や侍、天女が出てくるようなわかりやすい曲を選んでみるべし
■初心者には「安宅」、「紅葉狩」、「土蜘蛛」、「船弁慶」などがおすすめ
■黒澤明監督の映画『虎の尾を踏む男たち』は「安宅」をもとに作られた作品
能の言葉は、さまざまな格言や文化の源流になっている
山階 四季折々の曲を舞えるようにお稽古をして、宴席があれば一節歌って盛り上げるということをしていたようです。
石井 先ほど山階先生が舞ってくださった「高砂」は、まさにそういうおめでたい宴席などに歌われてたお能なんですよね。
山階 そうです。「高砂や、この浦舟に帆を上げて〜」とはじまる、門出を祝う曲です。昔の方は皆、謡うことができたんですね。
田中 そして、お能には人生やビジネスに役立つような言葉もたくさんあります。例えば「初心忘るべからず」も世阿弥の言葉です。
石井 そうだったんですね!
石井 そこまで解説していただくと、自分が意味をはき違えていたことがよくわかりました(笑)。「絶えず成長して行かなくてはいけない」ということですね。能を素養にすることで、生きていくうえでの心構えも学ぶことができるわけですね。
石井 あ、ここですか! 檜で作られた能舞台は、もっとも晴れがましい舞台なんですね。じゃあ能楽堂のデートで「今日はふたりの檜舞台だね」なんてことも言えちゃうわけですね(笑)。
田中 アハハ!
石井 お能は700年という歴史の中で、さまざまなカルチャーや文化に伝播してきたんですね。短い時間お話を聞いただけでも、たくさん派生していることがわかりました。そういう自国の文化を知らないのはもったいないことですよね。
田中 特にグローバルに活躍する人は知っておくべきだと思います。お能にハマると、そういう知識にもどんどん出あうようになって本当に面白いです。
【ポイント】
■明治期までのデキる男性は、仕舞と謡を稽古して宴席で披露していた
■能の「高砂」は大変めでたい曲
■能は「初心忘るべからず」などビジネスの精神に通じる言葉も多く生み出している
■檜舞台とは能の舞台のこと。そこから転じて晴れがましい場をさすようになった
能舞台に隠れされたさまざまな仕掛けが面白い!
山階 役者の舞う姿を、横から見ることができるのも能舞台ならではですね。
石井 一度正面から見た演目を、今度は違う角度から見ることで、また別の楽しみ方ができるわけですね。
田中 ちなみに正面はそのまま正面席ですが、横向きの席も脇正面と呼ぶんですよね。どちらも正面であるという。
山階 ツウな方は脇正面席にお座りになることが多いです。正面席では見られない部分を、見ることができるので。
石井 やはり演じている時は、観客の様子が伝わってくるものですか?
山階 そうですね。世阿弥も「お客さまを見て演出を考えなさい」という教えを残しています。初めてのお客さまが多いと思ったら少し派手に演じたり、能をよく知っている常連のお客さまが多い時には深く掘り下げて演出をしたり、その日に合った演出を心がけるようにしております。
田中 一方的ではなく、受け手と送り手の交換があるんですね。
石井 こちらの能楽堂は、木材を多用した壁や波打ったつくりの天井など、音響に工夫が凝らされているのがわかりますね。
田中 能楽堂によっても響き方が違うんですよね。編集長も実際に舞台に立ってみたら実感できると思いますよ! この後は、お稽古をして舞ってもらう予定ですからね。
石井 頑張って挑むつもりでおります!
山階 緊張しないで楽しんでください!
※後編(こちら)に続く
【ポイント】
■能舞台は非常に珍しいつくり。緞帳がなく終始丸見え
■正面の席を正面席、横側の席を脇正面席という
■ツウなお客さんは脇正面席に座る
■上演中は客席が明るく、演じる側からよく見られている
●山階彌右衛門(やましな・やえもん)
能楽師。シテ方観世流職分。二十五世観世左近次男。父及び二十六世観世清和に師事。2007年十二世山階彌右衛門襲名。重要無形文化財総合指定保持者。2020年「第四十回 伝統文化ポーラ賞」優秀賞受賞。
海外公演にも多数出演。全国各地の学校や企業で能のワークショップや公演を継続的に行い、普及活動にも尽力している。
● 田中康嗣(たなか・こうじ)
「和塾」代表理事。大手広告代理店のコピーライターとして、数々の広告やブランディングに携わった後、和の魅力に目覚め、2004年にNPO法人「和塾」を設立。日本の伝統文化や芸術の発展的継承に寄与する様々な事業を行う。
和塾
豊穣で洗練された日本文化の中から、選りすぐりの最高峰の和文化体験を提供するのが和塾です。人間国宝など最高峰の講師陣を迎えた多様なお稽古を開催、また京都での国宝見学や四国での歌舞伎観劇などの塾生ツアー等、様々な催事を会員限定で実施しています。和塾でのブランド体験は、いかなるジャンルであれ、その位置づけは、常に「正統・本流・本格・本物」であり、そのレベルは、「高級で特別で一流」の存在。常に貴重で他に類のない得難い体験を提供します。
■和塾
HP/http://www.wajuku.jp/
■和塾が取り組む支援事業はこちら
HP/https://www.wajuku.jp/日本の芸術文化を支える社会貢献活動