2021.12.26
「お酒のチカラ」に頼らず、人との交流を深める方法
いまや、「飲みニケーション不要」と考える人は6割だとか。そもそも「お酒のチカラ」とはなんでしょう? それは「お互いが自己開示して、理解しあえるようになる」。つまり、「お酒のチカラ」を借りずに、腹を割って話せるようになればいいのです!
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文/斉藤 徹(起業家、経営学者)
「うまくいかないときは、チームの関係性から見直してみてはいかがでしょうか」と語るのは、起業家、経営者であり、ビジネス・ブレークスルー大学でも教鞭を執る斉藤徹氏です。「売り上げなどの“結果”を作ろうとすると、チームは負のサイクルに陥ります。はじめに“関係性”をよくすること。するとチームメンバーの“思考”と“行動”を高めやすくなり、“結果”がついてきます」。
斉藤氏の新刊『だから僕たちは、組織を変えていける』から、そのヒントを紹介します。
日本生命保険が2021年11月に発表した調査結果では、回答者の6割が飲みニケーションを「不要」と答え、2017年の調査開始以来、初めて「必要」の割合を上回りました。新型コロナウイルス禍で、お酒に頼らない親睦の在り方を模索する人が増えているようです。
そもそも「お酒のチカラ」って何?
では、ビジネスパーソンが頼っていた「お酒のチカラ」とはなんでしょうか? それは「自己開示によって、メンバーの相互理解を促すチカラ」です。この段階を超えると、対人関係における「心理的安全性」がぐっと高まり、お互いに「本音で言いあえる間柄」になるのです。
あなたは、はじめて会った人とすぐに打ち解けて、本音を言えるタイプですか? 多くの場合、相手のことをよく知らないうちは、少なからず警戒することでしょう。「どんな人なんだろう」「なにを求めているんだろう」「自分にとって味方なのか敵なのか」など、いろいろな考えが渦巻く人も多いと思います。知らない相手に対して不安を抱くのは、ごく当たり前の心理です。
しかし、自分が相手に不安を感じるように、相手も自分に対して不安を感じているのです。それゆえ、お互い探り探りの付き合いになり、腹を割って話すことができず、お見合いのようなカタチになり、相互協力や助け合いも進みません。
これが、ともに働くチームメンバー内で起きてしまうと、組織の生産性にも影響してきます。ここを最も手軽に解決できる手段が「お酒のチカラ」だったのです。
飲み会の場で「お酒のチカラ」を借りてざっくばらんに話し、お互いが自己開示して、相互を理解しあうと、「ラポールの形成」と呼ばれる状態になります。ラポールとは「橋をかける」という意味のフランス語ですが、まさに双方の心に橋がかかるのです。すると「この人は自分に不利益をもたらす存在ではない」と確信でき、お互いの警戒心が解かれ、本当の協力関係が生まれるのです。
「う〜ん、でもお酒のチカラなしでラポールを形成することは難しいなあ」
人間関係づくりをお酒に頼りがちの職場では、そう考えてしまいがちです。ですが、実はそんなことはありません。
共通点を見つけて話しかけてみる
そのためにできることは、例えば「笑顔」です。とても簡単なことですが、この第1歩ができない社会人が多いのです。特に上司になればなるほど「厳しい顔」をするのが仕事だと感じている人も多くいるでしょう。でもそれが、人間関係を育むための壁となっているのです。
人間には「ミラーニューロン」と呼ばれる神経細胞があります。これによって私たちは、他者との間に相互作用が発生し、無意識のうちに環境から強い影響を受けてしまいます。そのため、自分から笑顔になり、オープンになると、次第に相手の警戒心が解かれ、相手も少しずつ気持ちがオープンになります。場を明るくしたければ、自分から始める。ここが大切なポイントなのです。
例えば、リーダーはその責任感ゆえに、場やメンバーを統制しようと試みます。しかし、人の心は操作できませんし、操作しようとすると逆に働いてしまうものです。それは、誰もが「自分の生き方は、自分で選択したい」と強く思っているからです。
だから、リーダーは人をコントロールしようとするのをやめて、人が前向きになるための場づくりのアイデアを考えましょう。どうすれば一人ひとりが積極的になるか、メンバーとともに真剣に向き合うのです。そうすれば、お酒のチカラに変わるクリエイティブなアイデアがいろいろ生まれてくるでしょう。
例えば、次のような工夫は効果的でしょう。
① 会議のはじめに、ポジティブな話題をみんなでシェアしあう
② 個々にライフラインチャートをつくり、これまでの人生や職歴をシェアしあう
③ 会議では、仕事の進捗だけでなく、メンバー個々の忙しさや悩みをシェアしあう
④ 会議ごとに、メンバーの抱える仕事の悩みを、みんなで協力して解決しあう
このような工夫で、お互いの関係性は育まれて「本音で話せる場」になっていきます。この「ざっくばらんに、良いことも悪いことも話せる」ことは、これまでのビジネスではあまり意識されてきませんでした。ですが、最新の経営学では「チームの生産性を高めるために最も重要なこと」のひとつとして認識されています。
グーグルの大規模な実験によって有名になった「心理的安全性」という言葉が、それを表しています。チーム内の心理的安全性が確保されているほど、メンバーは肩の力を抜いた自分らしい姿でプロジェクトに向き合い、リスクが存在する言動であっても、目標達成のために発言できるようになります。結果として、チームの生産性を高める成功因子となるのです。
お酒の場がマイナスに働くことも…
例えば、飲み友達の間で同じような意見が繰り返されるため、愚痴グループになってしまう、お酒を飲む人と飲まない人の境界をつくってしまう、お酒の場が好きではない人に対する同調圧力となってしまう、などです。
これから大切なことは、お酒が作り出していたポジティブな側面を生み、逆にお酒が作り出していたネガティブな側面を排除するよう、科学的なアプローチで「心理的に安全な場づくり」をすることなのです。
では、どのようにすれば心理的に安全な場が生まれ、やる気に満ちたチームができるのか。それも一時的なものではなく、持続的に場の心理的安全性を維持するためには、どうすればいいのでしょうか。これは2つのステップにわけて考えるといいでしょう。
・共感デザイン
個々のメンバーが自然体で他者に共感する感覚を取り戻し、チーム内の関係性を高める。「自然体(ホールネス)の自分に戻る」「他者を人間として尊重する」「本音で話せる間柄になる」という3つのステップで、信頼関係をつくる。
・価値デザイン
信頼関係のあるメンバーが集まって率直な意見を出し合い、それを集約し、価値を創造する。「意識を価値創造に向ける」「建設的に第三案を共創する」「場に安心感を生む」という3つのステップで、集団的知性を発揮していく。
まとめると下記の図のようになります。
人は対話を通じて、いい関係性をつくることができます。いいチームを望むのであれば、手間と時間をかけてその土壌を耕しましょう。そのためにもまずは自分からはじめる。それが組織を変えていくための第1歩になるでしょう。
これを機に「お酒のチカラ」を手放して、2022年はチームの相互信頼に向き合ってみてはいかがでしょうか。
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" 経営に「心」を取り入れるための必読書だ。"
——大前研一(ビジネス・ブレークスルー大学学長)
" 組織はひとりでは変えられない。そう思っている人にこそ読んでもらいたい、希望の書だ。"
——佐藤尚之(さとなお)
変わり続ける社会では、前例踏襲の管理型組織では対応していけない。
組織に自律性をとりもどし、変化から学ぶ「学習する組織」を目指そう。
そのために僕たちは、結果よりも「関係性」と向き合わなくてはならない。
世界の経営学、組織論、リーダー論によって解き明かされる、たったひとりから組織を変えていくための超実践的メソッド。
「チームのメンバーをいくら指導しても結果がでない」
「目標を厳しく伝えているのにやる気になってくれない」
「そもそも、今のやり方は本当に正しいのだろうか?」
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斉藤 徹著 クロスメディア・パブリッシング 2068円(税込)
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