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2022.01.25

フレディ・マーキュリー、アレキサンダー・マックイーン。時代を変えた男たちはどこが違うのか?

時代に爪痕を残すような成功者は普通の人間とどこが違うのでしょう? 映画ライターの牧口じゅんさんが偉人たちの伝記映画から彼らのサクセスした秘密に迫ります。その後編。

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文/牧口じゅん イラスト/ゴトウイサク

時代に爪痕、足跡を残し、世界に変化をもたらす成功者は、多くの人といったい何が違うのか。その何かを映画ライターの牧口じゅんさんが偉人たちの伝記映画から読み解きます。前編(こちら)ではスティーブ・ジョブズ(映画『スティーブ・ジョブズ』、小野二郎(映画『二郎は鮨の夢を見る』)、スティーヴン・ホーキング(映画『博士と彼女のセオリー』の3名を取り上げました。後編でご紹介するのは、このふたりです。

■ 映画 『マックイーン:モードの反逆児』 (2019年)

誤解すら武器にできるセルフ・プロデュース力 「アレキサンダー・マックイーン」

ファッションの分野にも、多くの成功者が存在します。その中で、同じ時代に生きた印象的なデザイナーといえば、アレキサンダー・マックイーンです。彗星のごとくモード界に登場し、時代を駆け抜けた彼。40歳でこの世を去った天才の短くも鮮烈な人生を紹介しているのが、『マックイーン:モードの反逆児』(2019年/イアン・ボノート監督)です。

ロンドンの下町イーストエンド出身で、タクシードライバーを父に持ち、モードとはまったく縁の無い環境で生まれ育ったマックイーン。英国紳士の聖地サヴィル・ローのテイラーで服作りを学び、何のコネもないイタリアでロメオ・ジリのアトリエの門を叩き、母国の名門校セント・マーチンで学ぶうち、その才能を業界屈指の目利きに見出され、世に知られる存在となりました。
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その後の活躍は、ファッション好きなら誰もが知るとおり。ただし、ブランドを立ち上げた後も失業手当でショーを行い、スタッフは手弁当。それでも人が集まったのは、徹底的な創作へのこだわりに裏打ちされた独創性によるものだったのでしょう。ショーの直前でも、納得がいかなければ修正を重ねる勇気はあっぱれ。名声ではなく服作りが大好きな一人の純粋な青年の姿からは、しっかりとダメだしが出来る妥協を知らない精神が映し出されていました。

でも、大成功の理由は、別のところにあるような気がします。それは社会が求めるモノを察知する力。まず、彼が注目された理由のひとつは、「イーストエンドの不良が、ハイエンドブランドを立ち上げて大成功を収めた」という異色のストーリー。ただし、劇中で家族が、「我が家は世間が考えるほど貧しくないし、リーは不良でもなかった」という趣旨の話をしています。リーとは、マックイーンのこと。確かに、不良とサヴィル・ローやロメオ・ジリは、あまり結びつきません。つまりこの成功物語は、勘違いを逆手にとったことをきっかけに始まったとも言えそうなのです。

世の中には、多くのデザイナーの卵がいます。その中で、才能だけでないない何かを持っていることは、大きな利点となるはずなのです。彼は、世間の誤解を追い風に、創造性を解き放っていました。ショーのコンセプトも、タブーに斬り込んだり、奇想天外だったりと恐れ知らず。マックイーンが反逆児であろうとしていたかどうかはわかりませんが、結果的に彼は世間が抱く彼のイメージを上手く取り込んで、異端児であり続けました。「世間が求める自分」を武器にするという、圧倒的なセルフ・プロデュース力で、常に革命的なファッションを打ち出し、確かにモード界に爪痕を残したのです。
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■ 映画 『ボヘミアン・ラプソディ』 (2018年)

失うモノは何もないと言い切るリスクテイカー 「フレディ・マーキュリー」

セルフ・プロデュース力といえば、この人も突出しています。英国のロックバンド、クイーンのフレディ・マーキュリーです。最後は、日本でも大ヒットした『ボヘミアン・ラプソディ』から、彼の成功の理由をひもといていきたいと思います。

映画は冒頭、1985年7月13日にロンドンのウェンブリー・スタジアムで行われた、エチオピア飢餓救済のチャリティ・コンサート「ライブ・エイド」に向かうフレディの姿を映し出します。そして時を遡り、そこに至るまでのクイーンの軌跡を追っていくのです。

クイーンの前身となったのは、ギタリストのブライアン・メイとドラマーのロジャー・テイラーが在籍していたスマイルというバンド。ヴォーカリストが抜けたことで、フレディが加入し、追ってベーシストのジョン・ディーコンが参加したことで、歴史的バンドが産声を上げました。奇跡の歌声を持つフレディは、パフォーマンスにおいても、音楽制作においても天才的。才能ある仲間と共に、数々の名曲、名ライブを披露し、スターダムにのし上がります。

類いまれなる個性は、一度観たら忘れられないビジュアル、透き通るような美声とともに私たちの心に刻みつけられました。フレディはじめ、クイーンが素晴らしいのは、常に新しさを提供してくれたこと。ヒット曲を飛ばすとレコード会社は、「また、あのような曲を」と言うのですが、「俺たちは繰り返しはやらない」ときっぱり。確実な手法はとらないリスクテイカーにして、チャレンジャーなのです。
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その象徴が、伝説的な名曲「ボヘミアン・ラプソディ」。前代未聞ともいえるロック・オペラの長さは6分。プロデューサーは「半分オペラで、呪文のような歌、しかも6分もある曲をラジオ局は流さない」と猛反対。ならば発売してくれる会社を探すとタンカを切って、レコード会社を後にするのです。

「失うモノは何もない」と言うフレディですが、すでに人気バンドであったクイーン。失うモノはいろいろあったと思うのですが、やはり天才は違います。もし、レコード会社の言いなりになっていたら、唯一無二のカリスマ的存在にはなっていなかったかもしれません。結果論ではありますが、彼らが信念を貫かなかった場合の方が、失うモノが大きかったように思えてならないのです。より高みを目指し、より自己表現にこだわり、可能性を信じ、未来しか観なかったからこそ、伝説が生まれたのでしょう。

フレディが言った「自分が何者であるかは、自分で決める」との言葉も印象的でした。成功して安全なレールが見えてきても、あえてそこを走らない。

「どこかに通じている大道(だいどう)を僕は歩いているのじゃない
僕の前に道はない僕の後ろに道は出来る
道は僕のふみしだいて来た足あとだ
だから
道の最端にいつでも僕は立っている」

高村光太郎の「道程」を地で行く格好良さです。

1991年11月24日に死去してから、30年が経った今もロック界のカリスマであるフレディ・マーキュリー。いつまでも色あせることのない彼は、今もこれからも、時代の先端を歩き続けていくのではないでしょうか。

ここで観てきた5人の偉人たちは、いずれも強烈な個性の持ち主です。そして何より、カッコいい! その格好良さを生み出すのは、世間に日和らない強い信念。自分の正解を自分で決められる強さが、時代を拓き、誰も見たことのない新しい世界を創れることができるということなのかもしれません。

● 牧口じゅん

通信社、映画祭事務局、映画サイト編集部勤務を経てフリーランスライターに。女性誌や男性誌を中心に、映画紹介、コラム、インタビュー記事を執筆。フードアナリスト、ドッグマッサージセラピストの資格を持ち、映画を絡めたライフスタイル系原稿も手掛ける。

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