2019.04.01
知っていますか? 「ポリアモリー」(複数恋愛)という生き方
恋愛する相手をひとりに定めず、複数と同時並行してつきあう。その相手は異性の場合もあれば同性の場合もある。しかもお互いが相手の複数恋愛を認め合う関係。そんな新しい愛のカタチ「ポリアモリー」が、いま、注目を集めているのです。
- CREDIT :
文/木村千鶴
それは一夫多妻とどう違うの? という疑問をもつかたもいるでしょう。一夫多妻(ポリガミー)ではひとりの男性が複数の女性を妻としますが、関係の主導権をもっているのは、あくまで中心にいる男性のみ。基本、女性たちはその男性以外とつきあうことはできません。しかしポリアモリーでは恋愛関係に参加するそれぞれのメンバーは皆自由に主体となってほかの人と恋愛することを認め合います。
ですが実のところ、パートナーがいながらも、他に好きな人ができてしまうのはよくある話。心は流動的であり、不変のものではありません。制度や倫理で縛れば、こっそりと浮気や不倫に走るということも、ままあるのが現実です。
ポリアモリーという生き方は、浮気や不倫の肯定とは違います。心が不変ではないことを認め、個人を尊重し、関わる全員がどうしたら幸せになれるかを真剣に考えたうえで発生した、ある意味自然の感情に素直に従う思想のようにも感じます。
相手は私のものじゃないし、私も相手のものじゃない
1) 合意に基づくオープンな関係
2) 身体的・感情的に深く関わり合う持続的な関係
3) 所有しない愛
4) 結婚制度に囚われない自らの意思と選択による愛
う~ん、これをするにはとてつもない包容力や信頼、感情や精神のコントロール、工夫、勇気、ありとあらゆるものが必要な気がしますが(笑)。果たしてこれは実現できることなのでしょうか。
その実態を探るべく、日本でポリアモリーを実践している人たちが中心となって開催している、「ポリーラウンジ」に参加してきました。まずはその主催者のひとりであるけっけさん(20代女性 会社員)にお話を伺いました。
「1対1に限定しない恋愛スタイル、排他的ではない恋愛の形ですね。そして相手は私のものじゃないし、私もあなたのものではないという、独占しない関係を築いています。現在4人のうち2人と同じシェアハウスに住んでいます。部屋は別なので基本的にそれぞれの部屋にいますが、3人で過ごすこともあるし、みんな仲良しで大切な存在。私はパンセクシャル(全性愛)なので、恋人の性別にもこだわりはありません」
ポリアモリーはフリーセックスやスワッピングとは違うもの
「4人の恋人のうち、体の関係まであるのは現在は一人だけ。ここだけを切り取れば普通に恋愛をしている状態なので、好きだからこその嫉妬はありますよ。他の人には恋愛感情はあるけど嫉妬心はなく、心の繋がりは強いですね。一緒に住んでいる人と3人でグーグルのスケジュール共有をしてるから、それこそそれぞれのデートのスケジュールまで知っていて、楽しんできてね、と言い合える仲です」
他の恋人の存在を隠さないということは、自然と秘密がなくなります。付き合いが長くなれば絆も深まるのかもしれません。
また、ポリーの人たちはセックスが好きだという誤解をされることも多いようです。ポリーラウンジには「ここの女たちは食える」のように思った人も来るとのこと。また、乱交のイメージもあるようです。
けっけさんの場合、1対1の関係がいくつか存在するという恋愛スタイルで、複数のプレイには興味がないとのこと。でも複数プレイなどを否定もしません。それはそれぞれの自由だから。それでは彼女は恋人たちにどんな愛情をもっているのでしょう。
「私は7人姉弟なんです。毎日が楽しかったし、愛情は1/7ではなく、7倍だと感じられるくらいたっぷり注いでもらいました。それと同じように、ポリアモリーとして生活するうえで、1人に対する愛情が1/4になるのではなく、何倍にもなると感じています。恋人の中には私を通して人間関係が広がることを喜んでくれる人もいる。私、恋人のことを考えると愛おしさで泣けるんですね。泣けるほどの思いがある人が恋人。肉体関係があってもなくても、お互いにその思いがあればそれでいい。恋人という呼称すらいらないかもしれません」
未熟なままではポリアモリーは実践できない?
「今、交際している人が1人と、僕が一方的に恋愛感情を抱いている人が1人、その人に恋愛感情があることを、本人にも交際相手にも伝えています。でも交際はせず“あなたが楽でいられる関係を尊重します”としていて、身体的接触はなく、友人として付き合ってもらっています」
状況や思いを伝えながらも実践しないのには理由があるのでしょうか。
「僕は人との距離の取り方が下手で、その人に依存したり、執着したりしがちなところがあります。性質としては複数の人に恋愛感情を抱くのでポリアモリーですが、ライフスタイルとしては実践できていない。独占欲もあるし、僕はまだ未熟なんです。もっと成熟しないと恋愛自体難しい。今は自分を見直しているところです」
「ポリアモラスなライフスタイルを実践できている人は、精神的に成熟している人が多いと感じます。欲や感情に振り回されない一対一の関係をちゃんと築けるからこそ、複数の人とも関係を成立させられるんじゃないでしょうか」
確かに精神的に自立していなければ、嫉妬心や独占欲などで自分がおかしくなりそうですね。では現在はポリアモリーを目指している感じなのでしょうか。
「そうですね、でもじゃあ僕はポリアモリー見習いか?と言ったらそうじゃないけど(笑)。師匠がいるわけではないので」
このスタイルに名前がついて心が楽になった
「昨年の夏に彼に出会って意気投合したんですが、彼は最初から複数の恋人がいると私に言っていました。実は私にも大事だと感じる人が複数いて……。その時に、彼にポリアモリーという概念を教えてもらいました。 腑に落ちたというか、安心しましたね。どうしても好きだと、大事だと思う人間関係を切れなかったんです」
安心したというのはどんなことからなのでしょう。
「このスタイルに名前がついて、この関係をそこに落とし込めるならば、心が楽になるなって思いました。でも、それでもいいし、それじゃなくてもいい。ずっとポリアモラスな生活を実践するまでの気持ちは今のところありません。動いていくものだと思っています」
「自分たちがポリアモリーかどうかは明確ではないと思っています。お互い、自分が関係する全員にこういう形であるという事を伝えているわけではないから。自分の気持ちの中にあるものも流動的で、明確ではないです。ただ、ポリアモラスな性質はもっています。もしかしたら明日、誰かと出会って、その人のことだけが好きになるかもしれないし。ただ、世の中にはこんな人が多いんじゃないかなって思います。正直なところはそうなんじゃないかな」
インタビューをした率直な感想はなんと正直で自由な人たちなんだろうということ。世間という枠や境界線のようなものを取り除き、自分の感覚で考え、すべてをあきらめず、大切にしようとしている人々だと感じました。
ここに出てきた話には、「正しい」も「正しくない」もありません。そういう生き方がある、というだけのこと。ポリアモリーという生き方をひとつの枠に括ることはできません。どんな生き方にも個々それぞれのライフスタイルがあるのと同じように。さて、あなたはポリアモリーをどう考えますか?