2022.04.19
清楚から奔放、強い女へ。芸能界で輝いた歴代「いい女」たちを検証してみた【前編】
日本の芸能界にはいつの時代にも多くの人に支持される「いい女」(=憧れの女性像)たちがいました。その代表的な存在を紹介しながら、時代ごとの「いい女」像を探ります。
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文/井上真規子 写真協力/週刊女性
そこで、世代ごとのトレンドをマーケティングや行動経済学の視点で研究している牛窪恵さんに、昭和から令和にいたるまで芸能界で活躍した「いい女」たちを通して、理想の女性像の変遷を解説していただきました。
封建的な「いい女像」を覆した、大竹しのぶの影響力
「そうした“いい女像”は、大竹しのぶさんの登場で大きな転機を迎えます。1975年公開の映画『青春の門』で、大竹さんは田舎出身の少女・牧織江を演じます。純朴ながら色気があり、男性をリードしていく役どころで、新しい女性像として男性たちから人気を集めました」
「日本には強い家制度が根付いていて、社会の大義としてセックスは子供を作るための行為であり、男性に一生面倒を見てもらうという誓いを立ててもらってからでないとするべきでないという考えが上の世代には根強かったのです。映画『青春の門』の牧織江は、そうした女性像や性への価値観を覆すような衝撃を世間に与えました」
さらに大竹さんは、86年からTBSで放映された大ヒットドラマ「男女7人夏物語」に出演。より進んだ女性像を演じます。
「ドラマのオープニングは、大竹しのぶさんと明石家さんまさんが同じベッドで目覚め、前の晩の記憶がなくて焦るというシーンから始まります。清純そうに見える大竹しのぶさんは、経験済みであることを隠す様子もない役どころで、ドラマでも結婚前からセックスをする年頃の男女が堂々と描かれたのです」
実際のところ若者の間では、徐々にそうした感覚は浸透しつつあったのだとか。しかし、テレビドラマで露骨に男女の性描写を行うことは、まだタブー視される雰囲気もあり、「男女7人夏物語」は社会学的にも男女関係の転機となったとされています。
1980年代末〜男に頼らず、働いて自立するカッコいい女性像
「しのぶさんは、さんまさんのせっかくの告白を振り切り、結局は仕事を優先したいとアメリカへ旅立つ女性を演じました。自分の夢を掴むために恋愛や結婚を後回しにして海外行きを選ぶという選択は、当時の女性たちに驚きと新鮮さをもたらしたのです」
「この段階では企業の“努力目標”ということで、男女平等はほとんど社会に浸透していませんでした。しかし99年に改正均等法が施行され、ようやく努力目標が「義務」となり、男女差別を徹底的になくそうという動きが加速していきます。多くの企業で、女性のお茶くみ、コピー取りが禁止に近い形になって、男女平等が進んでいくことに」
大竹しのぶさんは、「男女7人夏物語」で共演したさんまさんと結婚、離婚を経て、その後も様々な男性と噂になり、魔性の女と言われました。女優としてだけでなく、プライベートでも自由奔放に生きた大竹さんは、多くの女性たちに影響を与えたのです。
1990年〜「カンチ、セックスしよ!」の強セリフが社会にもたらした衝撃
「96年に放送されたドラマ『ロングバケーション』(フジテレビ)では、山口智子さん演じる葉山南と木村拓哉さん演じる瀬名秀俊が、等身大の“友達カップル”という新たな男女像を描き、多くの男女の羨望の的となりました」
1995年〜不倫する奔放な女たちが美化された時代
「部長職から左遷された主人公の中年男性と、大学教授で医師の夫をもつ女性の不倫を描いた作品。転落した男でも身分ある美しい女性と不倫できる、という男性にファンタジーを抱かせるような設定がヒットにつながります。ラストの舞台は鄙びた温泉宿で、華やかさは一切ありません。経済力と勢いを失った男性たちは、切ない不倫願望を抱えたまま、女性との情事に憧れを抱くようになっていきます」
「男たちは不倫する女を美化しましたが、色恋抜きで男女平等、社会進出を目指そうとする女性たちからすると、彼女たちは決して“いい女”とは言えなかったでしょう。96年には、石田純一さんが『不倫は文化だ』と発言したと報じられ、大炎上しました」
2000年~自分のスタイルを貫く女と玉の輿を目指す女
「“従順でおとなしい女”がよしとされていたように、以前は男性の価値観が“いい女像”に大きな影響を与えていました。しかしバブル前後になると、女性の価値観が主体となって、“いい女像”のイメージを作り上げていくようになっていきます」
2000年放送のドラマでヒットしたのが「やまとなでしこ」(フジテレビ)。松嶋菜々子さん演じるCAの神野桜子は、玉の輿に乗るべく奮闘するも、最後は純愛に目覚めるというストーリー。
※後編に続きます。
● 牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
世代・トレンド評論家。立教大学大学院修了、修士(MBA/経営管理学)。現在、同大学院・客員教授。1991年、日大芸術学部 映画学科(脚本)卒業後、大手出版社に入社。フリーライターを経て、2001年4月、マーケティングを中心に行うインフィニティを設立、同代表取締役。「おひとりさま(マーケット)」(05年)、「草食系(男子)」(09年)は新語・流行語大賞に最終ノミネート。近著は『若者たちのニューノーマル ―Z世代、コロナ禍を生きる』(日経BP)。