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そんな懐の深い街、銀座を使いこなして存分に楽しむために必要なことって何? その答えが知りたくて、街の魅力をよく知る、銀座の若旦那お三方に集まっていいただきました。
メンバーは、江戸時代から続く老舗「松崎煎餅」八代目の松崎宗平さん(右)と、呉服屋「銀座もとじ」二代目の泉二啓太さん(中)、そして一代で銀座を代表する「BAR yu-nagi」を作り上げた神木俊行さん(左)。全員30代という、まさに銀座の次世代を担う若旦那衆です。
皆さんに神木さんのバー「BAR yu-nagi」に集まっていただき、銀座デートのオススメ店や遊び方のポイント、変わっていく街への思いについてお話していただきました。
銀座だからこそ、デートは手頃でバランス感のよい店を選んでほしい
泉二 確かにどちらも銀座っぽいお店ですね。
松崎 「銀座升本」って、銀座の魅力を体現したようなお店でしょ。街のど真ん中に、いまもきちんと昔ながらのお店が残っているのが銀座らしいなと。銀座が小商店の集まりで成り立っている街だということも教えてくれます。なにより、イメージ通りの味が楽しめるのが魅力。昔ながらのハムカツがあって、美味しいお酒が飲めて、飾らないという。
泉二 象徴的なお店ですよね。そして「BAR yu-nagi」も、みんなが考える、まさにいまの銀座の雰囲気をもっているお店。「升本」からの「BAR yu-nagi」ってコース、グッときますね。これは本気デートのコースかも(笑)。
松崎 彼女に嫁にきてほしい時のコースかもしれない(笑)。どちらも銀座らしさを楽しめるお店なんだけど、コントラストがあって楽しいですよね。
神木 ありがとうございます。光栄です(笑)。うちのお店は、若いお客様も歓迎していますし、銀座をよく知らなくても物怖じされないよう、わかりやすい説明を心がけていますので(笑)。あと、待ち合わせ場所に使うお客様も多いので、ノープランの場合は、適正価格で美味しいものが食べられるお店を紹介させていただいたり。一見さんお断りのお店でも、僕の紹介なら入りやすくなると思いますよ。
泉二 すごい! 僕も今度、案内してもらいたいな(笑)。
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デートの店選びは相手に気を使わせないぐらいのラインで
神木 僕はデートなら、女性同士でも食べに行ける価格帯のお店を選ぶのが喜ばれる秘訣だと思うんです。いきなり高層ビルにある1人数万もするような高級店に連れていくと、警戒されてしまう可能性もあるでしょ。もちろん、高級店は知っているべきなんでしょうけれど。
泉二 確かにどの程度の店を選べばいいかって悩みますよね。一人7000〜8000円くらいが、相手にも気を使わせなくて、ちょうどいいのかもしれません。その点、「升本」だとたっぷり楽しめますね!
松崎 お店出る頃にはべろんべろんになってますね、多分(笑)。
神木 価格帯や気軽さでいうと、銀座1丁目にある「和牛グリル つばめや」なんかもぴったりです。銀座では日曜日に美味しいお肉が食べられる店も珍しいし。
松崎 それこそ一人7000円前後で、いいお肉が食べられますよね。ステーキやハンバーグと一緒に、ビールも楽しめて。銀座だし、高くて美味しいステーキ店はもちろんあるけれど、僕もお肉を食べるなら「つばめや」がおすすめですね。あと、焼き鳥の「伊勢廣」も好きです。
泉二 焼き鳥って手軽でいいですよね。
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泉二 うちの店の隣にある4丁目の「やきとり 武ちゃん」もかなりの人気店ですよ。夕方5時から、うちの店の前まで行列ができていますから。
神木 名店ですよね。気軽で、いいお店だと思います。
松崎 ちなみに、銀座の和食って高いところが多いイメージですが、実はリーズナブルで美味しいお店もあります。1丁目の「銀座 ささ花」は、一人1万円以内でコースが楽しめます。〆の土鍋ご飯は、具材が選べてすごく美味しいですよ。
泉二 東銀座の割烹「いしだや」も同価格帯で、おすすめです。本当に美味しい!
神木 うちのバーの地下にある、京都の祇園の芸妓さんが女将の京料理「真理福」も同じくらい。和食で1万円超えないって、店選びのバランス感的にベストかなと。女性を連れて行っても、気を使わせないし、いいお店知ってるんだなって感じがして、ポイント高いですよね。
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デートで使える銀座の夜景、気軽な和食!
松崎 個人的には東急プラザ10階の「つるとんたん UDON NOODLE Brasserie」から見る夜景が好きですね。銀座って高さ制限があるので、いわゆる高層ビルから夜景を見下せるような場所はないんです。でも、ここは銀座を象徴するような景色が楽しめるスポットです。
神木 たしか、数寄屋橋交差点が見渡せますよね。
松崎 そうなんです。子供の頃、父親の車にのって銀座に帰ってくる時に見ていた、皇居側から日比谷公園を通ってあの交差点を入っていくときの景色が記憶に残っていて。銀座の入り口って感じがするんです。あの景色を東急プラザの切子柄のファサードを通してみるとすごく綺麗で、好きですね。
泉二 いいですね。僕のおすすめはGINZA PLACEの7階にある「ティエリー・マルクス」からの眺め。和光の時計台を目の前に4丁目の交差点を見渡すことができて圧巻。銀座を思い切り感じられます。
神木 それはいいですね。まさに銀座という感じで。
松崎 あと、僕はドライブで楽しむ景色なんですけど。ギンザインズの上を走ってる首都高八重洲線の土橋入り口から京橋にかけてのコース。ここを走ると、銀座のど真ん中を滑走していく感じが楽しめます。自動車専用道路なのに無料で走れて5分くらいで通り過ぎちゃいますけど、すごい綺麗な夜景スポットですよ。銀座に戻ってきたんだなって、実感できるんです。
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若旦那たちが愛する、銀座といえば、な老舗の名店
松崎 夜遅くまでやっているので飲んだあとに行く場所としても良いと思います。
泉二 あと、3丁目の裏にある「チョウシ屋」のコロッケは、小さい頃からよく食べています。揚げたてのコロッケがテイクアウトできるんですが、すごく美味しくて。いまでも友達と休憩に寄ってコロッケを食べたりしてますね。デートで彼女と一緒に寄ってコロッケ食べるのも楽しそう。
松崎 ちょっと買って食べられるお店って、銀座は少ないですよね。なんか新鮮で、いいですね。
神木 知っておくと便利なのが夜遅くまでやっているお店。銀座は夜が早いんですけど、すずらん通り5丁目にある信州そばの「真田」。深夜4時までやっているし、長野県の食材にこだわっていて、そばと野菜が美味しいんです。日本酒も長野の銘柄が揃っています。
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銀座には時間帯やエリアによっていろんな顔がある
松崎 とくに晴海通りを挟んだ1丁目から4丁目と、5丁目から8丁目で別れている感覚があります。
泉二 「いちよん」と「ごっぱち」なんて言ったりして。僕はお店が4丁目にあって、「いちよん」が拠点なので、6丁目の「Bar yunagi」まで来るのはけっこう大変(笑)。別世界です。
神木 僕ら銀座の人間は、晴海通りを「川」と呼んだりします。「川を渡るの面倒くさい」なんて言いますね。みんな信号待ちをしたくないんですよね(笑)。僕がいる6丁目は夜の区画なので、一般の人は入りづらいかもしれないですね。とくに、並木通りは別格です。
松崎 はじめて夜の「ごっぱち」を歩いた時は、ちょっと大人になった気がしましたね(笑)。
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松崎 あれこそが銀座だと思いますね。
泉二 でも実は、裏の方には意外な面白い店もあるんです。久兵衛の真後ろにある「バーあるぷ」は、銀座らしからぬアンダーグラウンドなバー。とても雰囲気があって好きです。8丁目「トリバコーヒー」ビルの4階にある「GINZA MUSIC BAR」もかなりいいですよ。
松崎 そうそう。昼は喫茶店でトリバコーヒーが飲めて、夜はミュージックバーになるんですよね。壁一面にアナログレコードが並んでいて、DJがそこから選んでかけてくれる。
泉二 いいスピーカーを置いていて、音がすごく良いんです。夜中の3〜4時くらいまで寛ぐこともありますよ。ハウスの大御所DJも回しにくるくらい隠れたツウの遊び場なんです。知ってないと、なかなかたどり着けない穴場なお店ですね。
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銀座は、お店の雰囲気やTPOを大切にする街
神木 あの一角は銀座のなかでも、雰囲気がまったく違いますよね。政治家さんたちの極秘接待が行われるような場所ですから、僕らも正直、緊張しますね。
泉二 僕は家業もあって普段から着物を着ているんですが、あのあたりは着物を着て行くだけでも緊張します。目立つというか、逆に見られている感じがしてなんとなく怖いですね(笑)。
松崎 普段はドレスコードをあまり守らないのですが、「金田中」だけは父親に何を着ていけばいいのか聞きました。気にしなければならないルールがあって、そこを含めて楽しむのが良いのかなと。でも銀座という街全体でいうと保守的ではないし、最低限のところを守れば、あとは楽しく遊べると思うんです。もちろんお洒落して行きたいと思わせる街でもあるんですけれど。
神木 TPOは大切だと思いますね。確かに高級ブランドショップなら、きちんとしていかなければ良いサービスが受けられないこともあるので。でも、自分の店では服装だけでお客様を差別することはありません。むしろ平日に私服の人たちって、スーツを着る必要がない社長の方々だったりしますから。だから、ドレスコードがすべてではありません。
泉二 いますね。上には上がいる街だってことをわかっておいた方がいいと思いますね。服装よりも、モラル的な部分が求められているんです。
若い人にこそ、銀座に遊びに来てほしい
泉二 最近では、「GINZA SIX」や「東急プラザ」が次々にできて、街並みがまた変わりました。個人的には、数年前にできた「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」の存在なんかもすごくうれしかったですね。
松崎 「GINZA SIX」や「東急プラザ」の誕生は、銀座という街にとって新しい一歩なのかなと思っています。銀座には専門店が多いですが、この2つにはいろいろな商業施設に入っているお店が多く、見せ方もすごく渋谷や六本木的。その新しい存在が銀座の人たちに受け入れられるか、あるいはいままで渋谷や六本木にいた若い人たちがこれを機に銀座に来てくれるのか。どちらか一つでも叶えば、もっと面白くなるなと思っています。
神木 商売をしていくうえでは、やはり若い人たちに来てもらわないと続きません。バーのお客様は年齢層が高くなりがちなので、そういった意味でも若い方に来ていただけるのはうれしいですね。お支払いいただく金額は多くなくても、将来的にも通っていただけたらそれでいい。街にとってもいいことだと思います。
松崎 最近は外国人観光客の方たちが増えたこともあって、確かに街の雰囲気も変わり続けていると思います。僕は10歳の頃は4丁目に住んでいましたが、当時に比べてやはり若い人が増えました。有楽町からの流れもありますよね。
泉二 若い年齢層がターゲットの「有楽町マルイ」や「ルミネ」、「マロニエゲート」の存在も大きいでしょうね。そこに来た若い人たちが、そのまま銀座にも来るようになったわけですね。そういえば僕が高校生の頃、信号待ちをしていたら、後ろの女子大生に「高校生が来る街じゃないよね」と言われたことがあって。「お~い! キミたちより銀座知ってるから!」と心の中で突っ込んだ記憶がありますね(笑)。
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変わり続ける銀座の未来について
松崎 街がないと商売は成り立たないけれど、その逆も然りで、商売があるから街が活性化していくのだと思います。新しい商業施設が次々にできて街並みが変わっても、それぞれの店がしっかりと将来について考え、できる限りのことをやっていけば、銀座のこれまでの流れから大幅にブレることはないと思います。
泉二 そうですね。個々で頑張っている小商店が集まって銀座が成り立っているから、みんなで考えて変わっていけばいい。
神木 いまは、僕らの上の世代の旦那衆が銀座という街に熱い思いをもって街づくりを行っています。誰かひとりがリーダーとして方針を決めるということではなく、みんなで話し合って少しずつ銀座を変えていくということだと思います。
泉二 そして、やはり若い人に遊びに来てもらわないと街の魅力がなくなっていってしまいます。いままでの銀座も、これからの銀座も、新しい人やものを受け入れつつ、守るところは守って、代謝していくという体質はずっと変わらずに続けていかなくてはいけないと思います。
松崎 欲をいえば、もっと銀座に遊ぶところが増えたらいいなって。いまでこそ、グルメや商業の色が強くなってきていますが、映画館やギャラリーもたくさんある文化の街でもあるじゃないですか。だから、そういうイメージが戻ってきたらいいなとも思います。たとえば、「GINZA SIX」の能楽堂がすごく流行って人が集まったり、イベントや祭りができるような広場ができたり。エンタテインメント要素が増えたら銀座という街の幅も広がって、若い人たちももっと遊びに来てくれるんじゃないかって思いますね。
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