2019.08.17
「洒落た食いもんなんか大嫌い。作ってくれた料理をマズイと言っちゃダメ」
怒涛の昭和~平成~令和を生き抜いてきた梅沢富美男さんが考える「男の生き方、身の処し方」とは? 常に一本芯の通った、炎上を恐れぬ本音コメントは世の迷えるオヤジ&コヤジのバイブルですぞ!
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構成/紺野美紀 写真/内田裕介 イラスト/ゴトウイサク
それじゃデートで困るだろうって? そんなことはないね。お姉ちゃん口説く時は、どこへでも行きますよ。でも自分が好きで行くのは和食屋だけ。最近は女房ともふたりじゃ飯に行かない。彼女はフランス料理とかが好きだからね。だからって仲が悪いわけじゃない(笑)。家にいる時はいつも一緒に飯食ってるし。
よく男女は食の相性が一緒なのが大事なんて言うけど、俺は全然そうは思いません。だって、いくらフランス料理が好きって言ったって、毎日3食食うわけじゃないだろう。そういう趣味みたいな飯じゃなくて、毎日食べる家庭のご飯が大事なんだよ。おふくろの味っていうの? そういうものを大切にして、美味しいと思える感覚が大事なんだと思う。
どんなに料理下手な母親でもおふくろの味は特別
だから、家庭の味も婆ちゃんの味。と言ったって、俺が物心ついた小学生の低学年ぐらいからは劇団も傾いて大変な時で、本当に貧乏だったのよ。だからろくなものは食わせてもらえなかったけどね。
すえた飯ってわかるかい。ちょっと古くなって粘り気が出たような飯のこと。うちの婆ちゃんは、それを何度も洗って食わせてくれましたよ。当時は嫌だったけど、今はそれも婆ちゃんの愛情だと思う。おかげでちょっとやそっとじゃ腹をこわさなくなったしな(笑)。
なのに、そいつはカレーに関しては自分のおふくろのカレーが一番美味いって言うんだよ。いや、ほかのヤツが食ったら絶対まずいと思うよ。でも、彼には特別な味なんだろうな。それがおふくろの味ってやつなんです。
料理をする時に“塩をひとつまみ”って言うだろ。これが味の決め手。指が太い人と細い人では“ひとつまみ”が変わるでしょ。お塩の加減……、要はいい塩梅ってやつです。母親の指の太さの違い、それで家庭の味は変わってくるわけだ。
塩加減で味が決まる一番の料理はおしんこ。だから、東北ではおしんこは褒めちゃダメって言うんです。旦那が焼きもちやくからって(笑)。おしんこを褒めることは奥さんを褒めることになっちゃうからね。
奥さんが作った料理をマズイと言っちゃいけません
子供はそれぞれの家庭の味で育って、それが一生の味覚の基本になる。だから家庭の味っていうのは大切なんです。俺が家で頑張って料理を作ったり、娘たちに弁当を作ったりしてるのも、梅沢家の家庭の味、まぁオヤジの味だけど、それを大切にしたいと思っていればこそ。
俺の料理は18歳のころ、寿司屋のバイトで覚えたの。出汁の取り方も教わってみんなの賄いを作ってましたよ。それで料理することが好きになったんだ。芝居の創作と同じですよ。これとこれを合わせるとどうなるのかなって考えながら作るのは楽しいからね。
料理は別に奥さんが作らなきゃいけないとは思ってません。作りたいヤツが作ればいいんです。うちじゃ、俺が料理好きだから作ってるだけ。みんなが美味しいって言って食べてくれたら、俺も幸せだしね。
なかにはせっかく奥さんが作ってくれた料理を「マズイ」とか言って否定する旦那がいる。でもこれは絶対ダメ。そういう時は、「ちょっとしょっぱいかもね」とか、「ちょっと薄過ぎたかな」って言えばいいの。料理は作るのも食べるのも愛情。愛のない言葉は使っちゃいけません。
● 梅沢富美男(うめざわ・とみお)
1950年11月9日、福島県福島市生まれ。血液型B型。俳優・歌手・タレント。剣劇一座「梅沢劇団」の創設者で大衆演劇のスターだった梅沢清と娘歌舞伎出身の竹沢龍千代の5男として生まれ、1歳5か月で初舞台。15歳で本格的に役者の道へ。1976年、女形に転向し「下町の玉三郎」として大ブレイク。1982年には『夢芝居』で歌手デビューし50万枚を超えるヒットに。現在は「梅沢劇団」三代目座長として年間180日舞台に立つ傍ら、テレビにも数多く出演。バラエティや情報番組での歯に衣着せぬ直言コメントで人気を得ている。