2019.11.10

彼女とふたり、ときには静寂の豊かさを楽しむ温泉旅館はいかがですか？

福島県は磐梯熱海温泉の五百川の渓流沿いに建つ純和風旅館、「熱海荘」。全11室の客室はすべて異なる造りで、中でもオススメは川に臨む『天河の間』と『清流』。青森ヒバを使った内風呂も贅沢気分を味わえて、いい気分ですよ。

CREDIT :: 写真／長谷川直紀　文：いとうゆうじ

東北自動車道を北へ向かい、到着したのは五百川の渓流沿いにある全11室のみのお宿、「熱海荘」。こちらがもう第一印象からしてしっとり、しっぽり。これなら貴重な時間を割いてでも福島に来る価値がある、と思わせる納得の旅館です。

上品で控えめな空間の中で、ぼ~っとしているだけの贅沢な時間をどうぞ

「熱海荘」は立派な数寄屋造りの純和風旅館。敷地内には猪苗代湖から水を引いた安積疎水が流れ込んでおり、緑と相まって美しい庭園が演出されています。そのひっそりとした佇まいは大人の隠れ宿としてもぴったり。渓流沿いで対岸は小高い山というロケーションも落ち着きがあります。

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ロビーの一角に設えられた落ち着いた空間。抑えた照明が陰影を生み出し、しっとりした空間を醸し出す。
地階に設けられた出入り口から、中庭に出ることができる。秋は紅葉、冬は雪景色、春の桜に、夏の緑‥。四季折々の景色に癒される。

ロビーの一角に設えられた落ち着いた空間。抑えた照明が陰影を生み出し、しっとりした空間を醸し出す。
地階に設けられた出入り口から、中庭に出ることができる。秋は紅葉、冬は雪景色、春の桜に、夏の緑‥。四季折々の景色に癒される。

この宿の魅力のひとつは、空間づくりの巧みさ。廊下のちょっと空いたスペースなどにソファやベンチを設けて、ひっそりと休める場所が作られています。そこで水や緑といった、窓外に広がる景色を眺めているだけでも気分は癒やされますし、こういう静かな空間というのは都会では味わえない貴重なものです。

さらに、それを支えているのは、素材ひとつひとつまで吟味された建物の造り。新装の宿にはない、年月を重ねたことによって醸される、どこか懐かしい空気は、落ち着いた気分を訪れた人にもたらしてくれるのです。

館内は全体的に照明が抑えられており、それが陰影を生み出し、しっとりしっぽりとした空気感を醸します。それが、あからさま、わかりやすさといったものとは異なる落ち着きをもたらします。

取材時に宿泊したのは、渓流に面した『清流』というお部屋。ここからの景色が抜群で、秋は紅葉、冬は山水画のような雪景色、春は桜、夏は緑の木々と川面と通年で楽しめるのです。

また、この部屋には火鉢が置かれた縁側のような空間があり、そこから飽くことなく川面を眺めると、いつの間にか時間が過ぎるという、この宿ならではの癒やしを味わえます。

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600年以上前から湧き続けるいで湯と、会津の地の物を取り入れた懐石料理を味わう

温泉もいい。露天風呂は、その眺望が気持ち良く、対岸の山肌と緑、渓流が織りなす絶景はついつい長湯したくなるほど。アルカリ性単純温泉は、サラリとした肌触り。古来より病を癒やす名湯としても知られています。

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眼下には五百川のせせらぎ、目の前には蓬山。雄大な自然の中に浸れる露天風呂。天井が高く、開放感いっぱいの内風呂もある。
中庭には、猪苗代湖から水を引いた安積疎水が流れ込み、木々の緑と共に、美しい庭園を演出。

眼下には五百川のせせらぎ、目の前には蓬山。雄大な自然の中に浸れる露天風呂。天井が高く、開放感いっぱいの内風呂もある。
中庭には、猪苗代湖から水を引いた安積疎水が流れ込み、木々の緑と共に、美しい庭園を演出。

青森ヒバに囲まれた内風呂は、男湯に御影石、女湯には十和田石の浴槽が使われ、肌に触れる石の感触がなんとも気持ちいい。そして美人の湯といわれる温泉で心と身体をほぐしたら、食事処で懐石料理を味わいます。

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食事は地の旬の食材を使った懐石料理。写真の「炙りさくら握り」のように、会津の食文化を感じさせる料理もある。
土鍋で炊かれたご飯がまた絶品！
地元の素材を使った斬新な料理も楽しみ。写真は、そんな料理の一例「南郷トマトのすり流し」。

食事は地の旬の食材を使った懐石料理。写真の「炙りさくら握り」のように、会津の食文化を感じさせる料理もある。
土鍋で炊かれたご飯がまた絶品！
地元の素材を使った斬新な料理も楽しみ。写真は、そんな料理の一例「南郷トマトのすり流し」。

こちらのコースは、会津や郡山の郷土料理を取り入れたもので、こづゆや、馬肉を使った炙りさくら握りなど地元の幸を味わえるのも魅力です。

特に、東京で食べる馬肉とは大違いな、炙りさくら握りは会津の辛子味噌がアクセント。郷土料理のこづゆは、野菜がたっぷりでホッとするような味わい。懐かしい味がある一方で、南郷トマトすり流しなど地元の素材を活かした斬新なメニューも。さらに、A5ランクの福島牛のローストも柔らかくて美味。奥会津産の土鍋で炊き上げられたお米の銘柄は田んぼの土を熟成させたミネラルたっぷりの土地で育った“氏郷”です。香の物の三五八漬けまで、終始おいしさにヌカリなし、なのも印象的でした。

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野菜たっぷりの郷土料理「こづゆ」。季節に応じて、様々な郷土料理が驚きと感動を与えてくれる。
デザートも季節感たっぷり。写真は初夏の例だが、四季を通じて果物王国・福島ならではのお楽しみが満載。

野菜たっぷりの郷土料理「こづゆ」。季節に応じて、様々な郷土料理が驚きと感動を与えてくれる。
デザートも季節感たっぷり。写真は初夏の例だが、四季を通じて果物王国・福島ならではのお楽しみが満載。

そうそう、忘れてはならないのはスタッフの方々の礼儀正しさ。食事処に入る際にも必ず一礼するなど、とにかく気持ち良く過ごしてもらいたいという思いが静かに伝わってきます。その結果、全方位的にバランスが良く、いい感じにそっとしておいてくれるホスピタリティがあるのですね。

よって、大人のふたりが静かな時間を過ごせる宿として、「熱海荘」を選択肢に入れておけば間違いありませんよ。