2019.12.06
中野信子が語る「仕事を効率的にこなす」コツ
あなたが仕事に集中できないのにはワケがある!
脳科学者の中野信子さんによれば、人は、本来、仕事や作業に集中できないのが普通のことなのだとか。その理由とは? それでも集中力を高めるにはどうしたらよい? 脳との上手な付き合い方を解説してもらいました。
- CREDIT :
中野 信子(脳科学者)
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とはいえ、なかなか集中状態に入れないこともありますよね。こなさなくてはならないタスクが目の前に山積みで、早くやらなければと焦れば焦るほど、かえって気が散って集中できなかったり……。
ところが、この“集中できない”という状態は、実は脳科学的には、いたって“普通”のことなのです。むしろ集中しているほうが“危険”な状態ともいえるのです。いったい、どういうことでしょうか。
人の集中力が長続きしない理由とは?
もう1つ別の場面を考えてみましょう。隣の部屋で自分の子どもが泣いている。でも、あなたは作業に没頭していて一向にそれに気づかない……。これでは子どもの重大な異変にも気づくことができず、手遅れになってしまうかもしれません。
このように1つのことに集中しすぎてしまうと、生命や子孫を維持するうえで重大な危機にさらされてしまいかねません。だからこそ脳はさまざまな異常を検知すべく、1つのことに集中しにくいシステムになっているのです。
“異常の検知”とは、脳が周囲の状態をつねに監視し続け、それまでとは違ったおかしなことを発見するシステムです。例えば家にいるとき、それまでと同じ状態が続けばとくに何も検知しないけれど、どこからか焦げたような臭いがしてきたらすぐさま検知して、“何かおかしいぞ!”と警報を鳴らす。
これを行っているのが、大脳の内側面にある「帯状回(たいじょうかい)」という部分です。ここで“矛盾の検出”をし、脳にアテンション=注意・注目を促すのです。視覚や聴覚を通して得た情報に何か異常がないかをここで照らし合わせ、考える。そして異常が検出されたら、“何か変だぞ!?”という情動を脳内に引き起こすのです。
つまり、人間は注意散漫なほうがむしろ“正しい状態”なのです。要はもともとが散漫になるようにできている。早くやらなければと焦れば焦るほど逆に集中できないのは、焦って緊張感が増すことで、より帯状回がまわりの物事に過敏になってしまうからなのです。
集中力を高めるにはコツがある
それには、集中を散らす原因である帯状回を刺激しない環境を人為的につくることが第一です。“警報装置”を作動させる要因をできるだけ排除するというわけです。
集中力を高めるには、脳を鍛えるのではなく、脳が散漫にならないような環境を整える。そんな発想が、集中力を手っ取り早く高めるためのコツということになってきます。
では、帯状回を刺激する要因を取り除いて集中状態に入るには、具体的にどう環境を整えればいいのでしょうか? なんといっても効果が大きいのが、インターネットを切ってしまうことです。
今の時代、人間の集中力を妨げる大きな要因は、おそらくメールとSNSでしょう。パソコンのEメールやスマホのメール、そしてSNS経由のメッセージやコメント。これらにいちいち反応していたら、そのたびに集中力をそがれてしまいます。
SNSを“見るだけ”ならそれほど悪影響はないのでは?と思われるかもしれませんが、ちょっと想像してみてください。作業に集中しているときに、ポンとSNSの新着情報が入ったので、少しだけSNSを見てみる。すると、それによって頭がSNSモードになってしまい、元の集中状態に戻るのに、結局30〜40分もかかってしまった……。そんなことも結構少なくないですよね。
とくに今はSNSでもスマホアプリでも、何か新しいことが起こるたびに、ご丁寧に“アラート”で知らせてくれます。そもそもアラートとは、「アラート=警告」の意味のとおり、人の注意を引くためにあるもの。言うなれば、人の気を散らすのが本分なのです。同様に、何か更新情報が入った時に赤い数字で知らせてくれるパッチなども、できるかぎり人の目につきやすいデザインになっています。
本当に集中したいときは、思い切ってインターネットやEメールのブラウザを落としてしまいましょう。可能なら携帯電話の電源も切ってしまう。これだけで、集中を乱す原因のかなり多くをシャットアウトできます。
もし、携帯の電源を切るのが難しければ、留守電やマナーモードに設定し、集中したい作業の間は電話には出ないと決めてしまうのがいいでしょう。
また、メールのチェックは、普段から“見るのは朝10時と夕方4時の1日2回”などとマイルールを決め、それ以外の時間帯は見ないようにすると、作業効率がグンと上がること請け合いです。
机に雑誌を置かないほうがいい理由とは?
前述のとおり、焦れば焦るほど脳の帯状回が緊張を増してまわりの状況に過敏になり、むしろ集中しにくい状態になってしまうということが人間にはよく起こります。ということは、帯状回が緊張状態にならないようなリラックスできる環境を作ってあげれば、自然と集中力が高められるということでもあります。
例えば部屋の温度。これは暑すぎても寒すぎても集中を妨げる要因となるので、“適温”にすることが重要になってきます。とくに暑いと感情の動きが暴力的な方向に向かいやすいという社会学的な調査もあります。ですから、集中したいときは、少し温度を低めに設定してもいいかもしれません。
座りにくいイスや窮屈な衣服なども集中を乱す原因となりやすいので、長時間の作業には向きません。作業をする際は座りやすいいすに負担のかからない姿勢で座り、できるだけ着慣れた服で作業するようにしたいものです。
集中力高める「香り」と「音」
作業の合間に少し香水を体に振りかけてみたり、ディフューザーでアロマオイルを部屋に充満させたりする。こうすることで、ほどよくリラックスした状態で作業に臨めます。
一説によると、集中力を高めるには柑橘系の香りがよいとされています。ですから、作業中にレモンティーやオレンジジュースを飲んでみるのもいいかもしれません。ただ香りの好みは人それぞれなので、まずは自分が最もリラックスできる香りという基準で選ぶのがいいでしょう。
また、音が聞こえないと作業に支障が出るという場合は、音を遮断するのではなく、なるべく“刺激の少ない音を流す”という方法もあります。例えば波の音や風の音といった“環境音”を流す。
人工的な音ではなく、古来、自然界にある音を流すことで、耳に余計なテンションがかからず、より集中した状態で作業できるはずです。実際に作業効率を上げるために、オフィスのダクトから環境音を流している会社もあるくらいです。
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中野信子
1975年生まれ。東京都出身。脳科学者、医学博士。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻修了。横浜市立大学客員准教授、東日本国際大学客員教授。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行っている。