さらに、サウナの監修はLEON.JPでもおなじみ、サウナブームの火付け役「ととのえ親方」こと松尾 大さんとなれば、ただの銭湯ではないはずで……。サウナーからもアツい注目を集める堀田湯で、その魅力をたっぷりと教えていただきました。
再開発マンション族と古くからの地元民が一緒に楽しめる場所になるといいなって
堀田和宣さん(以下堀田) 堀田湯は祖母の代から80年続く、僕が生まれ育った実家なのですが、実は継ごうと思ったことはなかったんです。去年、父から「そろそろ今後この銭湯をどうするか考えたい」と相談されて、久々に銭湯に入ってみたんですよね。
そこで出会ったお客さんたちが、みんな本当にいい笑顔で。お風呂に入って、嫌な顔をしている人っていないじゃないですか。
ととのえ親方(以下親方) ハハハハ……、そうだよね(笑)。
昭和の時代は自宅にお風呂がない家庭もあったけれど、平成になるとそれもどんどん減ってきて、代わりに健康ランドやサウナがブームになったり。今ではもう、お風呂がないから銭湯に来る人が、ほぼいないんですよね。
日々のちょっとした贅沢というか、一日に一度のくつろぎを求めて来る人が多い。そういったお客さんに喜んでもらえる銭湯にしたくて、親方に登板してもらおうかと。
親方 共通の友人でもある、テイクアンドギヴ・ニーズの野尻会長から、創業メンバーの堀田さんが銭湯を継ぐことになるかもしれないから、話を聞いてみてくれないかと頼まれたんだよね。
堀田 そう、そんなご縁でお会いすることになって。実際に親方に堀田湯を見てもらおうと、店の前で待ち合わせをしたんです。その日の親方はここに来るまでに、この辺りのサウナ全部に入り倒していて(笑)。
親方 そう、いわゆる市場調査ね(笑)。
堀田 「ひと通り全部まわってきましたーっ!」て、そんな出会いでしたね。
親方 実際に歩いてみると、西新井はすごく家庭的で、のんびりしたいい街なんですよね。同じ東京でも渋谷や六本木とは、街並みも歩いている人も全然違う。この地元の方たちをないがしろにするようなものを作ったら、バチが当たるなと感じましたね。
掘田 西新井は再開発で大きなマンションが建ち、若いファミリー層が増えました。ただ人口が増えた反面、駅前にできた商業施設に足を運ぶ人たちも多く、商店街はちょっと元気がなかった。
堀田湯は、そんな街に生まれてしまったコントラストを、もう一度融合させて、みんなで楽しめる場所になるといいなと。「この街を温める。」というコンセプトも、そこから生まれました。
歩いて行ける距離にあって、誰にでも手が届く。高齢の方も多いエリアなので、毎日でも通ってもらって、サウナで健康になってもらう。実際にリニューアルを機に常連さんだけでなく、新規のお客さんたちもぐっと増えました。
子供の頃、銭湯に行った帰りにアイスを食べる──すごく贅沢な時間だったなあ
堀田 改装のため半年休んだので、皆さんオープンをとても楽しみにしてくれていて。外観がガラッと変わったから、常連さんの中には「俺たちが寄りつけないような雰囲気になっちゃったのかな」と心配する方も多かったみたいです。
僕としても、浴場にあるタイル絵も含め、皆さんが何十年と見てきた風景をあまり変えたくはなくて、新しい設備を導入しながらも天井やロッカー、浴場の絵などはなるべく残して、昔ながらの銭湯の雰囲気を感じさせながらアップデイトしました。常連さんたちも、ほっとしてくれたようです。
堀田 そうなんですよね。だから宮造りの屋根や格天井は、ちゃんと残したかったんです。
親方 男湯と女湯が繋がった高い天井を見ると「ああ、銭湯に来たなあ」と思うよね。この天井の作りが残っているのは、本当にすごい。ここで聞こえる「母さーん、もう出るよー」っていう声かけは、スーパー銭湯ではできないこと。絶対に残さなきゃいけないコミュニケーションだと思う。
都市部の場合は、そのタイミングで家賃収入を得られるマンションやビルにして、1階に銭湯を残すケースが多いんです。でも、そうなると銭湯の象徴でもある、格天井も残せない。うちは2度建て替えているけれど、幸いマンションにはしなかったので、昔ながらの風情が残っていて。残してくれた父に感謝しています。
休日の朝、お風呂に入ってから一日が始まるといいなと思って、リニューアル後は土日祝日は朝8時からオープンしています。オープン前に並んでくれている方も多いんですよ。自転車で来たファミリーとかおじいちゃん、おばあちゃん、地元の人ばかり。西新井の子供たちが大人になった時に、休日の朝のいい思い出になるとうれしいですね。
親方 僕も地元の札幌で、子供の頃に友達と自転車で銭湯に通っていて。今考えるとあれは、すごく贅沢な時間だったなあ。銭湯代とは別に200円くらいお小遣いをもらって、帰りにコーヒー牛乳を飲んだり、アイス食べたりしてね。
残念ながら銭湯の数は年々減ってきているけれど、日本ならではの銭湯文化をなくすわけにはいかない。この先100年、200年と受け継いでゆくためにも、奇をてらいすぎず、地域に根ざした場所になってほしいですね。
喫茶店やスタバの代わりに、銭湯で話そうよっていう世の中になるといい
親方 喫茶店やスタバの代わりに、銭湯で話そうよっていう世の中になるといいなあ。裸で語り合うと、深い話ができるしね。
銭湯やサウナでは、みんな平等。いくら威張ろうとしても裸では威張れない。それこそ本当の裸の王様になっちゃうでしょ。街の名士だろうが、そうじゃない人だろうが関係ない。上座も下座もなく、みんな平等。これもいい文化だよね。
堀田 江戸っ子は熱いお風呂が好きだから、昔から銭湯にある“熱湯(あつゆ・42℃以上)”は、絶対に残したほうがいい、と親方からアドバイスを受けました。熱いお風呂と水風呂に交互に入ると、「温冷交互浴」といって、サウナと同じように血行や代謝が良くなる効果があるんですよね。
堀田 確かに(笑)! あの水風呂は、昔から通ってくれている方にも好評でうれしいです。
親方 本来銭湯には「衛生」と「健康」という役割があるけれど、堀田湯は老若男女をめちゃくちゃ「健康」にするサウナにしたいなと。そこで考えたのが「薬草サウナ」。
無理せずに入れば、確実に健康にいいんだよね。ただ我慢大会になっちゃうと、具合が悪くなる人もいるから、気をつけなきゃいけないけれど。
堀田 そう、そこが親方のこだわりで、今回サウナに時計を置いてないんですよ。みんなあれのせいで、○分までは出ない! と修行みたいに頑張っちゃうから。
親方 サウナで自分と戦う必要はないからね。
── LEON読者に、堀田湯の楽しみ方を教えていただけますか?
親方 サウナに入って頭がスッキリすると、心にゆとりができる。清潔だし、肌ツヤも良くなるから、結果モテるよね。
堀田 LEONも読んで街の銭湯にも行く。そのギャップを楽しめるのが、大人の余裕ですよね。うちは24時まで開けているので、カップルでいらっしゃる方も多いんですよ。ぜひ堀田湯に彼女をエスコートしてもらって、西新井マップを片手にデートしてください。
堀田 いいなあ、それ。最高じゃないですか!
堀田湯
住所/東京都足立区関原3-20-14
TEL/03-3852-4126
料金/入浴:大人480円(サウナ利用は+男性400円・+女性300円)、手ぶらセット(入浴、サウナ、シャンプー、ボディソープ):男性1150円・女性1050円
営業時間/14:00〜24:00、土日祝8:00〜24:00
休/第2木曜
https://www.4126.tokyo
● 堀田和宣(ほった・かずのり)
1998年、大学在学中に株式会社テイクアンドギヴ・ニーズを現会長の野尻佳孝氏とともに設立し、取締役に就任。2003年、株式会社グッドラック・コーポレーションを設立し、社長に就任。ハワイ、グアム、沖縄、バリにおいて、ハイアット、ウェスティン、フォーシーズンズ等のブランドホテルにチャペルを多数保有し、国内外のリゾートウエディングを展開する。
● ととのえ親方・松尾 大(まつお・だい)
札幌在住。複数の会社を経営する傍ら、日本全国のサウナ施設のプロデュースを手掛ける実業家にしてプロサウナー。多くの人を“ととのう”状態に導いてきたことから“ととのえ親方”と呼ばれるように。
2017年には秋山大輔(サウナ師匠)とともにプロサウナーの専門ブランド[TTNE]を立ち上げ、11月11日をサウナの記念日「ととのえの日」に制定(日本記念日協会認定)。今行くべき全国のサウナ11施設を発表・表彰する「SAUNACHELIN(サウナシュラン)」をスタートさせた。
2019年、サウナに関する研究及び安全な利用に関する知識を提唱する「サウナ学会」を設立し、2021年にはサウナ機器世界No.1シェア「HARVIA」の国内正規代理店として製品販売を開始するなど、サウナ界におけるさまざまなジャンルで活動を展開。
メディア出演多数。日本各地に眠る素敵なサウナとカルチャーを探すYouTubeチャンネル「&SAUNA」に出演中。著書に『Saunner BOOK』(A-Works)、本田直之氏との共著『人生を変えるサウナ術』(KADOKAWA)がある。