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2022.11.10

【vol.13】和菓子を知る

和菓子を語れる男はモテる? 日本人の繊細な感性が詰まった奥深き世界

いい大人になってお付き合いの幅も広がると、意外と和の素養が試される機会が多くなるものです。モテる男には和のたしなみも大切だと、最近ひしひし感じることが多いという小誌・石井編集長(47歳)が、最高峰の和文化体験を提供する「和塾」田中康嗣代表のもと、モテる旦那を目指す連載です。

CREDIT :

文/牛丸由紀子 写真/椙本裕子 撮影協力/銀座萬年堂本店 取材協力/ダイナースクラブ(運営会社:三井住友トラストクラブ)

萬年堂本店 樋口喜之 石井洋編集長 田中康嗣 
▲ 左から萬年堂十三代目・樋口喜之さん、石井編集長、和塾・田中康嗣代表。
かねてから「和のたしなみを学びたい!」と熱望していた石井洋編集長が、和の達人から様々な知識と心得を伝授してもらう連載「モテる旦那養成講座」。案内役は、本物の日本文化体験を提供する「和塾」の田中康嗣代表です。

第13回の今回のテーマは、食べておいしい、見ても美しい和菓子です。導いてくださるのは、創業元和年間、京都を発祥とし現在は銀座に店を構える和菓子の老舗「萬年堂」の十三代目、樋口喜之さん。
マカロン、カヌレにバスクチーズケーキなど、スウィーツと言えばカタカナ名前のものばかりが話題になりがちですが、忘れてはいけないのが和菓子。気軽などら焼きから高級な生菓子まで、そのバリエーションは長い歴史とともに数えきれないほど。まさに日本文化を体現した食べ物なのです。

しかるに流行りのスウィーツに詳しい女性でも、和菓子となると「知識がないと難しそう」「何を買っていいかわからない」など、まだまだ敷居が高いと感じている様子。だからこそ、和菓子の知識があることは、男性にとってかなりのアドバンテージとなるわけです。
萬年堂本店 「ごえん」「野菊」「秋の野」「子持紅葉」
▲ 萬年堂のお菓子。左から時計回りに「ごえん」「野菊」「秋の野」「子持紅葉」。
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和菓子を知ることは、季節感や歴史、文学を知ること

田中 さて今回は「和菓子」。西洋菓子に比べると派手さはないが、奥が深い。欧米のものは、キラキラと華やかだけどいささか物語に欠ける。菓子も同じです。日本の文物には、季節の喜びがあり、歴史の積み重ねがあり、人々の暮らしがあり、森羅万象の物語がある。和菓子の場合、その素材は基本的に植物由来だから、カラダにもよろしい。腹が気になるオヤジの甘味は和モノが良いのです。

石井 スウィーツも和モノは奥が深いんですね。確かに和菓子にはちょっと特別な感じがあります。ちょい不良(ワル)ファッションで身を固めた男性から、美しい和菓子をもらったら、女性も確実に「あれ?」って思いますよね(笑)。

田中 モテる旦那には「ひねり」が必要だからね。イタリアン・スーツにバラの花と西洋スウィーツもいいけど、直球ばかりじゃつまらない。和菓子という変化球も知っておくべし。ただし、いつものように少し予習が必要です。

石井 なるほど、日本のスウィーツ、レパートリーに入れておきたいですね。モテ度が上がりそう。さっそく予習に参りましょう。

和菓子作りに初挑戦! 繊細な手さばきで美を表現

萬年堂本店 樋口喜之 石井洋編集長 田中康嗣 
▲ 都内某所にある萬年堂の菓子工房にお邪魔しました。
田中 そこで、今日はまず、創業400年余の和菓子の老舗「萬年堂」の十三代目、樋口喜之さんにご協力いただき和菓子づくりを体験してもらいます。綺麗な生菓子を眼にすることはあるでしょうが、それをどうやって作っているのかは、ご存知ないでしょ。一度作ってみれば、和菓子を語る時にも実感込められますから。

というわけで、まずは萬年堂さんの工房にお邪魔しました。樋口さん、無理を言ってすみません。こちらが石井編集長です。

石井 まったく初めての経験なのですが、よろしくお願いします!

樋口 初めてでも大丈夫ですよ。今日は「型もの」「へらもの」「布巾もの」という異なる作り方で、4種類の和菓子を作っていただきます。どれも餡(あん)を煉り切りで包んで、美しい形に仕上げていきます。
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田中 煉り切りとは、いんげん豆で作った白餡につなぎとなる求肥を少し入れて練ったものです。だから小豆の餡を白餡で包むということだね。

樋口 煉り切りという名の通り、鍋で練りながら仕上げる餡子だから「煉り切り」なんです。餡だけだと粘らないので、求肥を少し入れているんです。

石井 なるほど。いや~、ちょっと緊張しますが、どんなものができるのか楽しみです。

樋口 さあ、さっそく作っていきましょう。最初は「型もの」で、“子持紅葉”という秋の和菓子です。オレンジ色の煉り切りを丸く伸ばし、真ん中にこし餡をのせたら、手のひらの丸みを利用して指で伸ばしながら餡を包んでいきます。コツは厚みを均一にすることです。まずは私が見本をみせますから、続いて同じようにやってみてください。

ここで樋口さんが鮮やかな手つきで子持ち紅葉を作り上げていきます。
萬年堂本店 和菓子 子持紅葉
▲ 完成した「子持紅葉」。
そして石井編集長の番です。

石井 うわ、伸ばすのが難しいですね。伸びないから最後がちゃんと閉じない! 樋口さんがやると簡単そうなんだけどなぁ(笑)。
萬年堂本店 和菓子 子持紅葉
▲ オレンジ色の煉り切りを伸ばして、上にこし餡を置くところ。
樋口 いやいや、結構上手にできていますよ。表側にはぼかしをつけるために黄色の少量の煉り切りをのせて伸ばします。

田中 のせて、ぼかす。日本画の暈かしの手法もそんな感じですね。色が微妙に遷移する。まさに日本の美ですな。

樋口 それができたら型に入れ、押したら出来上がりです。

石井 できました! 何とか形になった(笑)。
萬年堂本店 和菓子 子持紅葉
▲ 石井編集長作の「子持紅葉」。一応形になっている⁉
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へらをひと押しするだけで生まれる、想像以上の表現

樋口 初めてにしては上出来ですよ。とてもきれいにできています。次は「へらもの」です。専用のへらを使っていろいろな形を表現します。今回は“野菊”という名のお菓子です。

田中 これは菊の節句とも言われる重陽の節句(9月9日)に合わせて供されることの多い菓子だね。和菓子は、季節の行事と密接にかかわるものが多いのですよ。ちょっとややこしいけれど、まずは、菊は秋、と覚える。
樋口 まず紫の煉り切りの中に白餡を包みます。さらに平たく伸ばしてこれを皮にして、小豆餡を包みます。包んだらへらで筋をつけます。このへらは二本筋を作る面と、とがっている面、少し丸い面があるんですが、一番とがっている面を使って、表面に筋をつけていきます。へらの動かし方は、立てたへらを中心に向けて傾けていく感じです。
萬年堂本店 和菓子
▲ 樋口さんが作った「野菊」。花びらまで美しく再現されている。
石井 いよいよ本格的になってきましたね(笑)。緊張するなぁ。筋は何本つければいいでしょうか?

樋口 決まりはないので、バランスよく等間隔につけてください。さらに丸く削った箸で花びらを作ります。筋の間を外側に優しく押すと、ほら菊の花びらみたいになってきたでしょう?
石井 うわっ、すごい! ひと押しで花びらができるんですね。おもしろい!

石井編集長も見よう見まねで何とか形にしました。

田中 押すことで煉り切りの中の白地が出てきて、花びらが立体的に見えるのも美しい。いや、かなり上手にできてるじゃないですか。なかなかなものだと思いますよ。

石井 才能ありますかね?(笑)
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ひとつひとつのお菓子に、意味ある名前がついている

樋口 次が「ふきんもの」、いわゆる茶巾絞りです。白、黄色、緑、ピンク、赤の5色の煉り切りを並べて平たく伸ばし、餡を乗せて包みます。
萬年堂本店 和菓子 ごえん
▲ 完成した「ごえん」。
石井 5色の餡は混ぜるのではなく、つながればいいのでしょうか?

樋口 伸ばしながらつながれば大丈夫です。形ができたら、表になる方を上にして布巾で包み、上を軽く絞れば出来上がりです。

石井 ふきんを開けるのがドキドキしますね。おっ、できてる!
樋口 これは5色の煉り切りをひとつにあわせているので、5つの縁で“ごえん”という名をつけています。

田中 ひとつひとつの菓子に、意味ある名前がついているのも和菓子の良いところ。手土産で女性に差し上げる時でも、秋も深まったから“紅葉”をとか、会えてうれしいから“ごえん”をとか、菓名が会話のきっかけになります。

石井 本当ですね。“ごえん”を渡すっていいなぁ(笑)。

樋口 さあ最後は「きんとん」で作る“秋の野”です。きんとんは、つくね芋と白餡を練って作ります。作った餡を裏ごししてそぼろ状にしたら、箸の先を使って餡のまわりにそぼろをつけていってください。

田中 つくね芋は大和芋ともいわれる山芋の一種。山芋を使った餡は上用餡と言われますね。
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萬年堂本店 和菓子 秋の野
▲ 出来上がった「秋の野」。
樋口 上用餡はお芋の香りも味も強いので、中の餡は粒餡にします。箸の先を使って、まず粒餡の下半分にそぼろをつけていき、そのあと上半分にもそぼろを乗せていきます。これはススキを見立てているんです。
石井 これは難しい! 均一にのせられないし、力加減が難しい……。僕のはどんどん大きくなっちゃって(笑)。樋口さんが作ったもののように、まわりのそぼろが軽やかな感じじゃないですよね。

樋口 かなり上手ですよ。この中だとやっぱりきんとんは一番難しくて、完成しない人もいるぐらいですから。
▲ 箸でそぼろを纏わせていくのはかなり難しい。
石井 いやあ、樋口さんはゆっくりやっているように見えて、まったく手さばきに無駄な動きがないんですよね。へらや箸だけで美しい形ができたり、やっぱり職人の仕事は素晴らしいと改めて感じました。和菓子には当時の人を楽しませようというアイデアがたくさん詰まっていることも、よくわかりましたね。ひとつひとつ手の中に小宇宙を作る、そんな体験でした。

【ポイント】

■ 「型もの」「へらもの」「布巾もの」など使う道具によってさまざまある作り方
■ 美しい和菓子を作るポイントは、繊細さと手速さの両立
■ 和菓子ひとつひとつに、季節や色から発想した意味を持つ

▲ 出来上がったお菓子を持って、銀座のカフェに移動!
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和菓子とは?  老舗に学ぶ歴史と粋な文化

田中 さて場所を銀座萬年堂の新しい店舗に移して、作ったお菓子をいただきながら、和菓子についていろいろお話をうかがいましょう。9月にオープンしたこちらは、新たにカフェも設け、お茶とともに和菓子がいただける。ここでしか食べられない、蒸したてや煉りたての和菓子もありますよ。

石井 素敵なお店ですね。普通にお洒落なカフェという雰囲気で。
田中 萬年堂さん、今ではすっかり東京の和菓子屋さんですが、創業の地は京都ですよね。

樋口 はい。元和年間(1615年~)に京都・寺町で創業しました。店に残る一番古い書き物に「元和3年に後水尾天皇にお菓子を納めた」という記述があるので元和3年創業としていますが、少なくともその数十年前から始めていたのではと思います。その後、明治の東京遷都とともに9代目が東京に店を移し、名前も「亀屋和泉」から「亀屋和泉 萬年堂」となりました。

京都では天皇家に出入りできるよう、和泉守(いずみのかみ)という官職をいただき、お菓子だけではなくお料理も献上していたようです。

石井 ものすごい歴史ですね。天皇家にも納めていたとは。
樋口喜之 石井洋編集長 田中康嗣 
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和菓子という言葉は明治以降に洋菓子と区別するために命名 

田中 日本の菓子、そのルーツは果物なんだけど、知ってます?

石井 フルーツが和菓子のルーツってことですか?

田中 そう。菓子と書いてクダモノと読んだ。

樋口 そうですね。現在一般的に和菓子のルーツは、日本書紀に残る田道間守(たじまもり)が黄泉の国に取りに行った不老不死の薬、いわゆる橘という果物と言われています。そこから木の実を加工したり、お米を加工した餅菓子が生まれました。例えば道明寺桜餅の素材である糒(ほしい)は、蒸したお米を砕いて干したもの。今で言うアルファ米です。ちなみに石井編集長は、餅の語源をご存知ですか?

石井 う~ん、まったくわからないですね。

樋口 昔お米はおかゆのように柔らかく炊いたものが主で、蒸して硬いものは「こわいい」干したものは糒(ほしい)「ほしいい」と呼ばれていたんです。お餅は乾かしてあるから日持ちしますし、戦場にも持って運べる。だから「もちいい」なんです。
田中康嗣 石井洋編集長
石井 なるほど! それは知りませんでした。でも僕らが今イメージするような和菓子になり出したのはいつ頃なんでしょうか?

樋口 いわゆる上生菓子が出てきたのは江戸時代ですね。和菓子という言葉も、明治以降に西洋文化が日本に入ってきたので、「和服」のようにあえて区別するために作った言葉なんです。

石井 この文化を大切にするために、洋物の菓子とは違うよという意味もあったんでしょうね。和菓子の特徴はどんなところにあるんでしょうか?

田中 ひとつには素材が基本的に植物性だということかな。

樋口 卵は使うことがありますが、それ以外は植物由来の素材です。もうひとつ洋菓子と大きく違うのは、和菓子は季節や行事、文化ととても密接だということです。お正月に花びら餅を、ひな祭りに菱餅、5月の節句には柏餅を食べるといったように、すべて季節や行事が関係しているんです。
樋口喜之
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田中 日本には、季節愛で、節目を大切にする文化がありますね。菊の花や紅葉をモチーフに秋を楽しんだり、冬には淡雪を模した菓子を供したり、春には桜のお餅を楽しんだり、初夏には無病息災を祈る「夏越の祓(なごしのはらえ)」に合わせて「水無月」というお菓子がでてきたり……。

樋口 萬年堂に真っ黒な「うば玉」というお菓子があるんです。ヒオウギという植物の実である「ぬばたま」のことなんですが、「ぬばたま」は和歌では髪とか夜とかにかかる黒いという意味の枕詞でもあるんです。そんな話を外国のお客様に説明したら、日本人はすごい! と感動していました。

田中 かつての日本人は、その名を聞けば、さまざまな和歌を思い浮かべて、たくさんのイメージを共有することができていた。

樋口 燕子花(かきつばた)の形のお菓子には、唐衣(からころも)という名前がついています。これは伊勢物語の「唐衣 着つつなれにし つましあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ」という句から。何度も着てなじんだ唐衣のように、長年慣れ親しんだ妻を都に残して、はるばる来た旅のわびしさを感じているという意味ですが、五七五の頭をとると「か・き・つ・ば・た」になるんです。
和菓子
田中 伊勢物語の九段目、東下りのワンシーンですね。日本美を象徴するモチーフのひとつだ。毎年初夏に公開される根津美術館の燕子花図屏風なら知っているかな。尾形光琳の作品で国宝に指定されている。描かれているのが「かきつばた」。唐衣というお菓子の名を聞けば、昔々の恋物語や光琳の屏風にまでイメージが広がる。豊かな文化でしょ。

石井 それはすごく粋な名前のつけ方だなぁ。和菓子は本当に日本文化と密接で、あんな小さい中にひとつひとつストーリーがあるんですね。

田中 そうだね、和菓子を前にした時、その物語に気づく素養も必要だということなんですが……。

石井 僕なら「気づかないのか、この無粋な男め」と言われそう(笑)。美味しい美味しいなんて言ってるだけじゃ駄目ですね(笑)。

田中 少しだけでも良いから、和の教養を身につける。男を上げることにつながるんだから、取り組む価値はありますよ。
田中康嗣(たなか・こうじ)

【ポイント】

■ 和菓子のルーツは果物や木の実。徐々にお米や小豆などを使うように。
■ 現在のような上生菓子は江戸時代から。
■ 素材は基本的に植物性のものを使用。
■ その成り立ちは季節や文化ととても密接で、ひとつひとつに物語性がある。
■ 名前や形から和歌や絵画などを連想させるものも。それを理解するオトナの教養も必要

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職人技を味で実感。和菓子で一番重要なのは?

田中 では、ここらで、萬年堂の看板のお菓子「御目出糖(おめでとう)」について。このお菓子、名前が良いから、お祝いの時などに手土産で持参することがよくあります。

樋口 はい。ありがとうございます。「御目出糖」はジャンルでいうと高麗餅という蒸し菓子のひとつです。高麗餅はその名の通り、秀吉の朝鮮出兵で佐賀に焼き物が伝わった頃のお菓子だと思います。それが時を経て東へと伝わり、350年ほど前に京都でうちの先祖が作り始めました。その後130~140年ぐらい前に、見た目がお赤飯のようだということで「御目出糖」と名づけたんです。
萬年堂 御目出糖
▲ 萬年堂の名物お菓子「御目出糖」。
田中 このままでも十分美味しいんですが、カフェでは蒸したての「御目出糖」が食べられるんだよね。

樋口 そうなんです。私たちは良く工場で蒸しあがった「御目出糖」の切り落としを食べるんですが、それがもうぶっちぎりの美味しさなんです(笑)。なので、ぜひ皆さんに味わっていただきたいと思ったんです。
石井 いや、これはもう間違いない。湯気にもそそられますが、最高においしいですね。やさしい味ですが、モチモチして食べごたえもある。

樋口 カフェ限定なので、ぜひ食べにいらしてください。

田中 では、先ほど編集長が作った和菓子も並べて、樋口さんのと食べ比べてみよう。まったく同じ素材でつくっているのに、味が違うんだよね。
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和菓子 体験
▲ 左は石井編集長作。右が樋口さん作。似て非なる(笑)お菓子。
石井 いや、見た目だけはそんなに変わらないんだけどなぁ(笑)。

樋口 でも初めてなのに本当に上手ですよ。

石井 だけど、断面が全然違う! 僕が作ったものは餡がめちゃくちゃ偏っていますが、樋口さんのはちゃんと真ん中にある。だからどこを食べても同じ味がするんですね。

田中 特にきんとんはね、そぼろを小さくまとめるのが素人には難しい。
石井 僕が作った方はそぼろがべちゃっとくっついちゃっているんですが、樋口さんのはホロホロのままなのでやっぱり美味しい。お寿司の酢飯が口の中でほどけるような感じなんですよね。お寿司の食べ方の達人から、そのほどけ具合で味も変わるという話を聞いたんですが、まさにそんな感覚です。

田中 舌触りだけでも味わいはずいぶん変わるからね。

石井 ちゃんと作れるようになるまで、どのぐらいかかるものなんでしょうか?

樋口 今日のような煉り切りはその日のうちにできるようになります。ゆっくり時間をかければなんとか仕上がります。

田中 プロは短時間に大量の菓子をつくらねばならないですから。問題は、素早くしかも美しく仕上げることができるかどうか。日本の職人技というのはたいていそうですね。早さも求められる。

石井 なるほど!
樋口喜之(ひぐち・よしゆき)
樋口 ただ、それより本当に難しいのは、素材づくり、特に美味しい餡子(あんこ)をつくることなんです。

石井 餡子づくり、ですか。

樋口 はい。菓子の仕上げは器用な方ならすぐできますし、センスがいい若者なら新しくてカッコいいデザインも考えられる。けれど、美味しい餡子づくりは、そんなこととは違います。私もいまだに餡作りには苦労しています。

田中 小豆ととことん付き合わなければ、良い餡子はできない。

樋口 ええ。小豆は出始めの新物と1年たった老成(ひね)の物では煮え方がまったく違うんです。これは本当に付きっきりで見ながら、いい頃合いまで煮てタイミングよく上げるのが大事なんですね。小豆をさらす時も、新物で渋が強い時は何度かお湯でさらして渋を切りますが、段々ひねていくうちにその回数を減らしていくなど、その日の状態や経験で判断しなくてはいけないんです。

石井 その日その日で小豆の状態を見極めて、丁寧に作っていらっしゃるんですね。餡づくり、一朝一夕ではいかないようで、ここにも奥の深い日本の文化がありそうです。
黒胡椒 羊羹
▲ こちらは黒胡椒の羊羹。大人の味で酒にも合う、ということで特別にスコッチ(樋口さんご推薦)と合わせていただくことに。和菓子とスコッチが合うなんて!
田中 和菓子の世界には、繊細で奥深い物語がある。今回はまず、その入り口を体験していただいたのだが、編集長、いかがでした?

石井 今回は実際に和菓子作りも体験して、形は同じようでもその繊細な技術が味の違いに表れることが本当によくわかりました。そしてなにより季節や文化との関係性の深さを伺って、これは日本人の大人としては知っておくべきだし、意外性くすぐるモテにはかなり使えると感じています(笑)。

今度はどんな和菓子をどんな季節やシチュエーションで手土産にすると良いのかなど、さらに勉強したいと思います。本当にありがとうございました!

【ポイント】

■創業400年、萬年堂の銘菓「御目出糖」は高麗餅をお赤飯に見立てたことから名づけられた。
■和菓子で一番難しいのは、美味しい餡を作り続けること。
■経験値だけではなく、その日その日の小豆の状態を見極めて丁寧に作るのが餡の極意。
■意外性と好奇心をくすぐるのが和菓子のギフト

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樋口喜之(ひぐち・よしゆき)

● 樋口喜之(ひぐち・よしゆき)

銀座 萬年堂本店13代目。1968年、東京都生まれ。成蹊大学経済学部卒業。高校・大学時代は水球に打ち込む。大学卒業後、大手アパレル会社に就職。数年をアパレル業界で活躍した後、父である先代の病をきっかけに、1997年家業である萬年堂に入社し和菓子職人に。2000年に13代当主となり、職人兼経営者として400年以上の歴史を引き継ぐ。

■ 銀座萬年堂本店
※和菓子の販売のほかカフェ併設
住所/東京都中央区銀座7-13-21
営業時間/11:00~18:00(喫茶のみ12:00~17:00)
TEL/03-6264-2660
萬年堂HP/萬年堂本店 (mannendou.co.jp)

田中康嗣(たなか・こうじ)

● 田中康嗣(たなか・こうじ)

「和塾」代表理事。大手広告代理店のコピーライターとして、数々の広告やブランディングに携わった後、和の魅力に目覚め、2004年にNPO法人「和塾」を設立。日本の伝統文化や芸術の発展的継承に寄与する様々な事業を行う。

和塾

豊穣で洗練された日本文化の中から、選りすぐりの最高峰の和文化体験を提供するのが和塾です。人間国宝など最高峰の講師陣を迎えた多様なお稽古を開催、また京都での国宝見学や四国での歌舞伎観劇などの塾生ツアー等、様々な催事を会員限定で実施しています。和塾でのブランド体験は、いかなるジャンルであれ、その位置づけは、常に「正統・本流・本格・本物」であり、そのレベルは、「高級で特別で一流」の存在。常に貴重で他に類のない得難い体験を提供します。

■ 和塾
HP/http://www.wajuku.jp/
■ 和塾が取り組む支援事業はこちら
HP/https://www.wajuku.jp/日本の芸術文化を支える社会貢献活動

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