いままでにない刺激を求める猛者が集まる、REDBULL 400とは?
スキーのジャンプ競技において、各ジャンプ台の最長飛行距離のことをバッケンレコードという。札幌の大倉山ジャンプ競技場のバッケンレコードは、カミル ストッフ(ポーランド)の148.5mだが、このジャンプ台をジャンパーが着地して滑走するランディングエリアからスタート地点へと逆方向に駆け上がるという奇想天外なレースが存在する。それがREDBULL 400である。「世界で最も過酷な400m走」と称されるように、最高斜度37°という壁のような斜面が参加者の心拍数を増大させる。
2018年、初めて参加した日の朝のことは今も忘れない。タクシーで大倉山ジャンプ競技場に到着し、天に向かってそびえるラージヒルのジャンプ台を見た時に、「俺は本当にあんなところを走るのか?」「バランスを崩したら後ろに転がってしまうのではないか?」と思った。タクシー運転手も「あんなところ人間が登れるんですか?」と、にわかには信じがたいといった表情で、呆れたように笑っていた。RED BULL 400のルールは下記の通り。
RED BULL 400のルール
・ スキージャンプ競技場のスロープを一番上まで駆け上がるタイムレース。
・ スタート通過からゴール通過のタイムを計測。
・ 個人カテゴリー(個人フルディスタンス400m 男子&個人フルディスタンス400m 女子)は予選と決勝を実施。
・ リレーカテゴリー(男子4×100mリレー、オープン4×100mリレー、学生対抗4×100mリレー)は決勝のみ実施。
参加資格
・ 18歳以上の健康な男女(未成年の場合は保護者の同意が必要)
・ 制限時間15分
ウェア&シューズ
・ 参加者は大会のオリジナルTシャツを着用。
・ スパイクシューズは禁止
「誰がこんなクレイジーな競技を思いついたんだ!?」と思いながらよじ登った初参加の年
ジャンパーが着地するランディングエリアを越えて、踏切台へと向かう急な木製スロープを通過したら、あとは滑走エリアとなる。スキージャンプ競技者が猛スピードで滑り下りる場所であり、そこを逆走して上がるのだから、「誰がこんなクレイジーな競技を思いついたんだ!?」と考えながらゴールを目指した。
「前半はペースを抑えたほうがいいですよ!」というアドバイスを守ったおかげで、余力がかなり残っていたので、滑走エリアのほとんどを脚だけで進み、四つん這いになって進む参加者をゴールするまでに、かなりの数抜くことができた。
ゴールタイムは7分56秒。スタート前は「10分以内でゴールできたら…」と思っていたので、満足な結果と言っていいだろう。
翌2019年は、最低でも前回の記録更新、できれば7分30秒切りを目指したが、多忙のため対策練習がまったくできなかったこともあり、7分30秒は切れず、7分36秒でゴール。このときも後半余力を残してしまっていたので、反省点はあったが、自己記録更新できたことは本当に嬉しかった。
完全にRED BULL 400の虜となり、「来年も参加するぞ!」と決意したものの、コロナ禍によって、その道は閉ざされることになってしまった。
2022の大会に3年ぶりにエントリー! その結果は?
そして迎えた2022年5月22日、参加者全員がお揃いのTシャツを着るなど、大倉山ジャンプ競技場には3年前と同じ光景が戻っていた。感染対策のためにスタートまではマスク着用、1組毎の参加者は以前よりも少数といった点は以前と異なっていたが、まったく気にならない。号砲一発スタートし、7分30秒切りを目指して斜面を駆け登る。いままでになく事前に斜面を走る練習を少しでもできたことは自信となり、快調に歩を進められたが、前半頑張った分、滑走エリアに差し掛かったところで、脚部の乳酸の溜まり具合がヤバイ。それでも休むことなくゴールを目指した。
ゴールラインを倒れこむように通過して手元の時計でタイムを見ると、7分27秒(公式タイムは7分26秒66)で、目標としていた7分30秒切りを達成。こういうのはいくつになってもうれしいものだ。大人になると物事を損得だけで判断することが多くなるが、このレースのように無になって取り組むことができるイベントに参加することは、日々多忙を極める人にこそオススメしたい。いい気分転換になることは間違いないだろう。
8月末に「北海道マラソン」でフルマラソン(42.195km)を走り、10月中旬に「東京レガシハーフマラソン」でハーフマラソン(21.0975km)を走ったが、RED BULL 400をゴールした時の達成感はフルマラソンの完走には及ばないものの、ハーフマラソン完走に勝るとも劣らないレベル。
56年生きてきたが、ここまで効率よく達成感や満足感を得られる競技を知らない。たった400mという距離だが、忍耐力、瞬発力、持久力etc.いろいろな能力が試される。タイムの良し悪しだけでなく、とにかく「やり切った!」という思いでゴールできたとき、最高の充実感を得られるのだと思う。
● 南井 正弘 / フリーライター、ランナーズパルス編集長
1966年愛知県西尾市生まれ。スポーツシューズブランドのプロダクト担当として10年勤務後ライターに転身。「フイナム」「価格.comマガジン」「モノマガジン」「SHOES MASTER」「Beyond Magazine」を始めとした雑誌やウェブ媒体においてスポーツシューズ、スポーツアパレル、ドレスシューズに関する記事を中心に執筆している。主な著書に「スニーカースタイル」「NIKE AIR BOOK」などがある。「楽しく走る!」をモットーに、ほぼ毎日走るファンランナー。ベストタイムはフルマラソンが3時間50分50秒、ハーフマラソンが1時間38分55秒