
行き先が決まっていない、勝者に身をまかす旅
1954年以降、17大会連続でヨーロッパのいずれかの国は決勝に進んでいる。今年もその可能性は大きく、ヨーロッパのどこかの都市にいれば、決勝国まで旅するのはさほど難しくない。
もしもアルゼンチン対ブラジルという南米頂上決戦となったらどうするか? スペインにとどまり、バスクのバルかどこかで観戦しよう。日本が決勝に進んだ場合は、いっそ帰国を早めて日本に戻ろうと思う。
そうしたらなんと、前大会王者のスペインはグループステージで敗退。2連敗して6月18日には早くも敗退が決まったのだ。当時、とり急ぎ決勝前日パリ着のチケットを取っていた。決勝はドイツ対アルゼンチン。カード明細を見返すと7月11日にパリ発ベルリン行きのチケットを購入している。どうやら直前に閃いたようだ。
ベルリンで歓喜の渦を体感した2014年
あまりの人だかりと画面の遠さにメイン会場は避け、ほどよいサイズだった「Kulturbrauerei(クルトゥアブラウエライ)」の会場に向かった。するとそこには大勢のアルゼンチン人。友人には申し訳ないが、実はアルゼンチンを応援していたのでうれしかった。比率でいうと全体の1割くらいだったけれどチャントが響き、試合前の熱気は負けていなかった。
続いて興味深かったのが翌々日に放送された凱旋帰国のテレビ中継だ。ドイツ代表を乗せたルフトハンザの特別機が市街上空を飛ぶところも中継され、メルセデスの黒い立派なバスでパレード。東西ドイツ統一のシンボルであるブランデンブルク門での祝賀イベントには40万人が詰めかけたという。
筆者はドイツ東部ドレスデンに移動していたのですべてテレビで観ただけだったが、熱狂は十分伝わった。そして思った。2018年大会も決勝狙いでヨーロッパに向かおうと。
クロアチアの熱狂にしびれた2018年

決勝当日となる7月15日、ザグレブ行きの朝便は母国を応援するために帰省するポーランド在住クロアチア人で賑わっていた。すでにユニフォームを着て搭乗する人もちらほらいて気合満点だ。
▲ 私を股抜きした少年。友達のユニフォームはブロゾビッチ。
▲ 中規模のパブリックビューイングにて決勝戦の開始を待つクロアチアのみなさん。
▲ 右は路上で視線が合った熱烈サポーター。左は19世紀の軍人で「クロアチア独立の闘士」と呼ばれるイェラチッチ総督。この市松模様の赤はクロアチア内陸部、白は沿岸部を表している。
▲ 決勝戦終了の直後、クロアチア代表を讃える拍手が長く続いた。
▲ 私を股抜きした少年。友達のユニフォームはブロゾビッチ。
▲ 中規模のパブリックビューイングにて決勝戦の開始を待つクロアチアのみなさん。
▲ 右は路上で視線が合った熱烈サポーター。左は19世紀の軍人で「クロアチア独立の闘士」と呼ばれるイェラチッチ総督。この市松模様の赤はクロアチア内陸部、白は沿岸部を表している。
▲ 決勝戦終了の直後、クロアチア代表を讃える拍手が長く続いた。
広場では試合前から大合唱が始まり、その歌を聴いていたら、人口約400万人の小国の大躍進に感動がとまらない。ちなみに彼らが歌っていたのはクロアチア代表の応援歌となる“Lijepa li si”や“Srce Vatreno”という曲で、これらをYouTubeで検索するとなかなか熱い映像が出てくる。
クロアチアは負けたが、ザグレブに悲壮感はなかった。むしろ勇者を讃える空気で、試合後も大合唱は続いていた。
メインイベントが行われる広場には10時間以上待っていたファンもたくさんいた。ようやくクロアチア代表が到着すると選手たちは笑顔で挨拶。最後までふり絞るものが半端ない。イベントの熱狂はクロアチアが優勝したと錯覚するほどだった。盛り上がりは夜更けまで続き、終わる気がしなかった。人々は市松模様の服でずっと歌っていたし躍っていた。
今年の決勝観戦はパブかバルか、それともパブリックビューイングか?
気になる今年は、「決勝はアルゼンチン対ブラジルでアルゼンチンが優勝」と予想している。南米対決! しかし、その場合はどちらかが2位通過の必要がある。予想は当てにしないが、正直、観てみたい試合だ。
欧州勢が決勝に進んだ場合、どの都市で観るかも決めなければ。スペインならバルセロナ、イングランドならマンチェスターやリヴァプールなどの地方都市を想定。フランスならマルセイユもいい。オランダならアムステルダムかロッテルダム。史上初となる冬の開催なので、都市と見方によってはかなり寒そうだ。
うれしい番狂わせも起こり、連日、目が離せない。やがてベスト8が決まった頃、旅の行き先はうっすら見えてくる。
何が起こるか未知数な残り23日間。でも考えてみたら4年後の世界も自分もどうなるか分からないし、こんな旅と抱き合わせたワールドカップ観戦も今年が最後かもしれない。千載一遇と思って、その時いる場所と試合を存分に楽しみたい。
まずは東京で日本代表の応援だ。この欧州の旅プランを滅茶苦茶にしてほしい。12月10日以降、日本にいないことを後悔したい。

● 大石智子(おおいし・ともこ)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、毎月海外に渡航。スペインと南米に行く頻度が高い。柴犬好き。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。