2023.01.03
【第71回】
男性が勝手に恋に狂ってしまう!? モテすぎる美女の壮絶な悩み
美人とは「美」という高スペックを備えたスーパーカーのような存在。その“スーパーぶり”に男は憧れるわけですが、果たしてそのスペックは彼女に何をもたらすのか? 「ワイングラスのむこう側」(cakes)で人気の林伸次さんが、世の美人たちの隠された恋愛事情に迫ってみる連載です。
- CREDIT :
取材/林 伸次 写真/椙本裕子(YUKIMI STUDIO) 文/木村千鶴
テーマは今どきの美女たちの”悩める恋愛事情”。美人が出会った最低男を裏テーマに、彼女たちの恋愛体験(主に失敗)談と本音の恋愛観に迫ります。
第71回目のゲストは、前回に引き続き、映像制作のマキコさん(38)です。前編では留学中の恋愛と、お互いの成長のためにお別れした話などを伺いました。後編では、仕事を始めてからの恋愛── モテすぎで困ったとか ──について聞かせていただきます。
突然の求婚をお断りしたら道の真ん中でひっくり返られて
「日本です。とにかく映画業界に入りたくて、映像制作の会社に入りました。ですが、その会社での仕事の内容では、自分の名前はどこにも載らないんですよね。えっと、私、自己顕示欲が強くてですね(笑)、自分の名前を残せる仕事がしたかったんです。人前に立つ仕事ではなく、裏方で」
── ああ、エンドロールに名前が出てくるような、スタッフ側の人ですね。
「はい。それで転職を考えていた時に、ちょっと嫌なことがあって」
── どんなことがあったんですか。
「元請の会社にデータを納品しに行った時のことなんですが、先方の男性が『マキコのことを気に入ったからディナーをセッティングしてほしい』と連絡を入れてきたらしいんです。会社のみんなは歓迎ムードで『マキコさんとその人が付き合えば仕事がたくさん入ってくる』みたいなこと言われて、凄く嫌な気持ちになりました。そんなの人柱みたいじゃないですか」
── なんか政略結婚みたいで嫌ですね。口に出す人は軽い気持ちでしょうけど、言われた方はたまったもんじゃないですよ。
「この世界に入りたくて頑張ってきたのに第一歩目でこれかと、本当にショックでした。翌日に辞表を出して、その後声をかけてくれた会社に入ったんですが、またそこでもありまして」
── あらら、次から次へと……。
「社長に突然求婚されて、びっくりして断りました。そうしたら往来で仰向けにバタンって倒れて、両手両足ジタバタさせて大声で泣いたんですよ、30半ばの男性が。目の前で起きていることがちょっと信じられなくて呆然としましたね」
── ええっ、おもちゃをねだる子供みたいにですか!? 驚きだ。
「はい、その社長に『結婚しないならお前はクビ、給料も払わない』と言われたので、第三者を入れて話し合い、退職することになって。また同じ業界に転職したんですが、またそこでも男性から恋愛感情を持たれてしまって」
特定の、一部の男性に引っかかる何かだと思います
「何ひとつ良くないと思いました。余分にモテて良いことってあるんでしょうか。それぞれの気持ちに応えるって命懸けだと思うんです」
── 命懸け……。そう考えたことはあまりなかったですけど、世間ではいろんな事件も起きているし、実際マキコさんはかなり大変な目に遭っていますね。
「そうですね〜。その社長には『お前には全て言うことを聞いてもらいたい!! じゃないとすごくイライラする!!」と言われて、捨てようとまとめてあった生ごみを投げつけられました。感情がコントロールできなくなってましたね」
── なんでそんなことが起きるんですかね。
「若い女性だったからかな。でもわからないです。わからないから怖いんですよ。自分が何かしたとか明確なことがあればいいんですけど、思い当たることは特にない。それでも私が従わないとイライラするんだと思うんです」
── 話を聞いてくれる人だと思って居心地が良かったんでしょうか。みなさん恋愛感情を持ってやってくるんですもんね。
「何でしょうね。学生時代にモテたわけじゃないし、急にだったから」
── 男性から見て魅力があるんだと思います。
「特定の、一部の男性に引っかかる何かだと思います。社会に出てからの仕事柄もあるでしょうけど、特定の業界にいる男性に出会う数が増えるので、それでかもしれません」
── 母数が増えたんですね。それで特定の男性に次から次へとわーっと好きになられちゃう。
仕事で認められるよう頑張るほど、恋愛になって返ってくる
── これは本当に男性がよくやるミスなんですよね。
「そうですね、あの時代は上に立つのは男性がほとんどでしたから。プロデューサーに『必死になってやっているのはわかる、すごく努力しているのもわかるけど、お前は評価されないよ。かわいそうだから伝えるけど、お前には何も期待してない』って言われたこともあります」
── それは女性だからですか。女性という役をやってくれればいいから、と。
「そう、女を武器にして成功するか、もう割り切るかしかないんじゃないかとはっきり助言されたこともありました。でもそういうことを正直に言ってくれたことに対しては評価しています(笑)」
── 頑張っているから、言いにくいけど誰かが言ってあげないとかわいそうだなって思ったんでしょうか。
「そうだと思います。それで仕事で女性としてモテることが本当に嫌になって。好かれることの対価として、殴られたことも、暴言も散々言われましたし、生ゴミまで投げつけられる。モテるって何ですかって思うんです。相手の真剣な感情がこっちにぶつかって来て、それを打ち返すようにお断りしなければいけないわけで」
── お断りするのもすごくストレスになりますよね。
「本当に大変なことでした。誰かに相談しても真剣に受け取ってもくれない。一番辛かったのは、仕事で評価してくれてそうな人たちが、実はみんな私の仕事は評価してなかったってことですね」
「今は結婚していますのでゴタゴタに巻き込まれることもないし、年齢を重ねて良かった!って思っています(笑)。まあ、キャリアを潰されたことはすごく恨んでますけれども」
── あ、それは時々聞きます。結婚してよかった、めんどくさいことが全部なくなるって。話していて思ったんですけど、映像の業界は仕事的にも一風変わった人が多そうですよね。ロマンティストというか、独自に突っ走ってるというか。それも理由としてあるのかな。全く違う分野の、例えば金融業界とかだったら、ここまでにはならなかったかもしれないなと。
「あ、私もなかったと思います。その業界で自分の存在がすごくニッチだった、だから余計にニーズがあったのでしょうね。見た目とかじゃなく、自分が結婚適齢期と言われる年齢だったこと、比較的健康そうに見えたことと、あと、趣味の話が思い切りできる相手だったこと」
── それはとても大きいですね。自分の業界の話を思いっきりできる女性は少ないでしょうから。
「そうですね。それに加え、私が育った環境は周りが男の子だらけで、男子と話すことに垣根がなかったから」
── 確かに、女子慣れしていない男性でも、マキコさんは話しやすいんだと思います。自分のことをわかってもらえる、話しやすい女性ということで男性が喜んでしまい、ぐっと好きになられてしまったのかもしれません。
「今はそういう恋愛のゴタゴタから解放されて、本当に良かったです!」
── いやあ〜、本当にお疲れ様でした!
【林さんから〆のひと言】
■ bar bossa(バール ボッサ)
ワインを中心に手料理のおいしいおつまみや季節のチーズなどを取り揃えたバー。 BGMは静かなボサノヴァ。
住所/東京都渋谷区宇田川町 41-23 第2大久保ビル1F
営業時間/月〜土 19:00〜24:00
定休日/日・祝
問い合わせ/TEL 03-5458-4185
● 林 伸次(はやし・しんじ)
1969年徳島県生まれ。早稲田大学中退。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年渋谷に「bar bossa」をオープン。2001年、ネット上でBOSSA RECORDSを開業。選曲CD、CD ライナー執筆等多数。cakesで連載中のエッセー「ワイングラスのむこう側」が大人気となりバーのマスターと作家の二足のわらじ生活に。小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる』(幻冬舎)、『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』(旭屋出版)、『大人の条件』(産業編集センター)。最新刊は『結局、人の悩みは人間関係』(産業編集センター)が2023年1月25日に発売される。