2023.02.16
【vol.14】歌舞伎通の旦那になる(2)
舞台直後の歌舞伎俳優 中村壱太郎さんを食事に誘う。これもモテる旦那の醍醐味です
いい大人になってお付き合いの幅も広がると、意外と和の素養が試される機会が多くなるものです。モテる男には和のたしなみも大切だと、最近ひしひし感じることが多いという小誌・石井編集長(48歳)が、最高峰の和文化体験を提供する「和塾」田中康嗣代表のもと、モテる旦那を目指す連載です。
- CREDIT :
文/田中康嗣 写真/荒川幸祐 ヘアメイク/松田裕香子 取材協力/ダイナースクラブ(運営会社:三井住友トラストクラブ)
今回のテーマは「歌舞伎」。第1回(こちら)では「花街総見」で賑わう南座に伺って石井編集長が「和塾」の田中理事長からモテる旦那の歌舞伎鑑賞法を学びましたが、この第2回目は、ふたりが舞台を終えたばかりの歌舞伎俳優、中村壱太郎(なかむら・かずたろう)さんをお招きして、昼食の膳を囲んでのトークです。
訪れたのは昨年初頭に京都祇園に開店するや1年を経ずにミシュラン2つ星を獲得した話題の日本料理店「凌霄(りょうしょう)」。それでは美味しい料理をいただきながら歌舞伎噺の始まりです。
朝イチの舞台でお客様を退屈させない工夫とは?
中村壱太郎さん(以下、壱太郎) ありがとうございます。その空気感はちょっと狙いでもあって。
石井 と、いうと?
壱太郎 今日の舞台、スタートは朝の10時30分でしょ。
田中 舞台を鑑賞するにはいささか早い気もしますな。
石井 物語の運びもとてもわかりやすくて、起伏も含めてグングン入っていけましたよ。
田中 でも大きな物語の一部を上演する今の形式だと、前後の話や人間関係もつかみにくいから、客席を引き込むのはタイヘンですよね。
壱太郎 歌舞伎は、どうしても退屈だとか窮屈だとか、観て分かるの? みたいなイメージがつきまとっていますしね。だから、それを前提に細かなところも惜しむことなく演じてゆきたいなと。
壱太郎 それはもう、作戦勝ち(笑)。
石井 僕はああいう女の子、好きですね。ちょっとなんだか元気がよくて、男を引っ張っていくようなところもあって、でも根はめちゃくちゃ素直でピュアな……。
田中 役者冥利に尽きますな。
同じ娘役でも、田舎の娘なのか、いいとこのお嬢さんなのか、お姫様なのかで全然違いますから。娘だけではなく、遊女や年増を演じることもあります。1日で同じお芝居で2役やることだってありますので、そういうのも含めて僕は結構楽しんでやっていますね。
田中 同じお役でも、舞台が朝一番なら少しトーンを変えたりもね。
田中 歌舞伎は今を生きる芸能でもあるしね。
壱太郎 はい。だから、ただ先人がやってきたことを守って演じる、というだけじゃない舞台を今、僕は大切にしてますね。
歌舞伎はどんなお役でも、いい意味での妖艶なものがある
壱太郎 え、本当ですか?
石井 例えばね、ここは笑っていいところですよ、というメッセージが演技の中に込められている。朝早い客席を引っ張ってゆくようなムードがあった。だから劇場が笑いに包まれる。お里は物語を先導するガイドでもあったって思いますよ。
田中 スッと物語に入っていける。笑いに導かれるように。
壱太郎 しかも、今回のお芝居は、最後は悲劇ですからね。演劇的なものを考えても、大きな落差があった方が面白いっていうことで。それも含めて、入り方は結構意識してますね。
石井 後半で相手役の維盛が実は妻も子もいることが分かって、お里が可哀想で不憫で泣けてしまう・……。
田中 惚れっぷりがスゴくない?(笑)
石井 ピュアで元気者のお里だけれど、どこかエロティックでもある。
壱太郎 そうです。そうなんですよ。お里のお役は大先輩の片岡秀太郎のおじさまに教わったのですが、歌舞伎はどんなお役でも、いい意味での妖艶なものがある、って。艶っぽい存在感が。
田中 垣間見えるようなエロスは歌舞伎を楽しむ要素のひとつとして大切なものかもしれないね。あからさまなものではなくて。阿国歌舞伎からの伝統だ。
壱太郎 そう。生娘なんだけれど、どこか官能性というか媚態というか。そこがお客さんにとっても面白いところだなって。どこかに色気がないと全然つまらない芝居になるというのはよく言われましたね。
壱太郎 コロナ禍では不要不急なんてことになったけれど……。
石井 そうですよね。LEON界隈でも主にヨーロッパなどで、いわゆるラグジュアリーブランドとかラグジュアリーメゾンと言われてるものも、結局なくても生きてはいけるじゃないですか。けれどね、歌舞伎も似てる部分ありますよね、それがあることで、それに触れることで、人生は楽しくなる。なくても死ぬわけではないけれど、せっかく生きてるなら楽しくなけりゃ。
田中 必要なものだけだでは、人生はつまらない。そもそもね、外出自粛とかでステイホームになった時、人々は家で何をしたのかというと、実はみんなアートやカルチャーに触れていた。音楽を聴いたり、本を読んだり、サブスクで映画を見たり、配信の舞台を観たり……。それがなかったら、ステイホームなんて不可能だ。だから、芸術文化が不要不急なんてことは決してない。
石井 然り。
石井 壱太郎さんは現地まで脚を運んだんですね。その場で芝居を見せたとは素晴らしい。今日の公演でもそれを強く感じましたよ。実際に直接劇場まで脚を運んでみるということ。あの空気の中に自分もいるのだっていう感覚がめちゃくちゃ大事だなって。配信は配信の素晴らしさがあるんだけど、やっぱり、もう全然違いますよね。
壱太郎 それを体感すると、みなさん分かってくださる。でも実際に経験しないと、まあ別に映像でいいや、ということになってしまう。今はとてもメディアが増えてエンタテインメントの多様性がさらに拡張して、15秒の映像でも、ヴァーチャル空間でのパフォーマンスでも感動できる気がするわけじゃないですか。
田中 だからこそ、ライブの感動が貴重なものになる。
日本の芸能は、舞台と客席の双方が作品をつくっている
壱太郎 芝居を包む空気も含めてそれを感じていただけたことはもう僕は一番うれしい。
田中 日本の古典芸能は特にそうですね。伝統芸能の劇場って、上演中も客席側の照明が落ちないでしょ。歌舞伎も、人形芝居も、能楽も。客席は暗くして、舞台だけが明るくて、没入した観客がひたすらステージを注視する西洋の芸能とはちょっと異なる空気がある。
石井 確かに。今日も客席は明るいままでした。
田中 それはね、私が考えるに、日本の伝統芸能は観客も関与するものなのですよ。役者が一方的にパフォーマンスを発信するだけではなく、観ている者も作品に参加してゆく。
壱太郎 やっぱりキャッチボールがありますからね。今日の舞台なんかまさにそうで、客席の笑いひとつで作品が大きく変わってゆく。
田中 演じる方と観る方の交歓が活発な舞台はとても良い。
壱太郎 ヨーロッパ公演で踊った時に、「鷺娘」という、いきなりパっと衣裳が変わる演目だったんですけど、衣裳の早変りをしても、別に拍手にはならないんですよ。僕はそのままずっと踊りきって、最後は拍手になるだろうと思って……・。でも、拍手がない。これはもう失敗したかなって思いながら舞台にいると、何秒か経ってからやっとワ~ッという歓声と共に拍手が来て。やっぱりヨーロッパの芸能というのは、ひたすら見入る文化なんだな、と。
石井 あ~なるほどね。ひたすら受け入れる感じですね。
壱太郎 舞台を鑑賞して、自分の中で解釈して、良かったと思えれば拍手する。
田中 そうですね、終わってからブラボーはあるけど途中でブラボーはないもんね。
石井 確かに。
石井 おおむこう?
田中 大向うは日本の古典芸能、なかでも歌舞伎に特徴的な存在なんだけど、劇中に「成駒家ぁ〜!」なんて声がかかる、あれです。たいていは、役者の屋号で声を掛ける。仁左衛門さんなら「松嶋屋ぁ」團十郎さんなら「成田屋っ」といった具合。「待ってました!」などと掛ける場合もある。演目の中には大向うの掛け声が入ることを前提に進行するものもあって、まさに舞台と客席の双方が作品をつくっている。
壱太郎 僕らの舞台ってほんとにキャッチボールなんです。客席から声が掛かることで芝居の結構が綺麗に埋まって収まるっていうところがあるんですよ。そしてその大向うが入ることで、他のお客さまもさらに芝居に入ってゆける。
田中 舞台と客席、すべての役者とすべての客がひとつの芸能をつくっている。日本の芸能はそんな感じ。客はただ受け入れるだけのエンタテインメントではなくてね。だからライブでなければ成立しないところもあり、客の側に作品に参画するだけの知識が必要でもある。難しいけれど奥が深くて面白い。大人の芸術ですね。
※第3回に続きます。
中村壱太郎(なかむら・かずたろう)
1990年8月3日生まれ。中村鴈治郎の長男。祖父は四世・坂田藤十郎。母は吾妻徳穂。慶應義塾大学総合政策学部卒業。91年11月京都・南座『廓文章』の藤屋手代で初お目見得。95年1月大阪・中座『嫗山姥』の一子公時で初代中村壱太郎を名のり初舞台。10年3月、『曽根崎心中』のお初に役柄と同じ19歳で挑む。14年9月、日本舞踊の吾妻流七代目家元吾妻徳陽を襲名。16年、野田秀樹 作、オン・ケンセン 演出『三代目、りちゃあど』に出演。16年8月、新海誠監督作品 映画『君の名は。』でヒロイン・三葉と四葉の姉妹が舞う 巫女の奉納舞を創作。近年では『金閣寺』の雪姫、『吉田屋』の夕霧など大役を勤める。20年7月新感覚の歌舞伎とアートのコラボからなる配信公演「ART歌舞伎」を上演。その後、海外での配信も行われ、21年5月より映画館公開も決まり注目を集めている。21年6月現代劇『夜は短し歩けよ乙女』にて主演にて先輩役を勤める。女方を中心に歌舞伎の舞台に精進しつつラジオやテレビなどにも活動の場を広げている。また「春虹」の名で脚本執筆、演出にも挑戦中。
HP/中村壱太郎 Official Website (kazutaronakamura.jp)
「三月花形歌舞伎」
歌舞伎の次代を担う中村壱太郎、尾上右近、中村鷹之資、片岡千之助、中村莟玉の花形俳優が競演し、春の京都を熱く盛り上げる。今回の公演は歌舞伎三大名作の一つ、『仮名手本忠臣蔵』の世界を堪能できるプログラム構成となっている。演目は『仮名手本忠臣蔵』五段・六段目 と『忠臣いろは絵姿』上の巻 花の山科、下の巻 雪の討入。冒頭に「仮名手本忠臣蔵のいろは」と題して、大序から四段目までの解説を行う。午前の部/午後の部、同一演目にて上演。Aプロ、Bプロで配役が異なる。
期日/3月4日(土)~26日(日) 劇場/南座
HP/三月花形歌舞伎|南座|歌舞伎美人 (kabuki-bito.jp)
● 田中康嗣(たなか・こうじ)
「和塾」代表理事。大手広告代理店のコピーライターとして、数々の広告やブランディングに携わった後、和の魅力に目覚め、2004年にNPO法人「和塾」を設立。日本の伝統文化や芸術の発展的継承に寄与する様々な事業を行う。
● 凌霄(りょうしょう)
住所/京都府京都市東山区祇園南側570-166
営業時間/平日17:00~23:00、土日祝11:30~14:00/17:00~23:00
TEL/075-541-3557
HP/凌霄 (ryo-sho.jp)
※昼の部・夜の部とも4万円(いずれも税込、別途サービス料10%)
季節によって価格の変更あり。要問合せ。
和塾
豊穣で洗練された日本文化の中から、選りすぐりの最高峰の和文化体験を提供するのが和塾です。人間国宝など最高峰の講師陣を迎えた多様なお稽古を開催、また京都での国宝見学や四国での歌舞伎観劇などの塾生ツアー等、様々な催事を会員限定で実施しています。和塾でのブランド体験は、いかなるジャンルであれ、その位置づけは、常に「正統・本流・本格・本物」であり、そのレベルは、「高級で特別で一流」の存在。常に貴重で他に類のない得難い体験を提供します。
■ 和塾
HP/http://www.wajuku.jp/
■ 和塾が取り組む支援事業はこちら
HP/https://www.wajuku.jp/日本の芸術文化を支える社会貢献活動
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