2023.02.19
【vol.14】歌舞伎通の旦那になる(3)
モテる旦那は歌舞伎をどう支えるか? 中村壱太郎さんと話し合ってみた
いい大人になってお付き合いの幅も広がると、意外と和の素養が試される機会が多くなるものです。モテる男には和のたしなみも大切だと、最近ひしひし感じることが多いという小誌・石井編集長(48歳)が、最高峰の和文化体験を提供する「和塾」田中康嗣代表のもと、モテる旦那を目指す連載です。
- CREDIT :
文/田中康嗣 写真/荒川幸祐 ヘアメイク/松田裕香子 取材協力/ダイナースクラブ(運営会社:三井住友トラストクラブ)
今回のテーマは「歌舞伎」。その第3回目は、祇園の日本料理店「凌霄(りょうしょう)」にお招きした歌舞伎俳優、中村壱太郎さんと、「旦那と歌舞伎」のあるべき姿を語り合います。単なる歌舞伎鑑賞やそれなりの芝居好きを越える、ワンランク上の粋人が目指すべき歌舞伎との付き合い方とは?
旦那衆は楽しみながら文化を支える大事な存在
石井 それがこの「モテる旦那養成講座」の本旨でもありますからね。
田中 そこで目指すのは、贔屓の旦那衆といった存在なのですが、壱太郎さんにその実態を聞いてみたいのです。イマドキの歌舞伎界隈に旦那衆は残っていますかね?
壱太郎 旦那衆とか御贔屓とか、そう呼ばれるような方は時代と共に少なくなってきているのが実態ですね。その昔、祖父の時代、つまり昭和が終わる頃までは、それぞれの町、それぞれの地域にそういう方がいて、商売で成功されて、さまざまな意味で余裕があって、贔屓の役者が地元に来たときなどにご支援をいただく。それが今はなかなか難しいのですかね……。
石井 確かに、絵画にしても音楽にしても、日本のモノには目が向いていない人、多いかも。
田中 それは非常に残念というしかないね。そこにぜひ和モノを加えて欲しいのだよ。
壱太郎 そうですね。役者を贔屓にしてくださる旦那衆。文化を支える大事な存在です。昔は芝居見物もお茶屋さんを通して手配するような人が多くて、そのお茶屋さんの紹介で贔屓のお客さまと役者が出会い、懇意になって、さまざまな支援をいただくようなことがありましたから。花街、花柳界とお客さまの関係も似ていますよね。皆が互いに楽しみながら支え合っていた。
石井 今を生きる自国のアーティストとつながっているって、カッコイイ。でも本当に実行すると思うとハードルが高いかもしれないですが……。
田中 ハードル高いと思い込んでるだけだと思うな。お茶屋遊びなんかも同じ。動いてみれば、さほどでもない。
田中 歌舞伎を観て、お茶屋のバーで舞妓ちゃんと芝居の話をしていたら、そこに役者さんがやってくる、なんてこと、あり得ますから。
何より劇場に出掛けて、贔屓の役者の芸を楽しむのが最初の応援
田中 支援の仕方もとても広くて、何か決まりがあるわけじゃない。自分なりの応援の方法があって良いのだけれど、ま、イマドキの男衆はそういったことからあまりに縁遠くて、さっぱり分からないかも。格好の良い、モテるパトロネージェってなんだ? と。
壱太郎 そうですね。僕たちも応援していただければ、それがどんなカタチでもうれしいのですが……。
田中 でもまず、何より芸能を応援するのですから、劇場に出掛けて、その贔屓の役者の芸を楽しむ。そこが始まりです。旦那であるなら、切符をしっかり購入する。大事な公演なら自分と連れのチケットだけじゃなくて、少し多めに席を押さえて、若い子たちを招待してやる、とかね。昭和の大旦那などなら、数百枚の切符を注文することだってあったでしょう。
田中 もう少し進むと、贔屓の役者まわりのさまざなな物的支援もあります。
壱太郎 楽屋暖簾とかですね。
石井 暖簾ですか?
壱太郎 はい。歌舞伎などの劇場には出演役者用の部屋、つまり楽屋があって、その入り口にはたいてい役者名の書かれた暖簾がかかっているんです。その暖簾は、ファンの方々、贔屓衆から贈られたものだったりします。
田中 楽屋暖簾には送り主の名前をさり気なく書き入れることもありますしね。記念にもなるし、ちょっと誇らしい気分も味わえます。
田中 楽屋まわりだと、鏡台を贈るなんて人もいますね。
壱太郎 そうですね。僕たち役者の楽屋には必ず鏡台が必要で、地方巡業の時なども持ち回ります。だから、いつも側にある。
壱太郎 はい。今は衣装を自前で持つことは難しくなっていますが、ご贔屓から衣裳をいただくなんてこともかつてはあったようです。
田中 たっぷり稼いでいる旦那にはぜひお願いしたい。自家用ジェットやらヨットやら、金銀財宝に使うよりずっと格好いいと思いますよ。
石井 なるほど、応援の仕方もいろいろあるんですね。
田中 公演によっては、劇場の緞帳、祝い幕を贈るなんてことだってあります。劇場に芝居見物に出掛けると、自分の贈った幕が舞台を覆っている。相当な旦那芸ですがね。
壱太郎 もちろん、費用的な部分での支援だけでも有り難いのですが、むしろ一緒につくってゆくようなことも素敵です。お扇子や手拭いのデザインを考えていただくとか、何かご関係の会社やブランドとコラボして共に創り上げてゆくとか。僕たちもうれしいし、旦那も楽しい。
田中 そう。そしてさらにモテる旦那へと人生を展開させる。
壱太郎 そのうえ、伝統芸能の場合は、その関係が長い時間を通じて可能になります。僕たち役者の成長を長年にわたって見守っていただける。
田中 若い頃から応援しているけれどあの役者も立派になったなぁ、なんて科白、言ってみたいでしょ。
石井 言いたい、言いたい(笑)。
平成世代の歌舞伎公演「三月花形歌舞伎」ではあえて古典に挑戦
田中 同じ演目の同じお役を、二十代の壱太郎さんで拝見して、三十代でまた観て、四十代、五十代、六十代を経て、大ベテランとなった頃にまた鑑賞する。いつの時代もそれぞれにそれぞれの良さがあって、変化もある。そんな楽しみ方は、とても贅沢です。
石井 長い付き合いの贔屓の役者がいる人生、イイですねぇ。いつものビジネスの人間関係とは異なる人間関係を持っている人は幸せだ。
田中 大人の男のあるべき姿だと思います。
石井 大人の女性の引きもある!
田中 あるある。
石井 我々の周りでも、同世代ぐらいの女性は、歌舞伎がとても好きっていう人、多い気がします。
石井 知り合いで東銀座(の歌舞伎座)に通っている方もいらっしゃいます。
田中 旦那になればモテ度が上がる。動機はそれでもイイと思うな。モテるために歌舞伎に触れてみる。
石井 他のエンタメより少しステイタス感もあり……。
壱太郎 桟敷席は華やかなところもありますしね。
田中 芸舞妓を連れて桟敷で芝居観るのもカッコいい。
壱太郎 それはもう、ご自分も歌舞伎の華のひとつになっているということなんですよね。素敵だなと思います。
田中 花道側の桟敷などでは、役者さんより目立つことがありますから。
石井 自分もその一部となって楽しむ歌舞伎。目指したいですね。
田中 ぜひに。ことにこの3月には、壱太郎さんが出演する公演が南座でありますから。
壱太郎 はい。この公演は2年前の2021年の3月に、平成世代の役者が中心となる歌舞伎公演ということで始まったもので、今年で3回目となります。僕も平成世代ということで参画して。それで、1年目2年目を経て、ありがたいことに好評をいただいて今年も、ということになりました。コンセプトは、古典の歌舞伎をどうやって今の時代に見せるか。新作ではなく、あくまで古典で勝負しようと。
石井 気合が入っていますね。
田中 3月の京都もまた良いですからね。後半は桜も少し見られるかもしれないし。
壱太郎 歌舞伎見物をきっかけにしていただいて、御料理を楽しんだり花を愛でたり、旦那遊びにいらしてください。
石井 いいですね。歌舞伎贔屓の一枚上手の上級オヤジ目指して、一歩ずつ前進しましょう。これからもお付き合いのほど、よろしくお願い申し上げ〜奉ります〜。
中村壱太郎(なかむら・かずたろう)
1990年8月3日生まれ。中村鴈治郎の長男。祖父は四世・坂田藤十郎。母は吾妻徳穂。慶應義塾大学総合政策学部卒業。91年11月京都・南座『廓文章』の藤屋手代で初お目見得。95年1月大阪・中座『嫗山姥』の一子公時で初代中村壱太郎を名のり初舞台。10年3月、『曽根崎心中』のお初に役柄と同じ19歳で挑む。14年9月、日本舞踊の吾妻流七代目家元吾妻徳陽を襲名。16年、野田秀樹 作、オン・ケンセン 演出『三代目、りちゃあど』に出演。16年8月、新海誠監督作品 映画『君の名は。』でヒロイン・三葉と四葉の姉妹が舞う 巫女の奉納舞を創作。近年では『金閣寺』の雪姫、『吉田屋』の夕霧など大役を勤める。20年7月新感覚の歌舞伎とアートのコラボからなる配信公演「ART歌舞伎」を上演。その後、海外での配信も行われ、21年5月より映画館公開も決まり注目を集めている。21年6月現代劇『夜は短し歩けよ乙女』にて主演にて先輩役を勤める。女方を中心に歌舞伎の舞台に精進しつつラジオやテレビなどにも活動の場を広げている。また「春虹」の名で脚本執筆、演出にも挑戦中。
HP/中村壱太郎 Official Website (kazutaronakamura.jp)
「三月花形歌舞伎」
歌舞伎の次代を担う中村壱太郎、尾上右近、中村鷹之資、片岡千之助、中村莟玉の花形俳優が競演し、春の京都を熱く盛り上げる。今回の公演は歌舞伎三大名作の一つ、『仮名手本忠臣蔵』の世界を堪能できるプログラム構成となっている。演目は『仮名手本忠臣蔵』五段・六段目 と『忠臣いろは絵姿』上の巻 花の山科、下の巻 雪の討入。冒頭に「仮名手本忠臣蔵のいろは」と題して、大序から四段目までの解説を行う。午前の部/午後の部、同一演目にて上演。Aプロ、Bプロで配役が異なる。
期日/3月4日(土)~26日(日) 劇場/南座
HP/三月花形歌舞伎|南座|歌舞伎美人 (kabuki-bito.jp)
● 田中康嗣(たなか・こうじ)
「和塾」代表理事。大手広告代理店のコピーライターとして、数々の広告やブランディングに携わった後、和の魅力に目覚め、2004年にNPO法人「和塾」を設立。日本の伝統文化や芸術の発展的継承に寄与する様々な事業を行う。
● 凌霄(りょうしょう)
住所/京都府京都市東山区祇園南側570-166
営業時間/平日17:00~23:00、土日祝11:30~14:00/17:00~23:00
TEL/075-541-3557
HP/凌霄 (ryo-sho.jp)
※昼の部・夜の部とも4万円(いずれも税込、別途サービス料10%)
季節によって価格の変更あり。要問合せ。
和塾
豊穣で洗練された日本文化の中から、選りすぐりの最高峰の和文化体験を提供するのが和塾です。人間国宝など最高峰の講師陣を迎えた多様なお稽古を開催、また京都での国宝見学や四国での歌舞伎観劇などの塾生ツアー等、様々な催事を会員限定で実施しています。和塾でのブランド体験は、いかなるジャンルであれ、その位置づけは、常に「正統・本流・本格・本物」であり、そのレベルは、「高級で特別で一流」の存在。常に貴重で他に類のない得難い体験を提供します。
■ 和塾
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