2023.03.30
【vol.15】「いけばな」を識る(1)
大人の男こそ「いけばな」を学ぶべき! その歴史的理由とは?
いい大人になってお付き合いの幅も広がると、意外と和の素養が試される機会が多くなるものです。小誌・石井編集長(49歳)が、最高峰の和文化体験を提供する「和塾」田中康嗣代表のもと、モテる旦那を目指す連載、今回のテーマは「いけばな」です。
- CREDIT :
文/牛丸由紀子 写真/田中駿伍(maettico) 撮影協力/草月会 取材協力/ダイナースクラブ(運営会社:三井住友トラストクラブ)
第15回のテーマは「いけばな」。モテるオヤジとしては花をプレゼントすることは多々あるけれど、花をいけるとなるとさすがに未経験の方がほとんどでは? 日本の伝統の“道”のひとつでもあるいけばなは、「女性の習い事」とか「難しそうだし古臭い?」と、そんなイメージがあるかもしれませんが、実は紐解けば紐解くほど気づくのは、日本の歴史や美意識に裏打ちされた、完璧なアートだということ。さらに歴史的側面では、実は強いオトコのたしなみでもあるんです。
「その花束誰にあげるの??」と聞かれた時に、「自分で部屋にいけるんだ」という答えは女性にとってかなりのサプライズ。「ほんとに?」と疑われたら「じゃあ、見に来る?」とお誘いを(笑)。そんないけばなの世界を知るべく、石井編集長と指南役、和塾の田中代表が向かったのは、いけばな草月流の本部である東京・赤坂の草月会館です。
お菓子につられて始めたいけばな体験で誉められて
大泉 こちらこそよろしくお願いいたします。
石井 草月会館は何度かお邪魔したことがありますが、中にこんなに素敵な日本間があるのは知りませんでした。
大泉 こちらには草月流の創流者である勅使河原蒼風(てしがはら・そうふう)など歴代家元の書や、オブジェなどを常時展示しています。また草月流の師範による季節のいけばな作品も2週間ごとに展示しています。どなたでも見学できますので、お近くにおいでの際は、ぜひ見にいらしてください。
石井 こう見えて、実はあるんですよ。
田中 えっ!? それは意外だな。
石井 といっても小学校の時なんですが(笑)。当時メインの部活はサッカーだったんですが、授業の一環で、もうひとつクラブに入らなくてはいけなかったんです。何にしようと思っていたら、友達から「いけばなクラブは、いけばなをした後にお菓子が出る」という噂を聞きつけまして(笑)。
田中 食べ物につられて入ったわけだね(笑)。
石井 流派も知識も何もわからず、おやつ目当てで月に1回やっていました。でも先生から「大胆でいいね」なんて褒められるので、けっこううれしくて。わからないながらも、いけばなって絵を描いたりすることとすごく近いなと思ったんですよね。
田中 そう、いけばなはまさに空間に絵を描く作業といえるんです。
大泉 小学生でそこに気がついたのはすごいですね。
自然信仰からはじまるいけばなの歴史
石井 大泉先生、改めて基礎の基礎からお願いします。
大泉 わかりました。まず、いけばなの根源のひとつと言われているのが、神道で言う依代(よりしろ)です。依代とは、神霊が依り憑く(よりつく)対象物のこと。神事をする時に、神を招くための依代として、常盤木を立てていたようです。
田中 今もお正月に立てる門松も同じ意味ですね。
大泉 そしてもうひとつが、仏に供えるお花である供花(くげ)です。日本に仏教が入ってきたのは6世紀ごろですが、その後平安時代に入って仏様に捧げるために仏前に立てる供花、いわゆるいけばなの原型のようなものができてきました。
大泉 そうですね。「枕草子」の中にも瓶に桜を挿すという文章がありますので、お花を親しむ心というのは、古来日本人が持っているものだったと思います。日本には“八百万の神”という言葉があるように、石や木、水などあらゆるものに神が宿るという考えがありますよね。そんな中で、植物にも神が宿るという気持ちで親しんでいたと思います。
田中 海外の一神教の考えでは生まれない、その成り立ちは日本ならではだと思います。
【ポイント】
■いけばなの根源は、神様を招く依代として立てた常盤木
■仏に供える供花が、花や枝を立てていけるいけばなの原点となる
■すべてのものに神が宿る、自然信仰がベースに
華道家は空間を司るアートディレクター?
田中 “庇”とは今でいう屋根のようなものではなく、母屋の外側を取り囲む廊下のような場所のことです。
大泉 その後、鎌倉時代に入ると生まれるのが書院造り。個人的な書斎のようなものができ、床の間の原型となるような“押し板”という板張りの場所に花と蝋燭とお香を立てて、お客様をお迎えするようになったんです。
田中 花瓶と香炉、燭台という、いわゆる仏具の三具足(みつぐそく)をちゃんと揃えて、お迎えしたということですね。
大泉 そういうことから、いけばなにとって“空間”というものがとても重要なポイントになってくるんです。
田中 花をいけるということは、絵画や掛物のような平面では出せないものですからね。
石井 確かに! 空間に立体的にアクセントを足せる、それが花ですね。
大泉 床の間ができ、当時は座敷飾りと言っていたんですが、その座敷飾りを上手にやる人たちが出てくるのです。室町時代、将軍や貴族に仕えていたそういう人たちを同朋衆(どうぼうしゅう)と言っていましたが、彼らが座敷のコーディネートをしていくわけです。
田中 彼らは作庭をしたり、中国から入ってきたいわゆる唐物(からもの)の書や工芸品の鑑定もやったり、文化的なプロ集団。この季節はこういうものをここに飾りましょうと、アドバイスをしていたわけです。
田中 当時の室町幕府八代将軍・足利義政は、政治的には評価が低いんですが、文化的支援者で「東山文化」を築いた立役者でもありました。
大泉 さらに安土桃山時代になると書院造りも豪華絢爛になり、豊臣秀吉を迎えるために初代池坊専好がいけた花は、幅が7mにもなったという記述が残っています。おもてなしの心でもあり、自分の力を誇示する意味合いもあったのではないかと思います。
【ポイント】
■建築様式の変化により、床の間が誕生。花を飾る行為が確立
■座敷飾りを司るアートディレクター的プロ集団「同朋衆」が誕生
■絵画等と異なり、空間に立体的な効果を出せるのがいけばなの魅力
豪勢とわびさびの美を知る、男のたしなみ
大泉 そうですね。石井編集長は千利休の朝顔のエピソードはご存知ですか?
石井 知らないですね。ぜひ教えてください。
大泉 千利休の庭の朝顔が非常にきれいに咲いているという噂を聞いた豊臣秀吉が、千利休を訪ねていったところ、垣根の朝顔がすべて切られて見ることができなかった。ところが茶室に入ったら、一輪だけ朝顔がいけられていたんです。
石井 なるほど! それはもう忘れられない一輪になりますね。すごいな。
大泉 江戸時代になると町民にも広まり女性のたしなみとしていけられるようになりましたが、いけばなはもともと同朋衆や武士といった男性の仕事や教養として発展したもの。ですので、LEON読者の方にもぜひその魅力を知っていただきたいと思います。
石井 なるほど、歴史的にみれば、まさにオトコが身につけるべきたしなみですね。やっぱりちゃんと知らなければという気持ちになりました。
【ポイント】
■武将を圧倒する巨大ないけばなもたった一輪の花も、日本の美意識
■いけばなは、武士たる男の教養のひとつ
伝統の枠を超え、世界が認めるアートへ
大泉 草月流は創始者の勅使河原蒼風が、形式的ではなく自由ないけばなをやりたいと華道家であった父のもとを飛び出して、1927年に創流しました。現在の家元、勅使河原茜で4代目になります。
田中 いけばなでは池坊、小原流、草月流が三大流派ですが、草月流は比較的新しい流派なんですよね。
大泉 あと4年で100年を迎える、いけばなの中では新しい流派です。蒼風は初の草月流展を銀座千疋屋で行ったり、NHKのラジオでいけばな講座をしたりと、かなり先進的な考えの持ち主だったようです。
大泉 戦前からも革新的な試みをしていたのですが、戦後焼け野原の東京を見て、そこに生きる植物の力強さや、ある意味ふてぶてしさも感じて、落ちていた鉄くずなども使った「オブジェいけばな」と言われる立体的な作品も発表するようになったんです。また彫刻を造ってお花と組み合わせてみたりと、非常に新しいいけばなをするようになりました。
石井 この作品集を見ると、本当に完璧なアーティストですよね。
大泉 戦後まもなく1955年には個展をパリで、1959年にはニューヨークでと早くから海外にも進出し、“花のピカソ”と評されるほど海外での評価はとても高かったそうです。さらに書や絵画など、この部屋にも展示していますがいけばな以外も幅広い作品を残しています。
田中 この作品を見たら、日本の華道家はびっくりしたでしょうね。
石井 いやあ、同じいけばなとは思えない。いけばなの枠を超えた新しい芸術だと思います。
田中 アンディ・ウォーホルの絵画のモデルにもなっている、本当にきれいな方ですよね。
石井 蒼風の圧倒的な塊でどんと表現する作品と違って、これはもう繊細の極致ですね。
大泉 そして三代目の勅使河原宏は、書や陶芸にも才能を発揮し、陶芸のために訪れた福井で、雪の重みでしなだれながらも折れることのない竹のしなやかさと強さに気づき、竹のインスタレーションを多く手掛けています。
もともとカンヌ映画祭で受賞した『砂の女』などの映画監督ということもあり、能舞台の空間演出をしたり、公共空間や舞台など草月と社会の関係をより深めていきました。私たちにももっと社会と関わるべきと、よく言っていたようです。空間芸術という考えから、舞台美術やいけばなのインスタレーションなども行うようになりました。
田中 草月は本当にいけばなの世界を広げましたよね。他の流派ではやらないことも、独自の発想でどんどん挑戦していらっしゃる。
大泉 ありがとうございます。現在の四代目の茜家元も、音楽やダンスなど他分野の方たちと組んで、いけばなを生で見せるライブを積極的に行っています。
田中 出来上がった作品だけでなく、完成までの過程が見られるのはいいですよね。花だからやがて消えていき、作品になった後も残らないですから。
田中 いけばなの歴史から草月流の考えまで、ひと通り知識を勉強したところで、次は実践です。
石井 日本の美意識から芸術性の高さまで、いけばなってすごいアートですよね。いや~かなりやる気になってますので、先生ぜひご教授ください!
【ポイント】
■いけばなの三大流派は池坊、小原流、草月流
■形式にとらわれず、自由ないけばなを目指したのが草月流
■初代・勅使河原蒼風は、斬新な作風で“花のピカソ”として海外で評価を得る
■異素材の使用やライブパフォーマンスなど、いけばなはひとつのアートに
● 大泉麗仁(おおいずみ・れいと)
いけばな草月流本部講師として指導にあたるほか、自由が丘と代官山でいけばな教室、麗―rei―を主宰。2000年に草月流に入門し、竹中麗湖氏に師事。公共空間、店舗、イベント等さまざまな空間におもてなしの花を提案し、いけばな作家としても活躍中。2004年 第86回草月展「新人賞受賞」、2009、2012年「新作能 オンディーヌ」能舞台にて苫屋制作や2015年パリ・日本文化会館にて能の舞台美術を制作。2012年「マルセル・プルーストへのオマージュ 失われた時を求めて」舞台公演にて、音と香りを融合させたいけばなパフォーマンスで、独自の世界を切り開いている。また、現代空間の中に人の心や呼吸に深く共鳴していくいけばなを目指しワークショップを開催。2022年には麻布十番ギャラリーにて個展を開くなど精力的に活動している。
HP/http://reito-oizumi.com/
Instagram/@reitooizumi
■ いけばな草月流
1927年自由な創造と個性を尊重するいけばなを求めて勅使河原蒼風が創流。草月のいけばなは型にとらわれることなく、いつでも、どこでも、だれにでも、そして、どのような素材を使ってもいけることができ、いけ手の自由な思いを花に託して、自分らしく、のびやかに花をいけるのが特徴。また、時代とともに変化してきた草月のいけばなは、それぞれのご家庭で楽しむことはもちろん、ウインドゥディスプレーや舞台美術など、社会のあらゆる空間に植物表現の美と安らぎをもたらしている。現在は、第四代家元・勅使河原茜のもと、子どもたちへの指導や「いけばなライブ」などの取り組みとともに、新しいいけばなの魅力を発信する流派として世界中で親しまれている。
HP/https://www.sogetsu.or.jp/
● 田中康嗣(たなか・こうじ)
「和塾」代表理事。大手広告代理店のコピーライターとして、数々の広告やブランディングに携わった後、和の魅力に目覚め、2004年にNPO法人「和塾」を設立。日本の伝統文化や芸術の発展的継承に寄与する様々な事業を行う。
■ 和塾
豊穣で洗練された日本文化の中から、選りすぐりの最高峰の和文化体験を提供するのが和塾です。人間国宝など最高峰の講師陣を迎えた多様なお稽古を開催、また京都での国宝見学や四国での歌舞伎観劇などの塾生ツアー等、様々な催事を会員限定で実施しています。和塾でのブランド体験は、いかなるジャンルであれ、その位置づけは、常に「正統・本流・本格・本物」であり、そのレベルは、「高級で特別で一流」の存在。常に貴重で他に類のない得難い体験を提供します。
HP/http://www.wajuku.jp/
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● ダイナースクラブの詳細はこちら
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