2023.07.17
時代を読めないアブナイ人にならないために、オヤジとして知っておくべきこととは?
目まぐるしく時代が変化しているなか、モテるオヤジはどうあるべきか? 過去の価値観のまま更新されていないとモテるどころかアブナイ人に! 男性の生き方を研究する「男性学」の田中俊之先生に、今の時代にふさわしい“愛される”オヤジになるための心得を伺いました。
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文/木村千鶴 編集/森本 泉、岸澤美紀(ともにLEON.JP)
今回、そんな「愛されオヤジ」を巡る特集を始めるにあたって、まずお話を伺ったのは、男性ゆえに抱える様々な問題を扱う「男性学」研究の第一人者、大妻女子大学准教授の田中俊之先生。
時代の変遷の中で、男性に求められる社会的役割やあるべき理想像はどのように変わり、それによってどんな問題が生まれているのか。今の時代にふさわしい男性像とはどんなものなのか? そして、男性が楽しく幸せに生きていくために必要な心得とは?
働き続けるのが当たり前とされてきた男性特有のつらさ
田中俊之先生(以下、田中) 「男性学」というのは、男性が男性だからこそ抱えてしまう悩みや葛藤を対象にした学問です。対象になる物事は時代や社会と相対的ですので、例えば日本の現代社会だったら「働きすぎ問題」など、どちらかといえばマジョリティ男性に焦点を当てたものになっています。
元々はウーマンリブが起きた時代に、女性ならではの悩みや葛藤を対象にした「女性学」ができて、それに共感し活動を共にしてきた男性たちが、80年代半ば頃から「男性も当事者として男性特有の問題があるはずだ」と働きかけてできたのが「男性学」です。
例えば結婚、妊娠、出産が働くうえで壁になることは女性特有のものであって、男性においては起きない問題です。あるいは「定年退職者」といえば、みなさん“オジサン”を思い浮かべますよね。なぜならば定年まで働ける女性がほとんどいなかったから。そのように女性特有の問題と男性特有の問題はセットになっていると考えます。
田中 多くの日本人が会社という組織で働くようになったのは高度成長期以降のはずなのですが、世間一般的に「男は学校を卒業したら定年までフルタイムで働くのは当たり前」と強く自明視して、会社組織みたいなものに忠誠を誓わせている。
ニュースで「犯人は40代無職男性です」と報道されると、何となく“あ、やりそうだ”と思ってしまいますよね。働いていない男性に対する不信感はとても強いわけです。この思い込みがごく短期間に達成された理由を知りたくて、僕は男性学をやっています。
── 確かに成人男性は仕事をしていて当たり前で、世間も疑問を持つことはまずないですね。当事者である男性も、そこに誇りを持って仕事一辺倒の生き方になってしまっている方は多いように思います。
中高年が過労死してもニュースにもならない
仕事とライフの関係を考えた時、特に中高年男性が注意しなければいけないのは、仕事と「生命」の関係です。40〜50代は心身に不調をきたす人が多く、それでも、そもそも「オジサンは疲れている」と思われているので、痛ましさみたいなものを周囲に感じてもらえません。中高年が過労死してもニュースにもならないわけです。そうなると、とにかく自分の命は自分で守らないといけない。その意味でも本当に仕事一辺倒という生き方はよろしくない。
また「生涯」という意味で考えると、今は定年してからも健康で長生きする人が多いですから、かなりの時間が残されています。でも定年すればお金も現役のようには使えないし地位もなくなる。その時、何を頼りに生きていけるのかという問題があります。
例えばそこそこ社会的な地位を築いて、お金も稼いでいるような男性って、その地位とお金を武器にクラブで女性を口説く、みたいなことをやりがちじゃないですか。でも定年してお金がなくなれば当然彼女たちも相手にしてくれない。それで自分の魅力が失われたように喪失感を感じたとして、そういうのは生き方としてどうだろうと。
趣味とは、それをすること自体が目的のものです
田中 高齢になって「自分には何もない」と感じてしまう男性には、趣味がなく友達もいないという二大特徴があります。現役のうちから趣味を作り、仕事のつながり以外の人間関係を持った方がいいでしょうね。
趣味は何でもいいと思うんですが、スポーツジムだったら定期的に通えて、近隣の人と知り合える定額制のジムがいいと思います。釣りや登山でもいいでしょう。体を動かすことが苦手だったら、昔ながらの近所の飲み屋さんやスナックで誰かと交流を持つのでもいいと思います。社交が苦手だったら、家でオンラインゲームやSNSを使ってネット上の友達を作るのでも良い。何かしらのつながりがないこと自体が問題です。
── 仕事の関係でゴルフをすることが多いから、趣味はゴルフと答えている、という人はたくさんいそうですが。
田中 趣味自体が手段化してしまっているものは趣味にはならないんですよ。よくあるのが人脈を広げるためにするゴルフですね。ゴルフをすること自体が楽しかったらいいんです。趣味というのは、それをすること自体が目的である。これを社会学では自己目的的と言います。
仕事中心で生きている男性でたまに見受けられるのが「それ何の意味があるの?」と相手に聞いてしまうことです。筋トレに夢中になっている人に「そんなに筋肉をつけてどうするんですか?」と言う人っていますよね。その人は筋肉をつけること自体が楽しいからしているのであって、何かの手段になるという話ではないことがわからない。
その文脈で言うと、山登りだって登って降りるだけだったら麓にいた方がいいという話になってしまうんです。仕事思考にとらわれて、何かの成果に結びつくということでしか物事を捉えられない。そういう人は自己目的的な行為の面白さみたいなものを理解する必要があると思います。
田中 急に友達を作るのは難しいので、まずはハードルを低くして「よっ友」を作ることから始めるのはいかがでしょうか。
── 「よっ友」、ですか⁉
田中 大学生が使う言葉で、すれ違うときに「よっ!」と声をかけるだけの友達のことです。学生たちは否定的な意味で言っていますが、まずはその程度の顔見知りから作るので構わないと思います。ベストはもちろん、そういった中で心を開いて話せる友達ができることですが。
ただ、知っていてほしいのですが、会社で貯めたポイントは他のコミュニティや家庭では使えません。一生懸命仕事をして功績を残した、出世したというのは誇らしいことかもしれませんが、仕事と関係のない場所で使える通貨ではないんです。
例えば、定年してどこかのコミュニティで自己紹介する時に「〇〇会社で部長をしていました」なんて言っても、もてはやされるわけでも尊敬されるわけでもない。場が白けて浮いてしまうだけなので、会社で得たポイントは無価値だと自覚した方がいいと思います。
自分が本当に求めるものは何か? 一回立ち止まって考える
田中 ただ最初から仲良くなろうと親しみを込めた態度を取りすぎると、距離感を間違えるかもしれません。誰に対しても敬語を使い、一定の距離を保っている人の方が付き合いやすいんじゃないでしょうか。店員さんなどのサービス業の人に横柄な態度を取ったり、敬語を使わなかったりする男性は論外です。
── また、何歳になっても異性にモテたい、恋愛がしたいという感情があるのは、悪いことではありませんよね?
田中 誰かに迷惑がかかるものでなければ、恋愛だって悪くはないと思います。以前小島慶子さん(※)と対談をしたんですが、彼女は“そういう気持ちはいつまでも持っていていいんじゃないの派”でした。
例えば保育園の先生が素敵で、今日も会えてうれしかった、みたいな気持ちは持っていていいと。僕もそれを否定するつもりはありません。「この人と恋愛がしたい」という内側から沸き上がってくる感情なら自然なことだと思います。
ただしそれが、自己顕示欲で「良い女連れてる俺、凄い!」とか「若くて綺麗な女が最高!」といった、外側からもらってきた借り物の価値観をいつまでも持っているようだと、大人として成熟していないなと思ってしまいます。そうならないためにも、自分が本当に求めるものを一回立ち止まって、改めて考えてみてもいいと思うんです。それは恋愛に限ったことではなく、仕事にも当てはまるんじゃないですか。
田中 40代、50代を迎えたら、そろそろ内側から湧き上がってくる感情や物事を見る自分なりのフレームがあっても良いんじゃないかなと。今のこれが本当に自分のやりたかった仕事なのか、もっと最初は燃えていて、地元に貢献したいとか、社会を良くしたいと思っていたのに、惰性で仕事してないかとか。
ただ今回取材を受けるにあたりいろいろ考えましたが、世のオジサンたちもキツいだろうなとは思いました。ウルフルズの『バカサバイバー』という曲の歌詞の中に「♬ほれ見ぃ、あのオッサンの顔、お前もあんなんなってまうよ」というフレーズが出てくるんです。
高度成長期に男性が働いて、女性が家にいるようになりました。今はフルタイムで共働きです。もちろん独身の人は性別なく働きます。何にせよ男性の生き方は常に固定されていて変わりません。その枠から絶対出るなとはめられた挙句に、「あんなサラリーマンみたいになっちゃうよ」と揶揄されてきたところがある。オジサンって儚いなと。
── 確かに哀しい(笑)。
それでも男子の制服にスカートはない
── 当時その年齢層の男性の中にはお洒落に興味を持つのは恥ずかしいと思っている人も多かったようです。それでも本当はお洒落をしたい人たちと思っていた人は当然いますから。
田中 今は男の人でスカーフを巻く人も増えてきたし、お洒落の幅が広がって、そういうことに貢献した意味では良かったと思います。とはいえまだ男性のお洒落はそこまで自由ではありません。スーツは結局黒や紺、クールビズなんて言われて好きな格好をしていいのかと思ったら、デパートにはクールビズセットみたいなのが売られている。
── LEONはそんな状況に物申してきたわけですが。
田中 そうですね。それでも学校の制服も女子はスラックスが認められたけど、男子のスカートはない。男性の多様性はなかなか認められません。結局、男性はいつまでたっても、いい大学に行っていい会社に入って出世して金を稼ぐ、それがデフォルトになっているのはキツいなと思います。
※後編(こちら)に続きます。
● 田中俊之(たなか・としゆき)
博士(社会学)。1975年、東京都生まれ。大妻女子大学人間関係学部准教授、渋谷区男女平等・多様性社会推進委員会委員。男性学を主な研究分野とする。著書『男性学の新展開』(青弓社)、『男がつらいよ―絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社プラスα新書)、小島慶子×田中俊之『不自由な男たち──その生きづらさは、どこから来るのか』(祥伝社新書)、田中俊之×山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波ジュニア新書)。日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎる」と警鐘を鳴らしている。
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