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2023.07.18

【覚醒】そこのオヤジさん、「自分のものの見方には限界がある」って言えますか?

目まぐるしく時代が変化しているなか、モテるオヤジはどうあるべきか? 過去の価値観のまま更新されていないとモテるどころかアブナイ人に! 男性の生き方を研究する「男性学」の田中俊之先生に、今の時代にふさわしい“愛される”オヤジになるための心得を伺いました。その後編です。

CREDIT :

文/木村千鶴 編集/森本 泉、岸澤美紀(ともにLEON.JP)

気負わず気張らず遊び心をもって  愛されオヤジで行こう!
今回の特集「愛されオヤジで行こう!」にちなんで、「男性学」の第一人者である大妻女子大学准教授の田中俊之先生に、今の時代にふさわしい愛される男性像とはどんなものか? を伺っている本稿。前編(こちら)では仕事至上主義から逃れられない多くの男性に対して仕事以外で自己を確立する大切さについてお話いただきましたが、愛されオヤジで行くためには、ほかにも色々と従来のジェンダー観を更新していく必要がありそうです。 

男性がジェンダー問題に関心を持ちにくい理由とは

── 男は強くなければいけない、これも長年デフォルトになっていた考え方ですよね。

田中 男は、女はということ自体が根本的に違うというのが僕の立場です。生物学的な性別はふたつしかないのに、その枠に押し込めるのがそもそも無茶な発想だと僕は思います。ただ高度成長期あたりの一時期に、それは上手くハマった戦略で、男女で分業したら社会が面白いように駆動した。

みんな急にご飯が食べられるようになったし、家に洗濯機が来るわ、テレビが来るわ、これはいいと。そしてこのやり方が男と女を固定的にしたんです。70年代は皆婚社会ですから、9割以上の人が結婚した。歴史的にみてもみんなが結婚することは異常事態であって、たまたまその時期にそのパターンがうまくハマっただけなのです。だけど、今ではその頃に青春時代を送った人が偉くなっていて、往時のフレームがなかなか捨てられないんだなと感じます。

── 家庭に入る選択肢しかなく、様々な権利が与えられていなかった女性たちが声を上げることで、女性の問題、ジェンダー問題は少しずつ社会的な認知も進んできたと思いますが、長年その声は押し込められてきたのも事実です。

田中 それには男性がジェンダー問題に関心を持つこと自体、難しいという側面もあります。なぜならこの社会は男性が標準として設計されていて、自分たちがデフォルトだからです。例えば企業研修などで、男性社員に対して、あなたが妻の扶養内の金額で働いて、今後キャリアアップする可能性もないとしたらどう思うか、という話をするとびっくりするんです。そのように立場を逆転させるとやっとわかる。

結婚した女性はその枠に押し込められがちで、一方、男性はフルタイムでとにかく40~50年働けという固い枠の中に押し込められてしまう。それが現代まで続いています。この中で標準として生きていると、性別が人の生き方に影響を与えているという視点を持ちにくく、女性であることがどういう意味を持つかも(男性は)理解できないんだと思います。
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20年前と比べれば社会は確実に良くなってきている

── 最近は特に#Me tooの運動やジェンダーにまつわる問題がクローズアップされていますが、それも新たに生じた問題ではなく、昔からあった問題がようやく顕在化しただけなのでしょうね。

田中 その通りです。70年代から常に女性は「男性と対等に扱ってください」と異議申し立てをしてきたんです。それでも女性は政治にも経済にもほとんど参加できないまま、長く性別で分業させられてきたし、ジェンダー問題で先頭に立つ女性、例えば田嶋陽子さんなどはテレビにもよく出演し、真っ当な意見を言っていたはずですが、どんなに声を上げてもヒステリーとされるような役割を与えられていた。そうして消費されていたのだと思います。

でも、今、日本は低成長の社会になってきて、女性にも働いてもらわざるを得なくなったことで、対等な発言権をどんどん持てるようになりました。前から言われてきた当たり前の要求に、いよいよ直面しなきゃいけなくなっている。ここで誤認が起きて一部では「女が権利を拡張したから俺たちが虐げられてる」みたいな勘違いが生まれているのだと思います。

── その誤認が元で、一部の男性が女性に憎悪を募らせている状況は気になりますが、それはごく一部で、ほとんどの男性の意識は変わりはじめていると思いたいです。

田中 確かに変わってきていますね。20年前は政治家も平気で酷い発言を繰り返していましたが、今は大炎上します。もちろんフェミニストの方たちは一気に変わらないことに苛立ちを持つでしょうけれども、20年前を振り返ってみれば社会は明らかに良くなってる。これは間違いないと思います。
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多様性を認める以外選択肢はない

── 社会学、男性学の視点から見て、どのような社会になっていくことが望ましいと言えるでしょうか。

田中 これからは、性別も単純な話ではなく、LGBTQプラスの方たちの存在も認識したうえで一緒に暮らしていくことが求められます。外国人もどんどん増えます。

社会の変化のスピードが早く、世代間の格差もどんどん開きます。いろんな人が当たり前にいる中で、多様性を認める以外に選択肢はないのです。

この多様性が認められる社会の中で、感じのいい生き方、テーマである「愛されるオヤジ」の生き方ってなんだろうと考えた時、やっぱり旧来の男らしさと言われてきたものとは真逆になるなと。それを定義するならば、乱暴・不真面目・大雑把

── 乱暴・不真面目・大雑把ですか(笑)。ダメな男らしさですね。

田中  はい、小学生の時のやんちゃな男子を思い浮かべると、すぐ喧嘩をする、宿題をしない、掃除は雑、といったところでしょうか。それでも男の子だからしょうがないと許され、そのままの感覚で大人になったとしましょう。

でも、それでは社会が成り立たないと、フォローをしてきたのは優しくて真面目で、細かいことに気づける女性たちです。これから迎えるであろう社会ではその雑さは通用しない。作法として誰もが性別問わず、優しくて真面目、細かいことに気がつけるという価値観を求められる時代になっているのだと思います。
── 女性の優しさに甘えてばかりじゃいけないと。

田中 ただし、男性は乱暴・不真面目・大雑把でいいとされてきた一方で、その弊害もあって、(男性は)まとめて雑に扱われてきてしまった面もあるんです。例えば男子トイレって小便器が普通に衝立もなく並んでいますけど、それが女性用のトイレだったら嫌ですよね。そういった部分の改善は社会的に必要です。

── なるほど。いずれにしろ自分が特権的な存在ではなく、多様な社会の一員であることを自覚することが第一歩であることはわかりました。その感覚を持って対人関係を築けば他人と不用意に揉める事も減りそうです。

田中 はい、まずは表面的に感じが良ければよいのです。そう難しいことではないと思います。職場で働いている時は、そうした気遣いをお互いにして、ご近所の人には感じよく挨拶をする。優しく真面目で、気遣いができるようになれば、いろんな人とうまくいく可能性が高まるんじゃないかなと思います。
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気負わず気張らず遊び心をもって  愛されオヤジで行こう!

自分の物の見方に限界があることを知っておく

── まずは自分の年齢や立場に関係なく他人に平等に礼儀正しく接することができれば、相手からも悪い印象は持たれません。それができる心の余裕がある人が、結果として愛される人なのでしょうね。

田中 愛されるオヤジさんは、自己評価と他者評価が近い人ではあると思います。それが著しく乖離してる人は側から見てイタい。例えば、大人になるとお世辞を言われることも多いと思いますが、若い時には自分も目上の人に気に入られようとしてお世辞を言っていましたよね。カッコいいです、憧れます、ご一緒したいですって。

その記憶を取り戻せば、お世辞は相手への気遣いであり、自分を気持ちよくさせてくれているんだということがわかるはずです。それを真に受けて「自分はうまくやっている、慕われている」と思ってしまうと、イタい人になりかねません。自分を客観視すること、この視点を忘れないでください。
── 他人の心情を慮れる余裕が必要なんですね。

田中 さらに心がけたらいいなと思うのは、自分のものの見方に限界があるということを理解することです。もしかしたら今日の僕のインタビューにムッとする人はいるかもしれませんが、僕の今回の提案に「なるほど、こういうものの捉え方、切り口があるのか」と思える人と思えない人では、差が出るのではないかと思います。

これからは男性社員が1年間育休を取ることもきっと増えるわけで、自分の尺度からしたら理解できないことがどんどん起こるはずです。あるいは自分の部下が半分外国人ということもあるでしょう。

── 俺たちの若い時には……なんて話はホント通用しませんね(笑)。

田中 世代や人種の問題によって、見たことのない角度の価値観が必ず入ってきます。その時にイラッとして排斥したいという価値観にとらわれると「俺たちの、今までの、日本人の」という考えが出てしまう。すると自分も辛いし、他人にも迷惑をかける。でも、そんな過去の社会は戻ってこないんです。

自分を客観視できることと自分の物の見方に限界があることを知っておくことは非常に重要です。あとは人との距離感ですね。親しみはごく身近な人にだけ、他は敬語でいいのです。優しくて真面目、細かいことに気が付ける価値観を丁寧に持って、自身のチェックをしていくと、好感度の高い「愛されオヤジ」というものに一歩近づけるのではないかと思います。

── もちろん、ただ善人であれ、完璧であれという話ではないと思います。ちょっとダメなぐらいの方が愛される場合もあるでしょう。とはいえ、根底となる社会の変化を察知し、何が求められているかをわかったうえで、自分なりのスタイルを持たなければならない時代なのだということはよくわかりました。ありがとうございます。
田中俊之(たなか・としゆき)

● 田中俊之(たなか・としゆき)

博士(社会学)。1975年、東京都生まれ。大妻女子大学人間関係学部准教授、渋谷区男女平等・多様性社会推進委員会委員。男性学を主な研究分野とする。著書『男性学の新展開』(青弓社)、『男がつらいよ―絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA)、『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)、『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社プラスα新書)、小島慶子×田中俊之『不自由な男たち──その生きづらさは、どこから来るのか』(祥伝社新書)、田中俊之×山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)、『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波ジュニア新書)。日本では“男”であることと“働く”ということとの結びつきがあまりにも強すぎる」と警鐘を鳴らしている。

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