2023.07.28
「初めてのデートで、今日はホテル行くぞって、目標立てる男はアホ」
目まぐるしく時代が変化しているなか、モテるオヤジはどうあるべきか? 過去の価値観にとらわれず、しなやかにしたたかに現代を生き、男女を問わず皆に好かれる「愛されオヤジ」たちをご紹介する本特集。今回は放送作家の野呂エイシロウさんの登場です。
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文/木村千鶴 写真/トヨダリョウ 編集/森本 泉(LEON.JP)
【愛されオヤジ05】野呂エイシロウさん(放送作家)
愛されオヤジのホームはベッドとお風呂とトイレの中だけ!?
そんなリアル「愛されオヤジ」たちを紹介していく本特集。今回お話を伺ったのは、本誌連載『それはまた誰かのハナシ』でお馴染み、放送作家・戦略的PRコンサルタントの野呂エイシロウさんです。
野呂さんはとにかく顔が広い。戦略的PRコンサルタントとして数多くの企業と契約を結んでいるというビジネス的な理由に留まらず、さまざまな人と軽快に会話を楽しみながらあちこちの人物を繋ぎ、皆を笑顔にしてスマートにその場を去っていく。いわば「コミュ力モンスター」なのです。そんな“愛されオヤジ”野呂さんが人と接する時に大事にしている思いはどんなことなのでしょうか。
コミュニケーションの目標値を見誤ると痛い目に
あくまで攻めの姿勢を崩さないところが野呂さん。その信頼関係を築くにも順序があると言います。
「例えば女性と初めて食事に行くとなった時、きっと相手は楽しく食事をして、少し仲良くなるくらいのつもりで来ているだろうに、男性の中には“今日はホテルに行くぞ”みたいな目標値になっているアホがいます(笑)。
それって凄く高いハードルじゃないですか。僕だったらせいぜい、次のデートに誘えるかどうかってことと、今日手を握れるか、ハグしたら怒られるかな、くらいの目標値ですよ。
結果は急がない方がいいんです。因数分解するように、小さな段をひとつずつ積み上げて、関係を構築していくのが正解。お見合いだったら、当面の目標は結婚じゃなくて次のデートに誘えるかどうかだけに集中した方がいい」
「だってそうでしょう。素敵な人と出会いました→セックスしたい、じゃなくて、その間を楽しまなくちゃ。食事をする時に相手はどんなメニューを選ぶんだろうとか、この人のマニキュアきれいだな、なんでこの色にしたのかなとか、相手の選択に興味を持ってみれば話はどこまでも広がるし、お互い楽しく過ごせるじゃないですか」
「例えば新しいものを身につけているとか、髪型が変わったといった変化にどれだけ気が付けるか。先輩がおろしたてのパターを持ってゴルフ場に来たとしたら、本当はそんなに興味なくたって(笑)、『そのパター良いですね。どんな感じですか? ちょっと打たせてくださいよ!』なんて言ってみればいいんです。
女性と食事をしてる時、美味しそうに食べている姿を見たら、それ美味しい?なんて聞いて、もし、『ひと口いかがですか』とか言われたらうれしいじゃないですか。そうやって少しずつ距離を詰めながらお互いを許容しあっていく、それがコミュニケーションなんじゃないですか」
基本的にどこでもアウェイ。身内でも同じ
「コミュニケーションでは本質的に、自分はアウェイにいると思っているからです。もちろん自分のホームを作ることも大切ですが、ホームとアウェイの場をしっかり分けることが大事だと思っています。僕は家庭であろうが親であろうが親戚だろうが、アウェイです」
自宅であっても、親であっても気を抜かないという野呂さん。
「僕にとってホームなんてベッドとお風呂とトイレの中だけ(笑)。他は全部アウェイだと思っています。実家に帰る時にも万全の体制で、手土産に合わせて花まで買って帰ります。自宅でも家のドアを開けたら全部カミさんの言いなりだって決めていますから(笑)」
「人生は思い通りにならない。それはもう子供の頃からわかっていました。好きな女の子は俺のこと好きになってくれないし、成績も思い通りにならない。テニス部では打ったサーブがネットに引っかかって入らない。ほとんどのことは思い通りにならないと、その頃にもう悟りました」
じゃあどうするか。野呂少年は考えました。
「中学生の時は小遣いが確か2700円くらいで、大好きだった河合奈保子さんのレコードを買うにもちょっと足りなかった。田舎の中学生なんてハンバーガー屋に行くぐらいしか楽しみがないけど、それだって小遣いに余裕がないわけで。
ここで反抗して小遣いを止められたら俺の青春は終わりだぞと思ったわけです。でも、ひょっとして親を“よいしょ”したら小遣いが3000円になるかもしれない。じゃあどうするか、とそんなことばかり考えていた覚えがあります」
その冷静さゆえに反抗期をコントロールできたのだと言います。
「自分の世界にはこれしかなくて、その世界を自分に与えているのは親だということを認識していましたから。戦略としては母親を気持ち良くさせておくのが大事だから、母がお洒落をした日には『今日の服、シャネル風で良いね、似合ってる』なんて言ってました(笑)。
当時は学校の先生と多少敵対してても、家が守られていれば安楽の地なんです。僕は『少年ジャンプ』を読んでいても怒られないような家庭環境にしたかったので、それは凄く計算していました」
実は思い通りになっていることもたくさんある
「自販機にお金入れたら思い通りの飲み物が出てくるし、買い物をすれば金額通りにお釣りが来る。公共の乗り物に乗れば目的地にちゃんと向かってくれる。待ち合わせの時間通りに相手が来てくれたらうれしいし、それも思い通りになったことのひとつでしょう。視点を変えれば結構思い通りになっている人生かなとも思ったんです」
ものは見方次第。ないものを悲しむより、あるものに感謝して生きる。この考えがその後の野呂さんの生き方の大きな核になったと言います。ある時、こんなこともありました。
『今、俺の投げたやつ取れたし、俺に投げ返せたでしょ。これは思い通りになっているよね。でもあなたは車椅子に乗っているから9割思い通りにいかないと思っている。数えてごらん、実は一日に何百って思い通りになることが起きているよ。スイッチを押せば電気がつく。それは電動車椅子だからオンにしたら前に進むだろ』って言ってたら、彼女、泣き出しちゃったんです。
それから3〜4回くらい、彼女はイベントとかにひょっこり顔を出してくれるようになりました。それも車椅子じゃなくて松葉杖で。あの時がきっかけになって色々考え直したら、杖は必要だけど歩けるようになりましたと言っていました。
視点が変わったら見える世界が違ってくることはあると思うんです。ただ、この紙のボールをバットで打ち返してホームランを打とうと思ったら難しくなる。それは匙加減だよと伝えました」
「原点をひとつ決めて、迷ったら常にそこに戻って判断すれば良いんじゃないでしょうか。僕の場合、原点は“母親を怒らせなかったこと”だから、もし母親が外国人と再婚したら(別に離婚はしてませんが)、その人に連れ子がいたら、と考えます。多分結婚に反対はしないし、連れ子に意地悪なんかしたら母が悲しむから、気を遣いながらコミュニケーションを取るだろうなと。それと同じだと考えるとだいたい上手くいきます。
僕は自分よりぶっ飛んでる人と接する時のほうが面白く感じます。寡黙な人とか、人種や宗教が違うとか、性転換の手術をしているとか、自分の感性と遠い人のほうが接していて面白いに決まっています。誰が何を好きで、嫌いで、何を信じていても、そんなことは何だって良いと思っています。人は違って当たり前だから。むしろ違いを楽しんじゃえばいいと思います」
お金を回して、みんなにいい思いをしてもらいたい
「色んな社長さんとかから、お金出すから一緒に遊びに行くのに付いて来てって言われるんです。この前も〇十万円出すから接待ゴルフについて来てと言われて行ってきました。
その時、野呂さんは、依頼をくれた人も接待相手も一緒に楽しめるように、ゴルフ前日の食事会の会場となる寿司店に、サプライズでそこそこ高価なワインを2本持ち込んだといいます。
「そのお店は有名店で、実は店の棚には何十万円もするワインがずらっと並んでいたんです。でもお店の人には『すみません、本当はここのワインを入れたかったんですけど、予算がなくて駅前のワイン屋で買っちゃいました(笑)』なんて言ってね。一杯ずつぐらいだけどお店の人も交えてみんなで一緒に同じワインを飲んで、場が凄く盛り上がりました。
相手のお客さんもとても楽しんでくれたようで、結局、億単位の商談がまとまったとのことでした。カミさんからは『仕事で行ってるのに、〇万円も使ってきたの!?』って文句を言われましたけど(笑)」
「コミュニケーションの場において、僕は幇間(男芸者)でいいと思っています。接待でも会議でも、みんなが“ああ楽しかったね“で終われるようにするのが僕の役目。接待に呼ばれるのって芸者と一緒ですから」
実はそういう人たちが世の中をうまく回している中心人物だったりすることも。
「僕は徳川家康に金平糖を献上した、茶屋四郎次郎みたいな人になりたいんです。お金を回してみんなにいい思いをさせて、大騒ぎして、いざとなれば踊るし、何でもしますよ」
「でも僕に特別の能力があるわけじゃないんです。人の力で、誰かのおかげでここまで来ている。だから人とちゃんと付き合っていこうと思っているだけです。優れたスポーツ選手は性格が多少悪くても結果を出せばいいでしょう。でも自分を含め、ほとんどの人はそうじゃないんだから。最初から大きなことは狙わず、小さな目標を少しずつ達成していけばいいんじゃないですか」
そして野呂さんは、常に自分でどうにかできる範囲のことしか語らないようにしていると言います。
「愛されオヤジ」は“モテる”の先に、人を繋ぎ世の中を回し新しいものを産み出す力も持っている。野呂さんを見ていると、つくづくそう感じます。そのためには目の前のことを大事にしながら等身大の言葉で語るべしという野呂さんのアドバイス、皆さんの参考になりましたでしょうか。
● 野呂エイシロウ
1967年愛知県生まれ。愛知工業大学卒。放送作家・戦略的PRコンサルタント。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』で放送作家デビュー。『ザ! 鉄腕DASH!!』『奇跡体験アンビリバボー!』『ズームインスーパー』などにたずさわる。30歳の時から“戦略的PRコンサルタント”としての仕事をスタート。これまでのクライアントには「SoftBank」「ビズリーチ」「Expedia」をはじめ国内外の企業250社以上があり、“かげの仕掛人”として活躍している。著書に『先延ばしと挫折をなくす計画術 無敵の法則』『心をつかむ話し方 無敵の法則』(ともにアスコム)など多数。