2023.10.27
【vol.17】和の礼法を学ぶ(2)
小笠原流礼法【実践編】 相手に気持ちを伝えられるお詫びの仕方をご存知ですか?
モテる男には和のたしなみも大切だと、小誌・石井編集長(49歳)が、最高峰の和文化体験を提供する「和塾」田中康嗣代表のもと、モテる旦那を目指す連載です。今回のテーマは「和の礼法」。後編ではお辞儀やお礼、お詫びの仕方などを実践で学びます。
- CREDIT :
文/牛丸由紀子 写真/トヨダリョウ 編集/森本 泉(LEON.JP) 指導協力/小笠原流礼法宗家本部 撮影協力/醍醐
第17回のテーマは「和の礼法を学ぶ」。前編(こちら)では小笠原流礼法宗家・小笠原敬承斎(おがさわら・けいしょうさい)先生から、“礼儀”と“作法”との違いや、礼儀作法には必ず理由があることなどを教えていただきました。箸の置き方ひとつにしても今まで知らなかったことばかりと反省しつつ、だからこそ俄然興味がわいてきた石井編集長。後半は精進料理の名店「醍醐」でお辞儀の仕方から箸やお椀の扱い方などの正しい作法を教えていただきます。
奥の席だけが上座じゃない? 座る動作は上座・下座を意識して
小笠原先生 それでは、用意されたお席に座るところからいたしましょうか。このようなお部屋では、まず上座はどこかを考え、お客様をお通しします。
小笠原先生 そうですね。和室ですと床の間に最も近い席、あるいは出入り口から遠い席が上座です。
田中 テーブルの位置によっては、床の間を背にした席が上座になります。
小笠原 ただし、このお部屋のように外のお庭がとても素敵な場合は、お庭を眺めやすい席を上座と考えることもあります。その場合は「出入口から近いですが、ぜひお庭をご覧いただきたく……」とひと言を添えていただきたいと思います。和室の場合「左上座」といって、向かって右側を上座と考えることが基本です。あるいは出入口の場所、景色の見やすい場所、冷暖房の風の向き、光の当たり方などを総合的に判断してください。
小笠原先生 次に座り方、立ち方に関して、基本的な動作の順序があります。床の間から遠い側の足、あるいは相手から遠い側、すなわち下座側の足を半歩引き、そのまま垂直に体を落とし、膝をついて跪座(ひざまずいて座ること)になり、片足ずつ寝かせるようにして親指を重ねて座ります。
立つ時は下座側の足を半歩立てて、その足を軸にして立ちあがりますが、上がり切る前に後ろの足を前に運び、揃えます。いきなり立ち上がって、上体が揺らぐことのないよう、ゆっくり安定した動作をこころがけましょう。
小笠原先生 手の指は必ず揃えて腿の上に置きましょう。またお座布団は、心地よく座っていただきたい、というお店の方や訪れたお家の方のこころの表れでもありますので、踏みつけずにまずは膝から入ることが大切です。
石井 いきなり上に座っちゃダメなんですね。
田中 正座ひとつでも難しいな(笑)。
石井 とにかく相手に失礼がないように、常に下座側を動かすと……まだちょっと練習が必要ですね。
小笠原先生 上手に動いていらっしゃいますよ。次はお辞儀も行ってみましょう。
【ポイント】
■ 床の間に一番近いところ、出入り口から遠いところが上座だが、景色を望める場所を上座にすることも
■ 座布団にはいきなり座らず、膝から入る
ほんの少し残す“間”が、美しいお辞儀のポイント
田中 確かに肘が張ると力が入った感じにみえてしまいますね。
石井 謝る時は、特に深くしようとしちゃいます(笑)。
その状態から少しずつ上体を上げ、手首と膝頭が一直線に並ぶまで戻ったところで止まり、「本日はお招きにあずかりまして、ありがとう存じます」などと挨拶の口上を述べます。さらにもう1回双手礼をいたします。
石井 なるほど、手と身体が連動しているんですね。それはまったく意識していなかったです。
小笠原先生 「足も手も皆身につけて使うべし 離れれば人の目にや立ちなん」という礼法の教え歌がありますが、要は足も手もすべて一緒に動くことが自然で、どこか1カ所不自然な動きになると全体のバランスが崩れます、という意味なのです。したがって身体の動き全体が自然になるようにこころがけると美しい挨拶を行うことができるようになります。
またお辞儀をする時は、吸う・吐く・吸うという息遣いが大事で、動いている時は必ず息を吸ってください。身体を倒す時は吸い、止まったら吐く。また吸って戻ります。
では石井編集長、なさってみてください。動作は丁寧にゆっくり行います。座礼は突然できることではないのですが、お上手でいらっしゃいます。
田中 背はもっとまっすぐにした方がいいですよね。
小笠原先生 そうですね。腹筋と背筋を意識していただいて、背骨が腰に刺さるようなイメージです。
また正面で対面したまま立つと相手を見下ろしてしまうので、身体を少し斜めにずらしてから立つといいでしょう。
小笠原先生 通常は出入り口など下座側に少し向きます。向きを変える時は、握った手を斜めに着け、身体を移動させます。手があまり前に出ると、もたれかかってだらしなく見えるので、膝より前に手は着かないようにすると美しいです。
田中 ちょっとしたことですが、そういうところにも気を遣いたいですね。
小笠原先生 お辞儀でもうひとつ大事なのが、最後まで相手への心を残すこと。お辞儀は頭を下げたところで意識が薄らいでしまいがちですが、元の姿勢に戻ったところで1秒でも心を残す。そこまでがお辞儀なのだと意識すると、またさらに深みが出ます。
石井 いや、すごい。確かにそうですね。お辞儀してぱっと終わりだと、やはり気持ちが感じられない。その終わってからの1秒が重要ですね。
小笠原先生 日常のあらゆる動作に間(ま)を持たせていただきたいと思います。例えばお辞儀で身体を戻した時に、お相手に笑顔を向ける。礼法を習っていなくても、そうしたことを自然にできる方は素敵な空気を意識せずにお作りになれるのではないでしょうか。
石井 間があるってことは相手の人を思える。そのゆとりがあるということなんですね。
小笠原先生 石井編集長は勘が良くてらっしゃいますね。ポイントを身につけられることが早くて、すばらしいです。
石井 いやお話をうかがって、礼儀作法に興味が出て面白くなってきました。
【ポイント】
■ 座礼で手が先にいってしまうのはNG。体の傾斜と手は一緒に動かす
■ 身体を倒すときは吸い、止まったら吐くという息遣いも意識して
■ 立つ時は少し身体をずらし、相手の正面を避ける
■ 頭を下げたところで終わらず、元に戻ったところで1秒でも心を残すことで、思いが伝わるお辞儀に
立礼の頭を下げる角度は、手の位置で確認
小笠原先生 「失礼いたします」と入室時の軽い挨拶の時と「本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます」とお礼を述べる時、あるいは「申し訳ございません」と謝罪を伝える状況を比較すると、お辞儀の深さは異なります。一方鏡が無いなかでどの程度まで身体を傾けているか、ご自分ではわかりにくいものです。
石井 そうなんですよ。徹底的に謝らなきゃいけない時はとことん深くしますが(笑)、お礼などの場合はいつもあいまいで……。
小笠原先生 そのような時は手の位置が目安になります。手を体の脇に自然に下ろし、その位置から先ほどの座礼と一緒で、息を吸いながら身体を倒していきます。腿の前で止まるぐらいで止めると、会釈と呼ばれるお辞儀です。さらに指先が腿の付け根とお膝の中間あたりまでいくと、浅めの敬礼です。さらに謝罪する時や感謝を述べる深いお辞儀は、指先が膝頭に達するぐらいまで身体を傾けます。
この3段階の身体の動きと手の位置を覚えておくと、スムーズにお辞儀ができます。ちなみに肘が伸び切ってしまうと、美しさに欠けた印象になりますので、座礼の時のように手は指先を揃え常にハの字になるよう意識しましょう。
▲ 手を体の脇に自然に下ろし、その位置から息を吸いながら身体を倒し、腿の前で止まるぐらいで止めると、会釈と呼ばれるお辞儀です。
▲ さらに指先が腿の付け根とお膝の中間あたりまでいくと、浅めの敬礼と呼ばれるお辞儀です。
▲ 謝罪する時や感謝を述べる深いお辞儀は、指先が膝頭に達するぐらいまで身体を傾けます。
▲ 手を体の脇に自然に下ろし、その位置から息を吸いながら身体を倒し、腿の前で止まるぐらいで止めると、会釈と呼ばれるお辞儀です。
▲ さらに指先が腿の付け根とお膝の中間あたりまでいくと、浅めの敬礼と呼ばれるお辞儀です。
▲ 謝罪する時や感謝を述べる深いお辞儀は、指先が膝頭に達するぐらいまで身体を傾けます。
田中 手も大事ですよね。最近手を重ねてお辞儀をする方が多い。
小笠原先生 指は揃っていないと目立ちます。手を重ねると粗が見えにくいので、そのようになさっているのかもしれません。小笠原流礼法では、指を揃えて、八の字にすることを基本としています。
石井 ちなみにお詫びの言葉などはいつのタイミングで言えば良いですか?
小笠原先生 お辞儀と同時に言葉を述べると、床に向かって言葉を発してしまうことになります。一番丁寧な挨拶は、お辞儀をして身体を元に戻したところで「申し訳ございません」と口上を述べ、もう一度お辞儀をする。ただし相手をお待たせしてしまうと思う場合は、最初または最後のお辞儀を省いてもいいでしょう。いずれにせよ重要なのは、言葉とお辞儀を別にすることです。それによって、相手にこころを届けやすくなるのです。
【ポイント】
■ 腿の前、腿と膝の間、さらに膝頭へ、手の場所をお辞儀の深さの目安にする
■ 指は必ず揃え、手はハの字の形に
■ お辞儀の動作と言葉は別々のタイミングで
お椀の蓋は? お箸は先に持つ? 意外と知らない食事の作法
小笠原先生 温かいものが入っている器は中に水滴がついていますので、露切りをしながら蓋を開けます。まず蓋の向こう側をつけたまま、手前から開けます。次に半円を描きながら蓋を立てるようにして、露を切ったら仰向けにして、蓋を外します。置く時は、丸いものはどこか1点を下につけてからゆっくり全体を置くと、音を立てずに置けます。
田中 食べ終わったあとの蓋の扱いも知りたいですね。割とみんな悩んでいる気がするな。
石井 そうそう、「ずらして置くべき」という人もいますが、蓋は閉めてしまっていいんですよね。
田中 お椀とお箸どちらかを先に取るかも、いざとなるとあれ? と思うでしょ。
お箸を上から持っている状態なので、そのまま右手を箸の頭の方にすべらせて、下から持ってください。置く時は同じように左手の指にはさみ、今度は下から上にすべらせて持ち変えたらお箸を置き、最後に両手でお椀を置きます。
田中 自然な流れでできるとカッコいいですよね。箸の使い方は、意外と見られていますから。
小笠原先生 「和食は箸に始まり箸に終わる」と言われるほど、お箸の使い方でその人の嗜みがわかると考えられています。また「箸先五分、長くて一寸」、つまり箸先の汚れは1.5センチから3センチ以内に留めるという心得も大切です。和食で最初にお椀をいただくことで、箸の先が濡れて汚れにくくなります。
田中 本当にいいお店では、最初からしっとりしたお箸が出てきます。わかってない客が、乾いてないじゃないかとクレームつけたりすることもあるそうです。
小笠原先生 お箸の先を汚さないということは、お料理をひと口大に切って口に運ぶということに繋がり、ゆえに口元も汚れない。作法は一つできるとほかにも繋がっていくものなのです。
小笠原先生 その方が丁寧で良いのですが、しばらくお料理に手をつけないままで時間が経過することは、お料理を作ってくださった方や食材に対して失礼です。上の立場の方や年長者などが、ひと言「召し上がりながら」とお声をかけてくださるとよいかと思います。
石井 こういう八寸で何種類も出てきた場合、食べる順番などの作法はありますか?
石井 歯型にも作法があるとは(笑)。
小笠原先生 それは「手で受けてまで食べたい」という品格に欠ける印象をつくってしまうので避けましょう。そのような時に持っているとよいのが懐紙です。受け皿の代わり、あるいは果実の種や魚の骨などを包むのにも使えます。かさばらず、心づけを包む際にも使えるので、持参なさると便利です。
【ポイント】
■ お椀の蓋は露切りをしてから音をたてないように置く
■ お箸に関する心得は和食の作法の基本。一連の動作を身につけて。箸先の汚れは3㎝程度にとどめることで不快感をつくらない
■ こぼさないよう手で受けるしぐさはNG
■ 懐紙は皿にも手拭きにもなる万能アイテム
心づけも粋に。理由を理解して礼儀作法を自分のものに
小笠原先生 お茶室に入る時、足袋を履き替える、または洋服の場合は白い靴下に履き替えるように、和室では不浄なものを嫌います。海外にもチップの文化がありますが、日本においては様々な人が触るお金も不浄と捉え、紙で包むことで清浄化してお渡しします。ポチ袋がなくても、お懐紙で包みを作ることができます。簡単ですので、お教えしますね。できたものをお財布にひとつふたつ入れておくと、すぐにお渡しできて素敵ではないかと思います。
小笠原先生 「よろしくお願いいたします」という気持ちで最初にお渡しする場合と、満足のいったサービスやもてなしに対して「ありがとうございます」と帰りがけにお渡しする場合、どちらも考えられます。
石井 なるほど、2千円札はもらった方もうれしいですね。偉い人ではなく、大切な仕事をされている方に渡すというのも素敵ですね。見習います!
田中 礼儀作法はちゃんと習うことがないので、自己流になってしまうと思うんです。だからこうやって改めて学べたのはすごく良い機会だったのではないでしょうか。
小笠原先生 理由がわかっていることは、いい意味でご自身の自信にも繋がります。その自信がゆとりになって、結果、相手や周囲に対する思いやりや品格に繋がると思います。
石井 女性との大切な席でも、もうあたふたしないのは助かります。万が一謝ることがあっても、カッコよく謝れるオトナを目指します(笑)。今日はありがとうございました!
【ポイント】
■ 懐紙を折れば心づけを入れる袋に。財布等に常備しておくべし
■ 渡すタイミングはサービスの前でも後でもOK。
■ 理由を理解すれば、礼儀作法は自分の自信に
● 小笠原敬承斎(おがさわら・けいしょうさい)
小笠原流礼法宗家。小笠原忠統前宗家の実姉・小笠原日英尼公の真孫。聖心女子学院卒業後、英国留学。副宗家を経て、1996年小笠原流礼法宗家に就任。約700年の伝統を誇る小笠原流礼法初の女性宗家となり、注目を集める。伝統ある礼法を現代に活かしながら、学校・各種団体・企業等における講演や研修、執筆活動など、様々な分野に活動の場を広げている。聖徳大学・聖徳大学短期大学部客員教授。
著書に『親子で学ぶ礼儀と作法』(淡交社)、『外国人に正しく伝えたい日本の礼儀作法』(光文社)、『誰も教えてくれない男の礼儀作法』(光文社)他多数。
HP/小笠原流礼法宗家本部
● 田中康嗣(たなか・こうじ)
「和塾」代表理事。大手広告代理店のコピーライターとして、数々の広告やブランディングに携わった後、和の魅力に目覚め、2004年にNPO法人「和塾」を設立。日本の伝統文化や芸術の発展的継承に寄与する様々な事業を行う。
■ 和塾
豊穣で洗練された日本文化の中から、選りすぐりの最高峰の和文化体験を提供するのが和塾です。人間国宝など最高峰の講師陣を迎えた多様なお稽古を開催、また京都での国宝見学や四国での歌舞伎観劇などの塾生ツアー等、様々な催事を会員限定で実施しています。和塾でのブランド体験は、いかなるジャンルであれ、その位置づけは、常に「正統・本流・本格・本物」であり、そのレベルは、「高級で特別で一流」の存在。常に貴重で他に類のない得難い体験を提供します。
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