2020.05.06
VOL.01「ヘミングウェイの流儀」
領収証で分かった、ヘミングウェイの愛用品
常に独自の視点で独自の音楽を生み出していくDJとして世界中で活躍する田中知之(FPM)さん。音楽のみならずファッション、時計、クルマ、グルメとオールジャンルでの博覧強記を駆使した田中流「男の定番」をご紹介する連載です。
- CREDIT :
文/田中知之 イラスト/林田秀一
■Theme01「ヘミングウェイの流儀」
編集部から声をかけてもらった時に咄嗟に思い浮かべたのが『ヘミングウェイの流儀』(今村楯夫、山口淳 共著 日本経済新聞出版社刊)と“ちょい不良”というLEONの精神性とかけた「ちょいウラ」というタイトルだった。180度の真裏でなく、少し捻った目線の話を諸兄と共有していきたい。
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しかし、ジャック・パーセルのスニーカーやL.L.beanのビーン・ブーツなどにいち早く目をつけたヘミングウェイの審美眼には恐れ入る。本書によると、旅行先のハワイでショートパンツにジャック・パーセルを合わせて着用する写真の日付は1941年とあるし、ビーン・ブーツにいたっては、最初に履きはじめたのは1910年代半ば、つまりL.L.bean社が設立されて間もなくのことだそうだ。
今でこそいずれも定番中の定番であるが、彼がチョイスした時点では発売されたばかりの新製品だった。これはヘミングウェイに限らず、他人のスタイルに憧れて、その人の愛用品を手に入れるのは決して恥ずべき行為ではない。ただ最終的には自らの眼力で定番を見定め、たどり着き、愛用するのが理想だろう。私はそのためのフィロソフィーをこの本のページをめくる度に学んでいる。
ところで、この著者のひとりであるファッション・ライターの山口淳さんが急病でお亡くなりになったのは今から6年前。生前何かと気にかけていただき、多くのことを教わった。確か私より6歳年上だったから、とうとう同い年になってしまう。急に懐かしくなり、氏のツイッターを久しぶりに覗いてみると、亡くなる少し前まで頻繁につぶやかれている。
当然私のアカウントもフォローしてくださったままである。最後の数日間を拾い読みしただけでも、映画『燃えよドラゴン』でブルース・リーが墓参りのシーンで着用していたスーツとシャツは菊地武夫さんのメンズビギ製だったという話とか、コルビュジエの眼鏡の材質やメーカーを特定しようとした話だとか、非常に興味深い情報の山がそこにあった。
「ヘミングウェイの遺した領収書の裏から未発表の詩が発見されたこともあったんだよ」と山口さんはおっしゃっていたのだけれど、私にとっては氏のツイートがまさにそんな感じであった。そして、今更ながらではあるが、いくつかのつぶやきに私はそっと“いいね”を押しておいた。
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田中知之(FPM)
1966年京都生まれ。
音楽プロデューサーでありDJ。それでいてクルマも時計も大好物。
ヴィンテージにも精通し、服、
家具問わずコレクターであり食べログアワードの審査員も勤める。
www.fpmnet.com