「居酒屋は得意だけどフレンチはちょっと……」なんてことにならないよう、大人の男としては、最低限のマナーは押さえておきたいところです。今回は食空間プロデューサーの山野舞由未さんに、オヤジの嗜みとして、知っておきたい西洋料理のテーブルマナーについて教えていただきます。
テーブルマナーの知識があると、どんないいことがあるのか?
山野舞由未先生(以下、山野) 少し前、京都の割烹の方が、「教養は身に付けていることに意味がある。その教養を、一度、実践で使うことができれば、それで充分だ」とおっしゃっていて、本当にそうだなと思ったものです。教養は身に付けておいて損になることはありません。
山野 テーブルマナーの知識があると、いいレストランで食事をしていても余裕が持て、食事や会話に集中できます。そして、その余裕は一緒に食事をするお相手やお店の方にも思いやりにもつながっていくと思うのです。
山野 それにノーベル賞授賞式の晩餐会や、天皇陛下が開催される宮中晩餐会に招かれる可能性もゼロではないでしょう(笑)?
── 確かに(笑)。いつその日が来てもいいように、今のうちに知識を身に付けておかないと。
テーブルマナーには意外な歴史がある
山野 紀元前2500年頃の、古代エジプト・イセシ王時代の指導書には、「人々と一緒に食事をする場合には目上の人に従うこと」「みんなが笑ったら、あなたも笑うこと」といった趣旨のことが書かれていたそうです。
── 手づかみ! フランス人、けっこうワイルドだったんですね(笑)。
山野 古代ローマ時代の正式な会食では、うつぶせや横向きの状態で寝そべって食べるのがしきたりだったそうです。それが時代と共にスタイルを変えていくのですが、中世までは多くの国では主人(ホスト)がナイフで肉や魚を切り分け、ゲストはそれを手づかみで食べていたのだとか。汚れた手や口はテーブルクロスやナプキンで拭うのが一般的でした。
山野 概ねそうなのですが、そうすんなりとはいきません(笑)。この『食事作法の50則』を基本形として、対立するイギリスとフランスでは、それぞれ別のアレンジが加えられました。その結果、大きくフランス式とイギリス式の2つの形式の西洋料理のテーブルマナーが存在することになり、現在の日本でも両者が混在しています。
同じヨーロッパでもフランスとイギリスではマナーが違う
山野 後編の実践編で改めて解説しますが、いちばんの違いは食事を終えた後のナイフとフォークの置き方です。フォークの使い方も違います。イギリスでは料理をナイフでカットした後、料理はフォークの背に乗せて食べます。一方、フランス式では、カットした料理はフォークに刺し、フォークで刺しづらい料理はフォークの腹(くぼんでいる側)に乗せていただきます。
山野 マナーやしきたりは国や時代によって変化するもの。シチュエーションに合わせた柔軟な対応が求められます。異なるマナーが存在するのはややこしいですが、きちんとしたマナーを知っていると自信を持って堂々と振舞うことができすますし、お店の方からも一目置かれますよ。
それにあまり難しく考える必要はありません。食事がどのような意味を持つ時間かと考えれば、マナーは自然とついてくるものです。
西洋の食事は会話を楽しみ、日本では黙食が基本
山野 例えば、西洋料理では食べる時に音を立てるのはマナー違反ですが、日本ではお蕎麦などは音を立てて食べたほうが美味しいとされていますよね。お茶漬けのCMなどはあえて音を立てて食べています。音を立てずにお茶漬けを食べているシーンを見せられても、あまり食欲をそそられないでしょうね。
── それはそうですね(笑)。
山野 欧米とアジアでは、もともと食事の時間に対する考え方が違うんです。欧米では、食事は会話を楽しむための時間であり、コミュニケーションの場です。例を挙げると、西洋料理では、肉料理は一度にすべて切ってしまわずに、口に運ぶごとにひと切れずつ切っていただくのがマナーです。
パンもがぶりつくのではなく、ちぎってバターを付けて口に運びます。がぶりついたら会話ができませんから。パンをちぎったり、バターを付けている間に会話を楽しむのです。
── なるほど、マナーが気遣いであり、思いやりだという意味がなんとなくわかってきました。
山野 繰り返しになりますが、マナーの知識に裏付けされた余裕は、周囲への思いやりにもつながりますし、何より食事の時間がより楽しくなります。そして、これは私見ですが、マナーも大事ですが、男性の場合、いかに女性をエスコートできるかも大切だと思います。スマートのエスコートしてくれる男性はやはりカッコいい! 店に出入りする際、ドアを押さえてくれるだけでも、キュンとしてしまう女性はたくさんいるはずですよ(笑)。
── 確かにそうですね。
※後編(12/22公開予定)に続きます。
● 山野舞由未(やまの・まゆみ)
食空間プロデューサー/テーブルスタイリスト。2児の子供のイギリス留学に伴いイギリスに語学留学。その際、英国式紅茶と食卓芸術に興味を持ち、テーブルコーディネートを学んだ。現在、さまざまな百貨店や和洋食器ブランドのディスプレイや販促セミナーも数多く手がける、食空間全体を演出するプロフェッショナルとして活躍している。日本紅茶協会認定ティーインストラクター。福岡市内で紅茶とテーブルコーディネートの教室を主宰。