カトラリーの置き方もギリスとフランスでは違う
山野舞由未先生(以下、山野) こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。ショープレート(位置皿)を中心に左側にフォーク、右側にナイフやスプーン、上部にデザート用のフォークとスプーンを置いています。これが、オードブル、スープ、魚、肉、デザートの5コースの場合の基本の並びです。ワイングラスは、シャンパングラス、白・赤用それぞれのワイングラス、お水用のグラスをセットしました。このセッティングを見て、何か気になるところはありますか。
山野 そうですね、カトラリーの向きが気になるという方は多いと思います。実はカトラリーのセッティングの仕方も、フランス式とイギリス式では異なるのです。こちらはフランス式のセッティング。フォークの刃を伏せるように置いています。
一方で、イギリス式ではフォークの刃は上向きになるように置くのが慣習です。今回、用意したのは、フランスの老舗カトラリーメーカー、クリストフルのものですが、これだけ背の部分に装飾があるのですから、こちら側を見せたいということはご理解いただけるかと(笑)。
かつてヨーロッパの上流階級の方々は銀の食器に家紋を入れる習慣があり、カトラリーの場合、イギリスでは表面に、フランスでは裏面に刻印していたのだとか。そのため、フランスでは刻印が施された裏面を見せるかたちでセットする風習が残っているのです。
山野 位置皿は初めからセットされているもので、位置皿という名前の通り、「ここの前に座ってくださいね」という意味合いで置かれています。また、お客様をもてなす際の“見せる”お皿でもあり、おっしゃる通り、その家の自慢の皿が使用されることが多かったようです。
ナプキンはいつ膝に載せればよいのか
山野 着席後すぐに広げると料理を催促している印象を与えてしまいます。主賓や目上の人が手に取った後、そして、食前酒や前菜が運ばれてくる少し前がベストなタイミングです。位置皿の上にナプキンが置いてある状態ではスタッフは位置皿を下げることができませんから。
山野 ナプキンは二つに折り、輪(折り目のある方)を手前にして膝に置きます。ちなみに、お着物を召された方が、ナプキンを襟元にかけて使っていらっしゃるのを時々お見受けしますが、あれはマナー違反です。また、ナプキンを落としても自分では拾ってはいけません。カトラリーも同様ですが、スタッフを呼んで拾ってもらってください。
山野 暗殺が日常的にはびこっていた中世は、ナプキンの折り目を自分の方に向けることで、“私は武器を隠し持っていませんよ”ということをアピールしていたのだとか。その名残りです。私もナプキンの中にナイフを隠せるかどうか検証してみたのですが、結構、難しいですね、ナプキンの中にナイフを隠すの(笑)。
山野 中座する際にナプキンはきちんとたたまず、やりすぎない程度に、無造作に椅子の上に置きます。椅子の背もたれにナプキンをかけるのはNGです。また、ナプキンに付いた汚れを隠してたたむようにしましょう。
食後はやはり軽くたたみ、今度はテーブルの上に置きます。生真面目な日本人としてはキレイに畳みたいところですが、ナプキンをある程度くしゃくしゃにして置くことは、「美味しい料理に感動してナプキンをたたむのを忘れてしまった!」という意味を持ち、“美味しかった”というサインでもあるのです。
ナプキンで口を拭っていいのか?
山野 ナプキンが汚れるのはまったく構いません。むしろウェルカムです。ナプキンでなく、自分のハンカチなどを使ってぬぐう行為は、「このナプキンは汚れていて使えない」と捉えられてしまうこともあるので避けたほうがいいでしょう。汚れた口や手を拭う時は、ナプキンの端を持ち上げ、内側を使い、周囲の人に汚れが見えないようにします。
山野 あまりお行儀のいい行為ではありませんが、皿数の多いコースは時間を要しますから、途中で化粧室に行きたくなることもありますよね。ただ、離席のタイミングはきちんと見極めましょう。食事が終わり、デザートが出てくるまでの間がベストですが、やむをえない場合は、ひとつの料理が終わって食器を下げてもらった時に席を立つといいでしょう。
カトラリーは外側から順番に使っていく
山野 その通りです。ただ、LEONの読者のようなイケおじの方はよくご存知だと思うのですが、今の若い方の中には知らない方も少なからずいらっしゃいます。そのため、最近では、ずらりとカトラリーを並べるのではなく、料理ごとに提供するお店も増えています。とはいえ、グランメゾン(ミシュラン3つ星クラスの高級フランス料理店)に行けば、数々のカトラリーが整然と並べられていますし、ノーベル賞授賞式の晩餐会でも、宮中晩餐会でもその日の料理に使うカトラリーがセットされています。
山野 たしかに、ソースを使ったお料理のために、スプーンがセッティングされていることもありますよね。「(左右にあるカトラリーの)数が合わないじゃないか」と迷ってしまうかもしれませんが、わからなければ、お店のスタッフに聞いてみてもいいでしょう。また、使いたければ使ってしまっていいんじゃないかと。大抵はそれが正解です(笑)。仮に例え間違った使い方をしてしまっても、お店のスタッフはサービスのプロ。さり気なく不要なものは下げ、必要なものは追加で並べてくれます。焦る必要はありません。
フレンチではコース料理の場合、料理の交換やシェアはしない
山野 料理のシェアや交換は高級店ではNGです。アジアでは一つの料理をシェアしていただくことが多いのですが、欧米では基本的に料理は個々にサーブされます。コミュニケーションは共有するけれど、お皿は共有しないのです。昨今のご時世的にも避けたほうがいいでしょう。
また、日本人にとってはスープのいただき方は少し難しいかもいしれませんね。西洋料理においては、食べ物を音を立てていただくのはご法度。そして、フランス式とイギリス式では、スープのいただき方が違うのがまたやっかいなんです(笑)。フランス式は、お皿の奥からスプーンを入れて、手前側に向かって縦方向にスープをすくい、スプーンは縦方向のまま口に入れます。一方、イギリス式では、お皿の手前からスプーンを入れてお皿の奥側に向かって、縦方向にすくい、スプーンは横向きで口に入れます。
食事を終えた時のカトラリーの置き方も英仏は違う
山野 前編でも少し触れましたが、フランス式とイギリス式の決定的な違いは、食事を終えた後のフィニッシュの位置です。食事中に手を休める時は、皿の上にハの字(フォークは左、ナイフは右)になるように置きます。その際ナイフの刃は内側に向けて置きます。それはフランス式もイギリス式も同じです。
山野 どうなんでしょう。私の夫は、「(食事終了のカトラリーの位置は)フランス式では3時の方向だとは知っているけれど、俺はあえてこう置いているんだ」と謎の自分ルールを主張します(笑)。彼なりのこだわりなのでしょう。ただ、マナーは人に押し付けるべきものではないですし、相手に恥をかかせてはいけません。いちばん大切なのは、気持ちよく、楽しく食事をすること、これに尽きます!
食事の際、スマホで失敗しない心得
山野 見解が分かれるところではありますが、私も後学のために記録しておきたいタイプ(笑)。お店にひと言、「写真、撮っても大丈夫ですか」と、許可を取ればよいのではないでしょうか。ただし、手短かにパパっと済ませたほうがスマートですね。
山野 やめたほうがいいでしょう。少し前に、ある方に食事に招いていただいたのですが、私との食事の最中にスマホをご覧になって、すぐに返信をされていたんです。雑に扱われているようで、いい気分はしませんでした。せっかくの食事の時間なのですから、その時間は相手と向き合うべきだし、それができないのならそもそも食事に誘わなければいい。素敵な男性でしたが、もう二度とご一緒しません(笑)。
山野 どうしてもチェックが必要なら、相手が化粧室などで離席している時に、ささっと済ませるのがよいかと。マナーは食事を楽しく、美味しくいただくためのもの。そして、前編でもお話したように、マナーを守ることは、一緒に食事をする相手やお店の方への思いやりでもあるのです。
── そのためにもマナーという教養を身に付けておくことが大事なのですね。少し緊張するような高級店でも、知識に裏付けされたオトナの余裕をもって食事を楽しめるようにしたいものです。先生、今日はありがとうございました。
● 山野舞由未(やまの・まゆみ)
食空間プロデューサー/テーブルスタイリスト。2児の子供のイギリス留学に伴いイギリスに語学留学。その際、英国式紅茶と食卓芸術に興味を持ち、テーブルコーディネートを学んだ。現在、さまざまな百貨店や和洋食器ブランドのディスプレイや販促セミナーも数多く手がける、食空間全体を演出するプロフェッショナルとして活躍している。日本紅茶協会認定ティーインストラクター。福岡市内で紅茶とテーブルコーディネートの教室を主宰。