2020.06.17
VOL.07「フランス軍のモーターサイクルコートM38」
パリの蚤の市で出逢った『サイボーグ009』みたいなコート
常に独自の視点で独自の音楽を生み出していくDJとして世界中で活躍する田中知之(FPM)さん。音楽のみならずファッション、時計、クルマ、グルメとオールジャンルでの博覧強記を駆使した田中流「男の定番」をご紹介する連載です。
- CREDIT :
写真/鈴木泰之(Studio Log) 文/田中知之(FPM) イラスト/林田秀一
■ Theme07「フランス軍のモーターサイクルコートM38」
今から30年くらい前に初めて仕事でパリを訪れた時、クリニャンクールの蚤の市に出店していたミリタリー専門の古着屋で初めて見かけた瞬間、咄嗟にそう呟いてしまった。丸みを帯びたダブル合わせの前立てのラインに沿うように配されたボタンをしげしげと見つめる私に、その店のベレー帽がよく似合う咥えタバコのムッシューは「これは古いフランス軍のバイク部隊用のオーバーコートだ」とフランス語訛りの英語で教えてくれた。

M38の名前のとおり1938年に登場し、1950年代まで製造されていたのだが、私が所有するのは、ザックリとしたモスグリーンのコットンキャンバス生地製で、竹を削り出して作ったボタンが付属する最初期のタイプ。表面に糸穴のないバンブーボタンがサイボーグ009感を余計に醸し出しているが、50年代に近い後期モデルになると、ボタンは四つ穴の樹脂製となる。素材もキャンバス生地が少しなめらかになり、色目も緑が濃くなるが、基本その佇まいは変わらない。
本来、ボタンで脱着できるウール製のライナーも付属するのだが、中古市場ではライナー付きのものは珍しく、実は私もライナーは所持していない。しかし、脇下には通気孔も空いているし、背面のヨーク下はベンチレーションになっていることもあり、真冬の防寒用コートというよりは、スプリングコートとして着用している。
しかし、さすがバイク乗車時の風除けの仕様でデザインされているだけあって、丸襟を立てて極太のチンストラップで留めると、チン(顎)どころかすっぽりと鼻先くらいまでを覆い隠すことができるのだが、全世界を襲った新型コロナウイルス問題でマスクが品薄となったこともあり、私はこの仕様を外出時のマスク代わりとして重宝してしまった。誠に皮肉な話ではあるのだが。
味わいと渋さを醸し出す最初期のモデル

より実用的に進化した50年代の後期型



田中知之(FPM)
1966年京都生まれ。音楽プロデューサーでありDJ。それでいてクルマも時計も大好物。ヴィンテージにも精通し、服、家具問わずコレクターであり、食への造詣も深い。 www.fpmnet.com
※掲載商品はすべて税抜き価格です
■ お問い合わせ
ストレイシープ 有楽町店 03-6252-5434