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2024.06.16

何ひとつ不自由ない暮らしの隣で行われていた人類史上最悪の虐殺

世界のラグジュアリー人脈に通じ、社交界の裏事情にも詳しい謎の有閑マダム、カトリーヌ10世さんが、日本の男性諸氏が陥っている、ファッションと恋愛の無自覚・無意識の怠慢に覚醒を促し、読者を洗練へと導く連載です。

CREDIT :

文/カトリーヌ10世 イラスト/ユリコフ・カワヒロ

謎の有閑マダム、カトリーヌ10世さんが、日本の迷える男性諸氏を洗練へと導く連載。今回のテーマは……。

■ 「無関心のおそろしさに目覚めなさい」

現在公開中の映画『関心領域』は、不条理な現代を生きる人たちにご覧いただきたい作品です。

映し出される映像は、小市民的で幸福な生活を送る家族の淡々とした日々の記録です。家長は任務に忠実な国家公務員、庭には美しい花々が咲き乱れ、プールもあり、家政婦までいて、何ひとつ不自由ありません。

ただ、合間、合間に壁の向こうから「音」が聞こえ「煙」が見えます。家族には環境音でしかないその音から、私たちは何が起きているのかを想像せざるをえなくなります。壁を共有するお隣は、人類史上最悪の虐殺が行われた場所、アウシュビッツ収容所なのですから。そこから出てくる「灰」がこの家の庭の豪華な花々の養分になっているのです。
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日々の生活が平穏であるかぎり、隣で起きていることには不介入で無関心。万一、何が起きているのか知っているとしてもどうすることもできないから、結局は無関心を貫く。この話は1945年の異国の家庭の日常ではなく、2024年の私たちの日常であることに気づかされる監督の手法に唸ります。アカデミー賞国際長編映画賞と音響賞受賞も納得です。「音」だけでホロコーストのもうひとつの恐怖、人々の「無関心」がもたらす恐怖を描ききったのですから。
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いまも地球上のあちこちで不条理な戦争や虐殺が起き、日本でも貧富の格差拡大を背景とする悲惨な事件や行政の機能不全に端を発する社会問題が後を絶ちません。それでも自分をとりまく日常の平和が保たれている時、私たちは与えられた日々を幸せに生きることだけ考えます。しかし、そんな振る舞いは、大虐殺実行者のカルチャーと変わらないぞ、と監督は示唆するのです。

映画を見て、人間の無関心の恐ろしさに「目覚めなさい」。たとえどうすることもできなくても、両義性のなかに生きねばならない痛みを自覚するだけで、あなたの人間的な深みに違いが生まれるでしょう。

カトリーヌ10世

グローバル化が進む社交界事情にも通じる。密かな趣味は人間観察とコスプレ。好きな飲み物はモンラッシェ。日本ではほとんど知られていない、ある小国の女王とのウワサも!?

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