社長からの極秘ミッションは「君の彼女ということに」

人気放送作家にして戦略的PRコンサルタントでもある野呂エイシロウさんが、世の恋するオヤジさんたちの愛すべき艶話をこっそり披露する連載。今回のテーマは……。

トム・クルーズ主演の映画『ミッション：インポッシブル』は当然知っているだろう。あれを地で行く男がいる。

ある晩、社長から緊急のLINEが入った。「かみさんに彼女がバレて乗り込まれた。この女は君の彼女ということにして、君の昇進内定祝いをすることにした。今すぐマンションに来て口裏を合わせてくれ」と。「君が捕まり殺されても当局は一切関知しないものとする」というお決まりの台詞が脳裏をよぎった。

指定された部屋に入ると、ひとり掛けソファに社長。そして、両側のソファに女性がふたり。どっちも似ている。「いったいどっちが奥さんで、どっちが愛人なんだ」と迷ったが、ハンドバッグを持っていないほうが愛人だと睨み、「どうしたの？」と親しげに座った。

一応正解。社長は懸命に会話を盛り上げる。彼は尿意を催すが、初めての“愛人宅”なのでトイレの場所も不明。一か八かである部屋へ。万一違っていても、ゴミ箱などで用を足そうと扉を開けると、運良くトイレ。冷や汗が溢れる。なんとか謎の昇進祝いは終わり解散。

翌日、奥さんのほうから「ついてきなさい」と連絡。向かった先は、昨夜のマンション。奥さんは「うちのと別れてくださいね」と、現金の束の入った封筒を愛人に渡し、彼も「お芝居ご苦労様」と10万円を押し付けられたという。彼のミッションは見事に大失敗。「夫には内緒よ」と、ミイラ取りがミイラになり極秘ミッションが失敗した瞬間である。ちなみに未だに彼は社長のしもべである。ほかの極秘ミッションは追ってご報告する。