2021.01.13
あなたは人前でいつまでも同じ自慢をしていませんか?
日本一発信力のあるバーのマスター、林 伸次さんが上梓した話題の新刊『大人の条件』から、オヤジさんにもぜひ読んでいただきたい、いくつかの章をご紹介します。第1回は「いつまでも同じ自慢をする人たち」。
- CREDIT :
文/林 伸次 写真/トヨダリョウ(林さん)
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■第1回
いつまでも同じ自慢をする人たち
大学時代の話をし続ける人
でも、もういい年をしている人から僕とは関係のない大学のときの話を聞かされたりすると、なんだか小学生のときにかけっこで一番になった話を聞かされているみたいで、苦笑いしてしまいます。
どうして彼らはずっと大学の話をするんでしょうか。その彼らの大学は、おそらく「偏差値の低い大学」ではないですよね。たぶん有名大学でないと、そんな大学の話はしないはずです。申し訳ないのですが、結局その話って自慢話なんです。
ところで、みなさん自慢はしますよね。僕もするし、しないと思っている人もどこかで自慢話をしてしまっているものです。でも、問題はその内容なんです。
あるとき、自分の家系を何度も何度も自慢する方がいたんですね。「どうしてなんだろうなあ」ってずっと考えていたら、その人にとって自慢できることって家系だけなんじゃないかと気がつきました。その人、他のことが全然うまくいってないんです。だから唯一自慢できる家系についてついつい話してしまうんです。
例えば、フィギュアスケートの織田信成さんっていますよね。あの方すごい家系だと思うのですが、たぶんそんなこと自慢しないと思うんです。ネタにはすると思いますよ。だってみんなびっくりしますからね。でも、それで「どうだ俺はすごいぞ」ってことは思っていないと思うんです。というのは、彼はそれよりも「自分自身が努力して、オリンピック出場を果たしたフィギュアスケーター」だったことに自信があるはずだからです。
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自慢に置かれたある「ライン」
同様に弁護士であることを自慢する人は「弁護士」という職業や資格がその人の最高ラインなんです。もう少しラインが上の人は弁護士としてどんな人たちを助けたか、どんな事件を扱ったかというのを自慢のネタにするはずなんです。他にも、ノーベル賞を取った人が「東大出身だ」とはまさか自慢しないですよね。ノーベル賞を取る研究がいかに難しかったかを話すことはあると思うのですが、東大の入試が難しかったという話はしないでしょう。
「出身地」を自慢する人もいますよね。東京出身、ニューヨーク生まれ、京都の一部の地域生まれ、まあいろいろあると思いますが、もう言わなくてもわかりますね。出身地を自慢する人ってそれくらいしか自慢できることがないんです。それは切ないですね。
どうですか? あなたも僕も、ついつい「何か」を自慢してしまうと思います。僕も自慢します。例えば僕はメディアで連載を持っていることや本を出していることを自慢してしまいます。もし僕がベストセラーを出してたり、本が映像化されてたり、賞を取ってたりしたらそちらを自慢すると思います。だから今自慢していることが僕の限界です。
そうなんです。自慢するポイントは人の「限界」なんです。
あなたの限界はなんですか? 大学ですか。会社名ですか。役職ですか。それをもう少し上の方に持っていきたいと思いませんか?
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● 林 伸次 (はやし・しんじ)
1969年徳島県生まれ。早稲田大学中退。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年渋谷に「bar bossa」をオープン。2001年、ネット上でBOSSA RECORDSを開業。選曲CD、CD ライナー執筆等多数。cakesで連載中のエッセー「ワイングラスのむこう側」が大人気となりバーのマスターと作家の二足のわらじ生活に。近著に小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる』(幻冬舎)、『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』(旭屋出版)など。最新刊はcakesの連載から大人論を抜粋してまとめた『大人の条件』(産業編集センター)。